ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
ストーリー展開になるので、コメディ成分がしばらく減ります
五部
12話
 愛用の装備をしっかりと着用したのを確認し、忘れ物は無いかをチェックする。

 冒険者は危険と隣り合わせの商売だ。
 準備の入念なチェックは、幾らやってもやり過ぎという事はない。
 準備に不足は無い事を確認し、俺は勢いよく立ち上がる。

「よし、行くか!」

 俺は同じく準備を終えた三人を見回すと、威勢よく声を掛けた。
「……ん、こっちは問題ない、何時でも行ける」
「私も何時でも行けますよ。今日は気分が良いので、極上の爆裂魔法を放てるでしょう」
 ダクネスとめぐみんの、どことなく嬉しそうな返事を聞きながら、俺は屋敷の玄関のドアに手を掛けて……。

「カズマってばどうしちゃったの? 昨日の夜、私が寝ちゃった後に何があったの?」

 そんな不思議そうなアクアの声を聞きながら、冒険者ギルドへと……!








「…………今日はもう帰ろうか。また明日から頑張ろうぜ」
「「早い!」」
 冒険者ギルドに着いた俺が、ドアを開けて開口一番に出した提案は、ダクネスとめぐみんによって却下された。

「ええー……。私はカズマに賛成よ。帰りましょう、帰りましょう。今日は混み混みだし帰りましょう。そして、帰ってお酒を飲んで、また明日から頑張るの」
「おっと、気が合ったなアクア。そうしようか。今日はもうモンスターは売り切れてるよ」

「コラッ、帰るな! モンスターはいつも通り平常運転だ、仕事は幾らでもある、とっとと行くぞ!」
 帰ろうとした俺とアクアがダクネスに首根っこを掴まれた。

 俺は、しょうがないとばかりにため息を吐きながら。
「……何でこんなに人が多いんだよ……」
 仕事を求めて掲示板に群がっている、大量の冒険者達の姿にうんざりして言った。

 大量の税金を納め、懐が寒くなった冒険者達。
 それらが目を血走らせて仕事を求めていた。
「山に巣を作った、ワイバーン狩りに行く人はこちらです! 現在、バインドが使える盗賊と、空の敵という事で、狙撃が可能なアーチャーなどは取り分が大きいですよー! 強敵ですが、実入りは大きいですよ! 参加者あと六人です!」

「森に昆虫型モンスターが大発生してまーす! 大量にいるので、こちらも人数を必要とします! 数十人による大規模な討伐となります、職不問、レベル不問!」

「平原にも草食型のモンスターが大量発生してますので、そちらの方もお願い致しますね。放っておくと、彼らを餌にする大型のモンスターが集まってきます、その前に駆除を願います。現在ギルドでは、様々な支援物資を無償で提供するキャンペーン中です! 討伐報酬も普段より上乗せです! この機会に頑張ってお仕事してくださーい!」


 あちこちでそんな声が飛び交い、人がバタバタと駆けて行く。
 今まで冒険者達がゴロゴロしていた分、モンスターに安全だと判断された街周辺には、かなりのモンスターが住み着いてしまっているらしい。
 贅沢に慣れてしまった冒険者達は、元の生活を取り返そうと必死で仕事を探していた。

「……よし、俺達も大規模なモンスター討伐に参加するか」
「是非ともっ!! 是非とも行きましょう、大規模狩りに!」
 俺の呟きにめぐみんが鼻息荒く賛同する。
 きっと、モンスターの群れのど真ん中に、爆裂魔法を叩き込みたいのだろう。

「私としては、大物の強敵の方がいいな……。大物のモンスターの重い一撃を食らって倒されて、それでも何度も何度も立ち向かい……痛たたたっ! な、何をする、めぐみん、髪を引っ張るのは……っ!」
 ダクネスが途中まで言い掛けて、めぐみんに髪を引っ張られて妨害された。
 今日のダクネスは、討伐に気合を入れている為か、長い髪を戦闘の邪魔にならないように、肩の辺りから先を三つ編みにし、左肩から前に垂らしていた。
 そして、その三つ編みは早速めぐみんのおもちゃにされている。

「この私の爆裂欲を邪魔するだなんて、なかなか良い根性してますね。ダクネスは昨夜、違う方の欲を満たしていたんでしょう? なら今回は私に譲るべきではないですかね!」
「ままま、待って……! 違う欲なんて別に満たしては……!」

 そんな二人は放っておき、俺はアクアと二人、掲示板の依頼を確認。
 美味しいと思える部類の依頼はあらかた持って行かれている。
 というか、他冒険者達がこれだけ頑張っているのだ、もう俺達は頑張らなくてもいいのでは無いだろうか。

 と、混雑するギルド内で冒険者達に各種支援物資の供給をしていた職員が、
「皆さん、森に大発生したモンスター討伐、頑張ってくださいねー! 今年の夏を快適に過ごせるかどうかは、皆さんの手に掛かっています! 是非とも増えすぎたモンスター駆除にご協力を……!」
 冒険者達に大声で、そんな激を飛ばしていた。

「……なあ、夏を快適に過ごすのと、モンスター退治がどう関係あるんだよ」

 俺の疑問にアクアが言った。
「? そんなの、モンスターが増えたら街の人達が近場の森で仕事が出来なくて困るからでしょ?」
「いや、そりゃ分かるんだがな、そんなの夏に限らず何時だって困るだろ」

 そんな俺の言葉に、めぐみんが。
「蝉です」

 ポツリと一言、忌々しそうに言ってきた。

 蝉。
 あのミンミン鳴く、夏の風物詩はここにも居たのか。
「そう。モンスターが森に蔓延っていると、蝉取り業者が仕事が出来なくて困るのだ。蝉取り業者が仕事が出来ないと言う事は、それは当然蝉が街まで飛来する。すると、当然街が蝉の音で喧しく、快適な夏を送れないと言う事だ」
 ダクネスが、めぐみんに三つ編みを揉まれながら真面目な顔で言ってくる。

「蝉が何だってんだよ。夏の風物詩だろ。あいつらは長く土で暮らした後、夏の間だけ短い命を振り絞って精一杯鳴くんだぞ。ちょっとばかり五月蝿いからって、可哀想な事すんなよ。そんなのは人間のエゴだし、その考えは俺は嫌いだな。……だから、俺はそんな蝉達をそっとしておく為、家に帰って寝るとする」
 言いながら、帰ろうとする俺の襟首を、ダクネスとめぐみんが同時に掴んだ。

「そう言えば。カズマはこの世界に詳しくないあんぽんたんだって事を忘れてたわ。いい事カズマ。この世界の蝉達はね、それはもう気合が入っているの。日本の蝉の命は一週間。でも、この世界の蝉は激しく生きる為に、その生命は5日と保たないと言われるわ」
 アクアが、腕を組みながら説明しだした。
 激しく生きるって言ったって。
「アレか、どうせここの蝉は何かあるんだろ? 飛び立つ時に引っ掛けていくオシッコが強烈に臭いだとか。蝉だってオシッコくらいするだろ、命が短いなら尚更そっとしといてやろうぜ」

 そんな俺の言葉に、めぐみんとダクネスが顔を見合わせる。
 こいつは本気で言っているのかとでも言うように。

「あのね、カズマ。この世界の蝉は、日本の蝉とは大きく違う所が二つあるわ。一つは、蝉の声量がとても大きい事。そうね、日本の蝉の二倍ぐらいだと思ってちょうだい」
 あの喧しいのが二倍の声量。
 いや、それは確かに迷惑だが……。

「あと……。この世界の蝉は夜だろうと鳴き続けるわ」

 超迷惑。








 街の近くの森の中。
 今までならば、こんな所に住み着くモンスターなどとっくに駆除されていたらしい。
 が、ここ最近の冒険者ニート化問題により、何処からともなくモンスターが住み着いた。

 そして現在。

「では、防御に自信がある前衛職の方は、モンスター寄せのポーションを体に塗ってくださいねー。皆さん、相手は格下の昆虫型モンスターばかりとはいえ、数が多いので油断はしない様にお願いします!」
 多くの冒険者達を従えたギルド職員が、森の中心部にてアナウンスを行なっていた。

 大規模狩りと言うらしい。

 数が増えすぎて一パーティでは討伐が困難になったモンスターの群れを、ギルド職員指揮の元、多くの冒険者パーティが寄り集まって退治する。
 日頃こんな所には出張ってこない職員だが、こういった、統率する者が必要な場合には出てくるそうな。
 と言うのも、冒険者と言うのは協調性がない自由な連中が数多く、職員が指揮しないと必ず何か揉め事が起こる。

 例えば、そう。

「私が全てのモンスターを引き受ける! ポーションを全部寄越せ!」
「ダメですよ、これは単にモンスター寄せってだけでは無いんですから。大量に塗りこむと、モンスター以外の生物にまで攻撃を喰らいますよ」
「ぜ、是非とも望む所ではないか!」

 こんな奴とか。

「おい変態、ギルドの人に迷惑掛けるな。お前はウチのパーティの連中だけ守ってくれればいいから」
「ああっ! 髪を、髪を引っ張るのは……!」
 モンスター寄せポーションを全部寄越せと駄々をこねるダクネスを、三つ編みを引っ張りズリズリと連行していく。

 他の冒険者は俺達を合わせて二十人ほど。
 大体が四人か五人パーティの様だ。

 そんな連中の中でも、一際頑強そうな連中がポーションを体に塗り付けている。
 それに習ってダクネスも、支給されたポーションを体に……。

「……お前って奴は……。ちゃんとギルド職員の話を聞いていたか?」

 ダクネスが、職員から数本多めに貰ってきたらしいポーションを、自分の体に振りかけていた。
 呆れたような俺の言葉に、だがダクネスは、
「フフッ。お前に散々働けだの言っておきながら、自身が矢面に立たないでどうする。クルセイダーは盾職だ。私が全てを引き受ける。お前は安心して暴れてこい!」
 そんな、昨日の夜は何だったのかとでもいうような格好良い事を宣言し、自信たっぷりの表情と共に不敵に笑った。

「……言いますねダクネス。なら私は、誰よりも多くのモンスターを討ち取って見せますよ。カズマ、見ていてください」
 そんなダクネスに対抗でもするかの様に、めぐみんも自信あり気に微笑する。

 となると、この流れだと当然……。

「……? どしたん? なんで私を見ているの?」

「あれっ? ……いや別に。こういった時って、大概お前が真っ先に調子に乗って何かやらかすのにって思ってな」
 珍しく大人しいアクアに言うと。
「あんたねー、私を何だと思ってるの? 私にだってちゃんと学習能力ってものはあるんです。見てなさいな。きっと調子に乗ったこの二人は、この討伐の終盤にはロクな事にはならないわ。……私は学習したの。調子に乗るとロクな事にはならないんだって」
「!?」
 俺は思わず、自分の耳を疑った。
 アクアが……。
 この、何かすれば余計な厄介事を引き起こし、何もしなくてもアンデッドにたかられるこのアクアが……!

 俺はアクアの成長に、何だか目頭が熱くなり……。
「!? ど、どうしたの!? 一体どうしたの!? ねえ、カズマはどうして泣いてるの?」

 俺は、不安気な声を出すアクアから視線を離し、仲間の成長に感動して、そっと目頭を押さえていた。
 そんな俺とアクアのやり取りは聞こえなかったのか、ダクネスとめぐみんが不思議そうにこちらを見る中。

「冒険者の皆さーん! モンスター、第一陣! 集まって来ましたよ! さあ皆さん、殺虫剤も大量に用意してあります。では、お願いします!」

 ギルド職員の声が轟いた。








 迫り来るモンスター達。
 耳障りな羽音を立てて、敵寄せのポーションを被った連中に対して突撃を敢行している。
「うあー! ちょっ……! 数が多い! 援護を頼むー!」

 それは、とある前衛冒険者の叫び声。
 見れば、飛来してきた子犬大のカブトムシみたいなのにたかられていた。
 子犬ほどの大きさとは言え、それは十分な脅威と言える。
 飛んでいるカブトムシの角は、走っている車のフロントガラスに突き刺さる事もあると聞く。
 どうせこの世界のカブトムシも、気合が入っているだか何だか知らないが、きっとロクでもないのだろう。

 と、そんな思いで見ていると、飛来してきたカブトムシ達が勢いはそのままに。
 その小さな体に回転でも掛けるがごとく、角を捻ってえぐり込むように……!

「あふっ!?」

 一人の冒険者が、その突撃を腹に受けて悶絶する。
 金属を打つ甲高い音。
 金属鎧を着込んでいたその冒険者の腹には……。

「いってえええええ! 畜生、少しだが腹に刺さってる! 気を付けろ、安物の金属鎧だと穴が開くぞ!」

 痛みを堪え、涙声で叫ぶ冒険者の鎧の腹の部分には、カブトムシが深々と突き立っていた。
 なんて攻撃的なカブトムシ!
 その冒険者の鎧に刺さったカブトムシを、慌てて他の冒険者が抜いてやる。
 それと同時に、腹にダメージを受けた冒険者の体が淡く光った。

「うおっ……!? ……おおっ、回復魔法か……!」

 アクアがヒールを掛けたのだろう、その冒険者が痛みが無くなった事に驚きの声を上げた。
 続いて、盾代わりとなっていた冒険者達の体が、ほんわりと淡く輝き出す。
 アクアが、そこかしこの冒険者達に支援魔法を掛けまくっているのだ。

 どうしたんだ今日のアクアは、なぜこんな出来る女に……!
 俺が感動と驚きに包まれていると。

「二十匹までいける! 二十匹までいけるっっ!! もっと、もっとおかわりを!」
 次々飛来するモンスターから、盾代わりとなっている冒険者達の中央で、ウチのクルセイダーが一番多くの攻撃を受け止め、嬉々としてそんな事を叫んでいた。
 先ほどの宣言通り、今日のダクネスはちょっと頼りになるし格好良い。

 仲間達の思わぬ活躍。
 俺もこうしてはいられない。
 ギルドから支給された、竹筒に詰められた、ケツから棒を押して、先端から霧状に放出するタイプの殺虫剤。
 それらを向かいくる昆虫型モンスターに散布した。
 他の冒険者達も、盾職の連中を援護するように次々と散布を始める。

 飛来するのはカブトムシだけではない。
 クワガタみたいなヤツや、カマキリみたいなヤツ。
 他にも様々な昆虫型モンスターが飛来してくるが、どれも軒並み体がデカイ。
 たかが虫だっと思っても、腐ってもモンスター。
 そこかしこに負傷者も出る中で、アクアが頑張って治療していた。
 それも、調子にも乗らず、黙々と。

 俺がそんなアクアを援護しようと殺虫剤を振り撒いていると、俺の服の端がクイクイと引っ張られる。

 それは、赤い顔をしてモジモジしているめぐみんだった。

 ……?
 俺がめぐみんをジッと見ていると、めぐみんは恥ずかしそうに。
「……その。もう我慢が出来ません。その……! ズルいです。……ダクネスだけ、ズルいです……」
 俺の服の裾を掴んだまま、照れるように、恥ずかしそうに。
 めぐみんは、片手で杖を握りしめ、その顔を俯かせた。

 ……ピンと来た。

 漫画やらの鈍感な主人公じゃないんだ、ここで、え? 何が? なんて野暮ったい事は聞き返さない。
 つまり、ダクネスとだけキスしといて、めぐみんとはしていない事を気にしているのだろう。
 我慢できないだとか、ダクネスだけズルいとか、つまりはそういう事だ。
 周りの冒険者達は昆虫駆除に忙しく、誰もこちらに注視してはいない。
 こんな時に何やってんだとか、不謹慎だとか、そんなヌルイ事を言っていたら一生童貞だろう。

 そう、俺達はいつ命を落とすかも分からない冒険者。

 俺はゴクリと喉を鳴らし、若干緊張しながらも、めぐみんに頷くと、我慢する必要なんてないとばかりに言った。
「俺達はいつ果てるとも分からない冒険者だ。後悔しないよう、やりたい事は何でもやって、日々を精一杯生きればいい。遠慮するな、ドンと来い!」
 俺の言葉にめぐみんが顔を上げ、パアッと表情を輝かせた。

 そう。これが、友達以上恋人未満の関係から、一歩進んだ瞬間であり
「『エクスプロージョン』ッッッ!」


 俺達がいた森の、かなりの上空。
 そこに轟く轟音と、目もくらまんばかりの輝く閃光。
 それらと共に爆風が吹き荒れると、そこに残っていたのは地に倒れ伏した冒険者達とダクネスの姿。
 小さな昆虫型のモンスター達は、その衝撃波の余波に耐え切れなかったのか、全て地に転がって動かなくなっていた。
 辺りにうめき声が聞こえる中、アクアだけはどう回避したものか、そんな地に転がる人達にせっせと回復魔法を掛けて回っている。

 めぐみんが、俺と共に地に転がったままでポツリと言った。

「めぐみんは、レベルが上がった」
「バカ野郎!」

 俺はムクリと起き上がると、恍惚とした表情で満足気に仰向けに寝転がっているめぐみんを起こしてやる。

 こいつが我慢出来ないだとか言っていたのは、ただの爆裂欲の方らしい。
 ダクネスだけが攻撃を受けまくり、自分の欲求を満たしていたのが不満だったようだ。

 勝手に盛り上がって損した。
 めぐみんの手を取って、深々とため息を吐きながら、引っ張り起こす俺に。
「……では今晩。部屋で待っていてくださいね」
 めぐみんが、耳元でボソリと囁いた。
「!?」

 慌ててめぐみんを振り返るが、めぐみんはダクネスやアクアの元へとスタスタと歩いて行ってしまう。
 ……たった一言で、こう、モヤモヤと、ドキドキとさせてくる所が女ってズルい。

 俺も皆の元へと近づくと、ダクネスが起き上がろうとしているが、鎧が重く、苦戦中の様だった。
 そんなダクネスが、起き上がろうとジタバタしながら。

「……なんだろう、体がチクチクするんだが」

 言って、そのまま起き上がろうと……。
 俺はダクネスの鎧を見て、ギョッとしながら後ずさる。
「おま……っ! 鎧! 鎧に、蟻がたかってる!」
 見れば、地面に転がったダクネスは、そこら中を蟻にたかられていた。
 職員の言葉を無視して敵寄せポーションを大量に浴びたせいだろう。

 蟻にたかられているダクネスから後ずさる、俺やアクア、めぐみんの視線を受けながら、
「ああっ……! ちょっ、カズマ、頼む、なんというか、痒い! 蟻が鎧の中に侵入してきているらしい、私に殺虫剤を振り掛けるか、クリエイトウォーターで水を……!」
 自分では鎧の中がかけず、ジタバタしているダクネスはそんな悲鳴を上げていた。

 もう面倒臭いし自業自得なので放っておく。

 やがて、転がっていたギルド職員も、荒くれ冒険者達のこんな行動には既に慣れているのか、文句を言う事もなく起き上がる。
「……皆さんご苦労様でした、ではそろそろ第二波が参りますので……」

 ……第二波?

 淡々とした職員の言葉と同時に、大量の虫の羽音が聞こえてきた。
 それは、森を揺さぶるような爆裂魔法の衝撃と振動で、木々の虫達を怒らせてしまったのだろう。

「……これはあかん」
「わああああああ、カズマさーん! 私、凄く嫌な予感がするんですけど! するんですけど……っ!」

 今回は珍しく大人しかったアクアが、不安が入り混じった表情で叫びを上げた。
 その予感は的中したらしく、縄張りを荒らされて怒った、数百を越える虫達が……!

「退避、退避ー!」

 俺の叫びに辺りの冒険者達とギルド職員が、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「……うっ……。ぐずっ……。私、今回は真面目に頑張ってたのに……。調子にも乗らずに大人しくしてたのに……」
 ギルド職員や他の冒険者達と、街に帰る道すがら。
 虫にたかられて髪を乱し、泣いているアクアを引き連れて、俺は深々とため息を吐いた。
 一人、モンスターの群れに爆裂魔法を叩き込めてご機嫌なめぐみん。
 いや、他の冒険者達も、最後は危険に晒されたものの、比較的安全に大量のモンスターが討伐された。
その多額の討伐報酬が均等に分け与えられる事となり、彼らもご機嫌な様子だった。

 そして。

「んっ……。んん……っ。ハア……ハア……カズマ……。カ、カズマ……、新感覚だ……。新感覚だぞコレは……」
 未だに鎧の中は蟻にたかられているのか、赤い顔でバカな事を口走っているダクネスが、先ほどまでは痛痒いと半泣きになっていたのに、今では満悦そうだった。
 先日の俺の胸の苦しさとトキメキを返して欲しい。

 そんなこんなで、無事ギルドへ帰り着いた俺達は、他の冒険者達と別れて受付に。
 後は報酬貰って帰るだけだ。
 とっとと帰って、ダクネスを風呂に放り込んでやろう。

 …………そして、俺は最後に風呂に入り、今日は念入りに体を洗っておこうか。
 別に、今夜部屋に来るとか言っためぐみんの言葉にちょっと期待している訳ではない。

「ご苦労様でした、こちらが討伐報酬になります。まだまだモンスターは蔓延っておりますので、明日以降もぜひ、ご協力くださいね!」
 そんな受付の言葉を聞き流し、俺は今夜の事を考えながらソワソワと……。




「あの……。あなたが、サトウカズマ様ですか……?」

 ソワソワと……。
 ……今夜の事を考えて挙動不審な行動を取っていた俺に、突然声が掛けられた。

 そこに居たのは落ち着いた大人の雰囲気を醸し出す、特徴ある泣きぼくろの綺麗な女性。
ダクネスには及ばないものの、肉付きの良い、男好きする体をしている。
 黒い髪を肩口で切り揃え、随分と色気のある黒い瞳で俺に流し目を送ってくる。
 ただそれだけで、何だかドキリとしてしまう。

 その女性はプリーストなのだろうか。
 ゆったりとした白い神官服みたいなローブを纏い、腰にはメイスを下げていた。

 その女性から怪しげな大人の魅力を感じるのは、その泣きぼくろの所為なのか。
 それとも、俺の周りの人間に、大人の魅力がある女性が皆無な為なのだろうか。

 その女性は、優雅に俺に一礼すると。


「お噂はかねがね……。貴方様のご高名は伺っております。わたくしはセレナと申します。……どうか、貴方様のパーティに入れて頂く訳には参りませんでしょうか?」
月末までバイト中につき不定期更新。

ネット代稼いでまいります。

そんな事情に付き、月末までは余裕があるまで感想返しは活動報告にて行います、その分更新出来るだけ早めに。
申し訳ない!


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。