古代中国の歴史書「魏志倭人伝」に登場する「伊都国(いとこく)」の都だったとされる福岡県糸島市の三雲・井原(いわら)遺跡で、弥生時代(紀元前4世紀~紀元後3世紀)のものとみられる国内最古級のすずりの破片1個が出土した。同市教育委員会が1日、発表した。
弥生時代のすずり発掘は国内2例目。市教委は「魏志倭人伝は伊都国で文書が取り扱われていたと記しており、裏付けにつながる」として、日本の文字文化が伊都国から始まった可能性を示す史料と位置付けている。
破片は長さ6センチ、幅4.3センチ、厚さ6ミリ。実際に使用されたようなすり減りがあり、市教委は墨が使われた跡がないか詳しく調べる。当時のすずりは板状で、水と粉末や粒状の墨を乗せ、取っ手を付けた薄い正方形状の「研石」ですりつぶしていたという。
昨年12月、弥生~古墳時代の人々が不要になった土器を捨てたとみられるくぼ地を調査して見つかった。ここでは中国・前漢が朝鮮半島支配のために設けた「楽浪郡」製の弥生後期とみられる土器が多数見つかっているため、市教委はすずりも同時期の1~2世紀ごろに楽浪郡で作られたとみている。
市教委は「伊都国では楽浪郡からの渡来人が外交を担っていたと考えられる。中国からの賜り品への返礼書などを作るため、半島から持ち込んだのでは」と推察する。
国内では田和山遺跡(松江市)で1998年に弥生中期ごろの地層から、すずりと研石の破片が見つかっている。2遺跡の破片を鑑定した九州大の西谷正名誉教授(考古学)は「先進文化に触れる窓口だった伊都国に入ったものが、山陰地方との交流で移譲されたのではないか」との見解を示した。〔共同〕