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ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ドラえもんがフランスで放送禁止というのはウソである、意識高いイヤミは反省しなさい

STAND BY ME ドラえもん

 

ドラえもんは、いまや世界的に愛されるアニメでございますが、こんな話があります。

jin115.com

辻仁成が、とあるラジオ番組で、「現地の教育委員会が「あんなドラえもんみたいなヤツがいたら子どもが成長しない」「子どもが困ったときに、なんでもドラえもんに助けられて、次々に(ひみつ道具を)出されると困る」との意味から、同作の放送がNGとなっている」と言ったんだそうで。ほえええ*1

 

私は作家辻仁成を、「意識高いイヤミ

おそ松さん イヤミ 今夜は最高アクリルキーホルダー

としか認識しておらず(失礼)、この発言も非常に疑わしく思いました。

 

というわけで早速調べてみると、完全なデマであることがわかったので、嬉々として糾弾したいと思います。

 

 

***

 

さて、本当かどうかは、現在ドラえもんがフランスで放送されているかどうかを調べればいいわけです。

 

調べると、フランスのテレビ会社のBoingが放映権をもっていることがわかりました。

www.boingtv.fr

おいおい、辻さん、いきなり見つかっちゃったじゃないですか。番組表によれば*2、本日3月3日は0:00、2:05、5:25の3回も放映します。

 

実際の番組を見るまでは信じられないという方は、以下のページからお試しで視聴が出来ます。

 

Toutes les vidéos Doraemon | Boing France

 

のびたがフランス語でママに怒られる様子を見ることが出来ます。なんかすごい違和感。

 

とにかく、現在フランスでドラえもんは絶賛放映中です。辻仁成はいったいどのフランスに住んでいるのか。

 

 

辻さんの発言には疑わしい部分がまだあります。

 

教育委員会」が「禁止」したという表現を使っていますが、日本の「教育委員会」にあたるものとしては、フランスでは「国民教育視学官(Inspecteur de l'éducation nationale)」というものがあります。フランスは「地域圏→県→市町村」の3つの行政レベルがありますが、それに沿って「大学区総長→大学区視学官→国民教育視学官」と、教育行政も分かれていきます*3。日本の「教育委員会」に強いてあたるとすれば、この「国民教育視学官」でしょう。

 

しかし、基本的に国民教育視学官は、その名の通り、「教育行政」を司る機関であり、各学校に関しては一定の裁量権をもっていますが、「放送を禁止する」なんて権限はもっていません*4

 

「放送禁止」ができるとすれば、「視聴覚最高評議会(Conseil supérieur de l'audiovisuel)」略称「CSA」です。

www.csa.fr

CSAは、「有害な影響をもつプログラム」から青少年を守るために、テレビ番組にレーティングをつけています。レーティングは5段階あり、

①全年齢対象

②10歳以下視聴制限

③12歳以下視聴制限

④16歳以下視聴制限

⑤18歳以下視聴制限

 となっております*5。これは2002年に作られたもので、「フランス文化の保持」の側面もあるのか、なかなか強力そうです。

 

しかし残念ながら、「CSA Français DORAEMON」で検索をしても、「ドラえもんを放送禁止にした」というような内容の記事はヒットしません。ここまでヒットしないなら、もうこれはデマですって*6

 

では、このデマの発端はどこなのか。

 

実は、実際に国が放送を止めた国があります。バングラデシュです。

www.nikkei.com

バングラデシュで、「ヒンディー語で放映されているため、公用語ベンガル語の学習の妨げになる」として、ドラえもんの放映を禁止したんだとか。一応現地の報道や反応もソースでのっけておきます。

newsfrombangladesh.net

 

 

archive.thedailystar.net

ベンガル語はさすがによくわからなかったので、英語記事ばかりですが、基本的にはインドの言葉である「Hindi」ばかり話され、公用語のベンガル語がおざなりになる、という感じの意見です。

その中で、こんな記事もありました。

 

Cover Story | The Telly Effect

 

ここでは次のようにドラえもんについて述べられています。

 

親たちは、子どもの行動が、のび太のようにうるさく、不平を言うような態度に変わってきていることに気付いた。

「私の息子はこのテレビに狂ったようになりました。彼はのび太と同じように癇癪を起こすことをよいことと思っていました」*7

 

つまり、もちろん全員ではないにせよ、バングラデシュでは、少し前の日本のように、テレビが子どもに与える影響について心配する向きがある、ということです*8。このような内容の話が、いつのまにかフランスにすり替わってしまったんではないでしょうか。

 

ということで、日付を調べてみたんですが、バングラデシュのこの話は2013年2月の話でございまして、これより前に、「ドラえもんが放送禁止」みたいな話が出なければいいので、どれどれと調べてみたら、おお、ほとんど出てこない!

フランス ドラえもん 放送禁止 - Google 検索

と思ってこの線で行こうと思ったら、残念、2010年4月30日の知恵袋に、以下の記載がありました。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

たとえば、フランスでは、主人公であのび太が、ドラえもんに頼りすぎていて、小さい子達の教育上良くないとされ、フランスではドラえもんは放送禁止です

 

ということは、このころには既に「フランスでドラえもんが放送禁止」の情報は出回っていたわけです(あるいはこの知恵袋がデマの発祥と見ることも可能ですけれど、この程度の情報がそんなに広まるかな・・・)。ちなみに、「Doraemon : un anniversaire original pour le chat-robot venu du XXIIe siècle」という記事では*9、「en 2001 en Corée du Sud, et en France deux ans plus tard.」とあり、2001年の2年後、つまり2003年から放映が始まったという記述があります。もしかすると、知恵袋が書かれた2010年に、何らかの理由で放映禁止になった回があったのかもしれませんが、少なくとも確かな情報は得られませんでしたので、日本発祥のウワサであることは間違いないようです。

 

・今日のまとめ

 

○ドラえもんは現在もフランスで絶賛放送中であり、「ドラえもんが放送禁止になっている」はデマである

○フランスのCSAがドラえもんを放送禁止にしたという事実も存在しない。

○2013年にバングラデシュで実際にドラえもんが放送禁止になった。

○上記の出来事は公用語の保護を目的としているが、内容の面からの不安の声が現地にも存在している。

○フランスの話は、上記バングラデシュの話の混同とも思われたが、2010年ごろからすでに「ドラえもんがフランスで放送禁止」のウワサはあり、出所は明らかではない。

 

マッタク、こんなガセ話をラジオで堂々と話すなんて、辻仁成は反省しなさい!このままじゃ、ホントにイヤミみたいな「ミーはおフランス帰り」と自慢してるだけの人になっちゃうぞ。

 

 

 

 

 

*1:ただし今回の話、実際にラジオを聞いたわけではないので、本当にこのような発言をしたか、という質問をされると苦しい。この記事は、あくまで辻仁成が言ったと信じてのものとなりますこと、ご了承ください。

*2:Guide TV Boing | Tous les horaires de tes séries préférées | Boing

*3:各段階に国の出先機関として,大学区総長,大学区視学官,国民教育視学官が置かれる。

国立教育政策研究所より

https://www.nier.go.jp/seika_kaihatsu_2/risu-2-206_france.pdf(リンク先PDF)

*4:たとえば下記の視学官募集のページに書いてある仕事内容なんか見てもよくわかります。

Inspecteur de l'éducation nationale - Ministère de l'Éducation nationale, de l'Enseignement supérieur et de la Recherche

*5:CSA.fr - Recommandation du 7 juin 2005 aux éditeurs de services de télévision concernant la signalétique jeunesse et la classification des programmes / Recommandations et délibérations du CSA relatives à la protection des mineurs / Délibérations et recommandations du CSA / Espace juridique / Accueil

*6:ただし、Wikipediaに「要出典」の情報で、「130話が放映禁止になった」みたいな記述があるので、もしかすると、何かしらの理由で放映を止められた回があるのかもしれません。これは、青少年への表現規制に厳しい欧米ならばありうることです。

"Au total, 130 épisodes ont été doublés en français”

Doraemon — Wikipédia

*7:Parents also noticed behavioural changes in their children as they started to act in a manner similar to the show’s main lead, an annoying and whiny child called Nobita.
“My son used to be crazy about that show. He thought that it was fine to throw tantrums because Nobita would do the same.

*8:ちなみに日本でも、ドラえもんは有害図書だ、みたいな意見もあり、これは全く今回の辻さんの話と似通っています。ちょっと香ばしいブログですけど。

ドらえもんは差別を助長している、有害図書です|【三十路突入】ももりん日記【拝金主義者】

*9:Doraemon : un anniversaire original pour le chat-robot venu du XXIIe siècle | nippon.com - Infos Japon