少女漫画界の神様とも言われる漫画家、「萩尾望都」が登場!
『ポーの一族』『11人いる!』で小学館漫画賞。『残酷な神が支配する』で手塚治虫文化賞マンガ優秀賞。2012年には、少女漫画界で初めて紫綬褒章を受章。デビュー48年経った今も、第一線で活躍する。
今回は、初めて「王朝もの」に挑んだ野心作『王妃マルゴ』の現場に密着。漫画ファン垂涎のペン先。そして、若い頃から貫いてきた人物の「葛藤」を描きたいという熱い思いが明らかになる。
Gペン、すごくおもしろい持ち方をしていますね。ペン先に、人さし指がかかっていますよね。彫刻刀で彫っているみたいに見えますね。(浦沢)
言われると、確かに彫っていますね。(萩尾)
彫刻というよりも「人さし指の爪で、ひっかいている」。やはりちょっと猫系ですかね。(浦沢)
あぁ、こうひっかきながら! そうか、だから猫7匹飼っているのか。(萩尾)
少女漫画という世界は、「イマジネーションをどのくらい広げるか」という感じがします。(浦沢)
はい、そうです。浦沢さん、よくわかっていますね。(萩尾)
セクシーなシーンとか、あれはやっぱり、少女漫画的に、割りとあっさり、ふわっと描くんですか? 例えば、メタファーにしてみたりとか。(浦沢)
そうそう、お花がくるくる回っていたり、星が落ちてきたり。実際の肉体的パフォーマンスがおもしろいこともあるんだけど、そっちのちょっと広がった部分のほうがおもしろいな、と思っているので。(萩尾)
いつも「(登場人物を)そこまで追い込むか」っていう状況を、作りますよね。追い込まれる人が好きなのか、追い込みたいのか。(浦沢)
両方、好きですよね、きっと。「問題に直面している大人」を描くのが、おもしろい。(萩尾)
「問題に直面している大人」。いわゆる、「天真らんまんな子ども」は、あまりおもしろくないなと?(浦沢)
子どもも、やっぱり問題に直面していてほしい。(萩尾)
この目だよね。この憔悴しきったような。驚愕したり、深い悲しみになったり、そういう時の萩尾先生の「目」というのは、独特のものが宿っている感じがします。見てほしいのは、この「目」なんですよね。この画面で。爪も描いていないですもんね。爪を描いてしまうとうるさくなっちゃう。それが主張しだしちゃうから。(浦沢)
指がね、邪魔なんですよ。でもね、描かないといけないから、なるべく抜けるところは抜こうと思って。だから、目のそばにある指はちゃんと描いて、その他は邪魔だから、ぼかします。(萩尾)
それをすっと、さりげなくやるんだよね。(浦沢)
ある意味、少女漫画って、いき過ぎた部分もあるぐらい、デフォルメされた世界じゃないですか。演出も過多だし、お芝居も過多だしっていう。ミュージカルとか、それに近い感じがしますよね。(浦沢)
私も、舞台のほうが近いかなと思います。映画というよりは。(萩尾)
リアルな映像だと、時系列もちゃんと全部、見せなきゃいけないけど、舞台ってちょっとした転換で、照明がパッと変わっただけで、まったく違うシーンができる。それが少女漫画に似ていますよね。(浦沢)
こういう物語の世界に、私は救われたし、とても楽しいと思う。そういった自分が感動したものを、(読者に)伝えたい。だけど、笑ったり、泣いたり、感動したりっていう、感情をゆさぶるっていうのは、非常に大変なことで、やっぱりこっちも必死でやらないと、伝わらないです。(萩尾)
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漫画家同士が語り合うことで飛び出した言葉の数々。本編で入りきらなかった未公開部分を、お楽しみください。
浦沢萩尾先生の特徴だと思うんですけど、「横に細長いコマ」の積み重ねというのが、いつも効果的なんですよね。普通、漫画家さん、ここまで細くしないだろうというのを、積み重ねていく感じが。 萩尾石ノ森章太郎先生なんかね、よくやっていらした記憶があります。横長を積み重ねると、目線が縦にだけ、コマごとに流れていくから、(読者が)リズムをとりやすい。 浦沢あまり上下左右に、読者の目線を泳がせるんじゃなくて、すーっと下に。 萩尾そういう効果が出そうなところは。 浦沢ちょっと映画的な感じがしますよね。昔の、シネマスコープみたいな、とてつもなく横に広いっていう。それに近い気がします。
萩尾「漫勉」の、浦沢さんと東村さんがしゃべっているところを見たんですけど、「グーで握ると描きやすい」って。 浦沢ああ、東村さん、そうなんですよ。「これ(グー握り)のおかげで、腱鞘炎にならない」って。 萩尾「それはすごい!」って。私もこれから練習します。グーで。 浦沢ここから、持ち方変えますか? 萩尾いや、あれを聞いてから、ときどきやってみたんですけど、まだコントロールがうまくいかないんですよ。 浦沢あ、やってみたんですね。 萩尾そうです。やってみた。 浦沢すごいぞ「漫勉」。萩尾先生に、持ち方を変えさせようとしているぞ。
浦沢『ポーの一族』とか『11人いる!』あたりの絵を見ると、萩尾望都先生という人は、とてつもなくペンが速い人だろうなと、思っていました。 萩尾あの頃は速かったです。徹夜していいなら、1日に、10枚とか15枚とか。 浦沢「スピードが止まらない」みたいな感じで、ふぁーって、描いてらっしゃいますね。 萩尾やっぱり年をとると筋力がなくなりますから、どんどん遅くなっていきます。今も描いていて思うけど、「仕事は若いうちにしなくちゃいけないな」と。 浦沢漫画って筋力ですよね。若い人たちは、若い内に、みずみずしい線で、じゃんじゃん描いた方がいいよって。 萩尾一生、その線は描けない。その線は20代の線、この線は30代の線、変わっていきますよね。
浦沢これ「おっ」って思ったんですけど、僕は必ず、左のコマからペン入れするんですよ。でも萩尾さんは、ちゃんと演技の順番で、右のコマから描かれているって思ったんですよ。インクの乾きに対して、どうしても右から描くと、描いたところに手がのっかちゃうっていう。あまり意識しないですか? 萩尾いやあのね、週刊連載のときはやっぱり、左から描いていたと思います。今は、どうせ手が遅いから、描いているうちに乾く。だから、パッと見て、一番今描きたいところから描いていきますね。 浦沢それいいですね。一番描きたいところから描く。それはいい。
浦沢萩尾先生、初期の絵柄って、もっと少女漫画系の色が強かったと思うんですよ。それが、80年代から90年代にかけて、どんどんリアルな描線になってきている。あれは、どこかで何か影響を受けたとか? 萩尾70年代の終わりくらいから、ちょっとお姉さん向けの漫画に移動して。 浦沢(読者の)年齢層がね。 萩尾人物の等身が、ちょっと変わったんですね。頭がちょっと小さくなる。それで目とか、バランスを少しずつ小さくしていく。そこにクルンとした「の」の字の目を描くとおかしいので、目からちょっとずつリアルになって。目がリアルになると、他のものも少しずつリアルにしないと顔のバランスがうまくいかない。ここらへんの兼ね合いが難しくて。じゃあ、写実的に描けば表情が出るのか、というとそうでない。今でもちょっと暗中模索。どこまで描けば、ちょうどいいバランスだろうかって。 浦沢僕もずっとそれを悩んでいるんです。どこまでリアルにして、どこまで漫画を残すかっていう。ご自分の中で、あのへんで絵が変わってきたって、如実に感じたときはありますか。 萩尾『メッシュ』ですね。 浦沢あそこは、ずいぶん絵がハードになりましたもんね。
萩尾まあ、(少女時代と)あんまり変わんないです。ほとんど変わらない。体力が衰えただけ。 浦沢なんていうか、すごく漫画好きでいらっしゃるなっていうのが伝わる。「好きだからこそ」っていう感じが、しますよね。やっぱり、好きっていう気持ちを守るという、ある「プライド」みたいなものを感じます。プライドにかけて、高品質のものを外に出すんだみたいな。そういう感じを、すごく、ひしひしと感じました。
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