ゲームの面白さを解明する ―構造化IRFモデルと自動ゲームデザインの未来―

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DiGRA2015にて、前半部分の内容を口頭発表しました。

The English version is here:
http://www.slideshare.net/satoshiido9/elucidation-of-fun-of-games-structured-irf-model
I have bad English, so let me know if there's anything wrong with my English.

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ゲームの面白さを解明する ―構造化IRFモデルと自動ゲームデザインの未来―

  1. 1. ゲームの面白さを解明する 構造化IRFモデルと自動ゲームデザインの未来 1 井戸 里志 - @kan_jiro
  2. 2. 既存理論と構造化IRFモデル MDAフレームワーク(Hunickeら, 2004) – ゲームを、ルール(Mechanics)、展開(Dynamics)、 面白さ(Aesthetics)の三層構造で記述する枠組み – 面白さの分類に理論的な根拠はない 構造化IRFモデル – 面白さの要素を Influence, Reward, Fictionality に 理論的に分類し、ゲーム全体の目標の構造と結びつけたモデル – 戦略からアクション、ストーリーまで ほとんどの面白さをひとつの枠組みで説明 2
  3. 3. 本発表の構成 1. 新しいゲームの定義 – ゲームプレイとゲームを区別することで境界問題を解決 2. 面白さを分類するIRFフレームワーク – 「インフルエンス」「リワード」「フィクショナリティ」 3. ゲームを図示する構造化IRFモデル – 分類されたゲームプレイと、大小に連なる目標を結びつける 4. 自動ゲームデザインの未来 – ゲームデザイナーの仕事の大半が自動化される時代はすでに目前 3
  4. 4. 1. 新しいゲームの定義 4
  5. 5. ゲームと非ゲームの境界問題 5 数学の試験はゲームか? – 試行錯誤して複雑な問題を解く面白さは ゲームの面白さに通じるように感じられる – 数学の試験から面白みを感じてもなお ゲームでないとしたら、それはなぜか? 三目並べはゲームか? – 最善手順を知っているプレイヤー同士の対戦では 交互にマスを埋めるだけの作業になる – 三目並べが最善手順を知られていてもなお ゲームであるとしたら、それはなぜか?
  6. 6. ゲームプレイとゲームの定義 6 能動的活動 – 何らかの目標を達成することを意図して 事物や他人・自分に影響を与える活動 – 労働、学習、ゲームなど ゲームプレイ – 能動的活動から生まれる 面白さ・楽しさ・気持ち良さ ゲーム – 苦痛・労力を抑えながら、 大きなゲームプレイを生み出すことを 意図してデザインされたシステム
  7. 7. 境界問題への解答 7 数学の試験はゲームではない – 複雑な問題に対して、解かれた状態になることをめざして 自分が影響を与えるとき、ゲームプレイが得られる – だとしても、試験はゲームプレイを生み出すことを 意図して作られたシステムではないので、ゲームではない 三目並べはゲームである – 最善手順を知っていて勝利をめざしている場合、影響を与える ような判断をする余地がないため、ゲームプレイが得られない – だとしても、三目並べはゲームプレイを生み出すことを 意図して作られたシステムであるので、ゲームである
  8. 8. 2. 面白さを分類するIRFフレームワーク 8
  9. 9. 基礎的なゲームプレイの分類 9 インフルエンス – 自分の行動が、ゲームに強く 影響を与えているように感じられる リワード – 目標を達成することによって もたらされる事態が 魅力的に感じられる
  10. 10. 10 インフルエンスの分類 インタラクション – 現在の自分がゲーム内の事物へ 影響を与える操作と反応 コミュニケーション – 他のプレイヤーのゲーム内の事物への 影響の与え方に関与するやりとり ストラテジー – 将来の自分のゲーム内の事物への 影響の与え方を画策する思考
  11. 11. インタラクションの分類 11 実効型インタラクション – ゲーム状態の可能性を直接的に分岐させる – 例|「レバーを倒した方向にキャラクターが加速する」 「敵を壊すと、攻撃判定をともなう爆発が発生する」 演出型インタラクション – ゲーム状態の可能性を直接的には分岐させず プレイヤーへの出力内容にのみ影響を与える – 例|「コインを取ると音が鳴る」
  12. 12. 主要な実効型インタラクション 12 操作的インタラクション – 対象を操作すること自体に生理的な気持ち良さがある – 例|プラットフォームゲーム 波及的インタラクション – 操作による影響が、直接的・間接的に多くのものに波及する – 例|物理パズル
  13. 13. コミュニケーションの分類 13 敵対型コミュニケーション – 敵、または敵である可能性のあるプレイヤーとのやりとり 特に、得られる情報に差がある場合 – 例|ポーカー 友好型コミュニケーション – 味方であることがわかっているプレイヤーとのやりとり – 例|TRPG
  14. 14. ストラテジーの分類 14 ゲーム型ストラテジー – 明確な目標が与えられている 与えられた目標の達成をめざす – 例|将棋、囲碁 トイ型ストラテジー – 明確な目標が与えられていないか、非常に緩い プレイヤー自身が自発的に指向する目標の達成をめざす – サンドボックス的な要素
  15. 15. 15 解決のリワード – 不安定・不明・中途半端な状態が解消される – 例|宝探し、パズル(複雑なものはストラテジーも含む) 破壊のリワード – 何かが破壊される – 例|シューティング 成長のリワード – プレイヤーの影響力が高まる – 例|RPGのレベルアップ 主要なリワード – 1/2
  16. 16. 16 賞賛のリワード – 自分が達成した内容や、自分自身の価値を高く感じられる – 例|成果を他のプレイヤーに見せびらかす 実益のリワード – プレイヤーの現実生活にとっての利益がある – 例|脳トレ 主要なリワード – 2/2
  17. 17. ゲームメカニクスと虚構世界 17 ゲームメカニクス – 広義の「ルール」 プログラムによって実装される ものや物理法則も含む – インフルエンスとリワードは ゲームメカニクスへの関心に由来する 虚構世界 – 例|「地球が宇宙人に攻撃されている」 「ルイージはマリオの弟だ」 – 虚構世界への関心に由来する ゲームプレイを 「フィクショナリティ」と呼ぶ
  18. 18. 主要なフィクショナリティ 18 愛好のフィクショナリティ – 影響を与える対象をプレイヤーの好きなものに見立てたり、 影響の過程をプレイヤーの好きなことに見立てたりする – 例|育成ゲーム、スポーツゲーム、 魅力的な世界を舞台にしたゲーム 物語のフィクショナリティ – プレイヤーの行動に物語上の意味をもたせる – 例|ノベルゲーム 体験のフィクショナリティ – 虚構世界が自分自身の出来事としてリアルに感じられる – 日本におけるいわゆる“ナラティブ”
  19. 19. ゲームプレイ分類まとめ 19 ゲームメカニクス由来のゲームプレイ インフルエンス  インタラクション – 実効型インタラクション • 操作的インタラクション • 波及的インタラクション – 演出型インタラクション  コミュニケーション – 懐疑型コミュニケーション – 肯定型コミュニケーション  ストラテジー – ゲーム型ストラテジー – トイ型ストラテジー リワード – 解決のリワード – 破壊のリワード – 成長のリワード – 賞賛のリワード – 実益のリワード 虚構世界由来のゲームプレイ フィクショナリティ – 愛好のフィクショナリティ – 物語のフィクショナリティ – 体験のフィクショナリティ
  20. 20. 3. ゲームを図示する構造化IRFモデル 20
  21. 21. 目標の種類 21 主目標 – ゲームへ参加する時点で意識される、一回のプレイングの目的 – 例|麻雀で試合終了時に1位になること 明目標 – 開始と終了のタイミングが明確である目標 – 主目標は、ほとんどの場合、明目標 – 例|アクションゲームでステージのひとつをクリアすること 暗目標 – 開始と終了のタイミングが明確でない目標 – 例|アクションゲームで ステージに含まれる関門のひとつをクリアすること
  22. 22. 目標間の関係 22 上下統合(下目標/上目標) – 下目標を繰り返し達成することで、上目標が達成される – 例|麻雀で「一局ごとにできるだけ高い点を得ること」 と 「試合終了時に1位になること」 前後統合(前目標/後目標) – 後目標の達成には、先に前目標を達成する必要がある – 例|TCGで「強いデッキを構築すること」 と 「試合で勝つこと」
  23. 23. 進行型統合 23 進行型統合とは – ある上目標に対するひとつの下目標の結果が 他の下目標の過程にあまり影響を与えない関係 – ある前目標の結果が後目標の過程にあまり影響を与えない関係 – 例|麻雀で「ある試合の終了時に1位になること」と 「一局ごとにできるだけ高い点を得ること」 現在の得点はあまり大きなプレイングの判断基準とならない 進行型統合のメリット – プレイヤーの行動への評価を即座に明確にフィードバックできる リワードを最大限に活かせる
  24. 24. 創発型統合 24 創発型統合とは – ある上目標に対するひとつの下目標の結果が 他の下目標の過程に大きく影響を与える関係 – ある前目標の結果が後目標の過程に大きく影響を与える関係 – 例|麻雀で「ある一局でできるだけ高い収支を得ること」と 「一手番ごとに適切に打牌すること」 判断基準となる手牌は、それまでの打牌に大きく左右される 創発型統合のメリット – インフルエンスを大きくする とりわけ、ストラテジーには必須
  25. 25. 分析例『スーパーマリオブラザーズ』 25
  26. 26. 分析例『ゼルダの伝説』 26
  27. 27. 分析例『beatmania』 27
  28. 28. 分析例『ポケットモンスター』 28
  29. 29. 分析例『ぷよぷよ』 29
  30. 30. 分析例『脳を鍛える鬼トレーニング』 30
  31. 31. 分析例『MOTHER』 31
  32. 32. 目標の機能 32 目標の機能の分類 ① 主目標 ② ゲームプレイに直接結びついた目標(コア目標) ③ ゲームプレイに直接結びついた統合(コア統合)を 構成する目標 ④ 成長のリワードが寄与する統合を構成する目標 ⑤ 主目標を繰り返し楽しめるようにする上目標(メタ目標) ⑥ ひとつの上目標に対する下目標が 多くなりすぎないようにする目標  メリハリをつける (他にもあるかも)
  33. 33. 構造化IRFモデルと既存理論の接続 33 EMSフレームワーク(中村, 2014) – 手段と目的の構造でゲームを言い表す – ゲームデザイン初心者でも ゲームのアイデアを出すことができる MDAフレームワーク – ゲームをルール、展開、面白さの 三層構造で捉える – 狙っている面白さを、具体的な アルゴリズムやデータに 落とし込むことができる
  34. 34. 4. 自動ゲームデザインの未来 34
  35. 35. 自動ゲームデザイン(AGD) 35 AGD (Automated Game Design) – AIによるバランス調整、レベルデザイン、メカニクス生成など – 2005年頃から発展、これからが期待される分野 IRFモデルによるAGDの可能性 – 各ゲームプレイを定量化 – 進化的アルゴリズムで より大きなゲームプレイを生み出すデザインを生成 ゲームプレイ定量化の難度 – ストラテジー < コミュニケーション << インタラクション < リワード <<< フィクショナリティ – ストラテジーとコミュニケーションは既存の技術でおおむね可能
  36. 36. AGDによる詰将棋の生成 36 面白い詰将棋の自動生成方法案 1. 逆算法などを用いて詰将棋を列挙 2. 列挙された詰将棋をAIにプレイさせる 3. ストラテジーの大きな詰将棋を抽出 将棋のストラテジーの定量化 – 複数の有力な着手候補の間の、 それぞれを選んだ場合から予測 される将来の局面の差異の大きさ – それぞれの局面を、評価関数の 各項目の値を基に高次元空間内の 1点にプロットし、その距離を計算
  37. 37. AGDによるゲームメカニクスの創造 37 Yavalath(Browne, 2007) – 世界で初めて、完全にAGDで 作られた商用ゲーム – ボードゲームファンからも 評価が高い LUDI - Yavalathを生み出したAGDシステム – 進化的アルゴリズムで、既存のアブストラクトゲーム (囲碁、オセロ、五目並べなど)のメカニクスの要素を遺伝子とする – 自己対戦と57項目のゲームデザイン評価基準で適応度を測定 – 生き残るゲームは五目並べに似たものばかりという問題も
  38. 38. 汎用AGDの実現可能性 38 あらゆるゲームを生成できるAGDは可能か? – あらゆるジャンルやターゲットに適した評価基準と、 あらゆるゲームを人間らしくプレイできるAIプレイヤーが必要  将来的にディープラーニングで自動生成可能
  39. 39. 汎用AGDの段階 - 1/2 39 第0段階|自動テストプレイ – 与えられたゲームメカニクスを、プレイしながら学習 – AIの予想を大きく外れる(バグの可能性が高い)展開が 発生したら報告 第0.5段階|ゲームプレイの定量評価 – 人間が行った数値・配置調整に対してテストプレイを行い ストラテジーやコミュニケーションの変化量を評価 第1段階|自動パラメータ調整 – 与えられた変数や素材に対して、ストラテジーや コミュニケーションを最大化するように数値・配置を調整
  40. 40. 汎用AGDの段階 - 2/2 40 第2段階|自動レベルデザイン – すべてのゲームメカニクス由来のゲームプレイを定量化 – 与えられた基本のゲームメカニクスに基いて 付加的なメカニクスやアイテム、スキル、敵、ステージを生成 – 人間は、採用するステージを選び、虚構世界上の意味 (森林、砂漠など)を割り当て加工する 第3段階|自動ゲームメカニクスデザイン – あらゆるゲームメカニクスをゼロから生成 – 人間は、採用するメカニクスを選び、虚構世界上の意味 (モンスターの収集・育成、国家の運営など)を割り当て加工する 第4段階|完全な自動ゲームデザイン
  41. 41. AGD時代のゲームデザイナー 41 個々のゲームに合わせたAGDの運用 – AGDにどのような素材を与え、何を生成させるか? – 生成された無数のコンテンツに対して評価を下し、教育する フィクショナリティ部分の制作 – フィクショナリティは文脈に依存するため、単純な パターン認識だけでは生成の精度が上がらない可能性がある コンテンツのボリューム増加 – ただし、ユーザーが遊ぶ時間には限りがある 人間ならではの味わいを追究 – AGDによるコンテンツには独特の癖が出ることが予想される
  42. 42. まとめ 42 ゲームの定義 – ゲームプレイを生み出すことを意図してデザインされたシステム ゲームプレイの分類 – インタラクション、コミュニケーション、ストラテジー、 リワード、フィクショナリティに分けられる ゲーム構造の図示 – ゲームプレイを大小に連なる目標と結びつける 自動ゲームデザイン – ゲームプレイのうち定量化しやすいものを中心とした ゲームデザインは、近い将来に自動化される

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