前回、妊娠しやすさを維持するために心がけるべきことを述べました。
肥満は本人が努力することで改善できる状態でもあるので、今回は肥満に関して、もう少し掘り下げてお話ししましょう。
最近、日本ではお母さんのやせすぎが原因の低出生体重児の数が増加しており、この傾向は世界でも韓国と日本で特に顕著だとされています。若い女性たちの体形への意識が関係しているのかもしれません。
一方で、肥満の問題は妊娠や出産、また出生児に影響を与える因子として、医学の教科書に掲載されているぐらい一般的です。
肥満があると、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、帝王切開分娩(ぶんべん)、巨大児、難産、陣痛の微弱、出産後も子宮が収縮しにくく子宮からの出血が続くなどの病気が起こりやすくなります。ですので、妊娠する前に肥満を少しでも解消しておくことが、妊娠中や分娩時のリスクを減らすことにつながります。でも、妊婦健診でも肥満の方はよく見受けられ、その数は減少していません。
最近、とても気になる報告がPediatrics(小児科学)という雑誌に掲載されました。肥満の方で妊娠前から糖尿病であった人、または妊娠中に糖尿病になった人から生まれた赤ちゃんは、そうでない場合と比べて知的障害を持った自閉症となる確率が高いという内容です。
図を見てください。これは「生まれた児が知的障害を伴う自閉症となる確率」を、肥満の有無ごとに
・糖尿病でない方
・妊娠中に糖尿病になった(妊娠糖尿病)方
・妊娠以前から糖尿病だった方
にそれぞれ分けて比べたものです。
肥満でない方については、糖尿病がある方は、ない方に比較してリスクが少し上がりますが、統計学的に有意ではありません。しかし、もともと肥満だった方では、糖尿病が加わることで明らかにリスクが高まっています。
この報告は、児が生まれた年や性別、分娩回数、妊娠中の喫煙、早産などの、このリスクに影響を与えると考えられるほかの因子の影響を調節したうえでのデータですので、肥満という因子がとても重要だということがわかります。
体質などによってどうしても太りやすいといった人もいるでしょうし、またこの論文だけでただちに結論づけるわけにもいきません。ただ、少なくとも、お母さんのおなかにいる時の環境がとても大事だということは、今回の報告からも言えると思います。お母さんが健康に気をつけていくことは、自分にだけでなく、生まれてくる児にも大きく影響しますので、ぜひ、パートナーと一緒に、妊娠する前から健康を維持するよう心がけていただきたいと思います。
<アピタル:男女で知って欲しい「妊活」・その他>
専門は生殖医学、不妊治療。日本産婦人科学会・倫理委員会・登録調査小委員会委員長。内閣府の「少子化危機突破タスクフォース第二期」座長(2013-2014)。現在、内閣府「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」委員を務める。
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