――日本人は3年で知識やノウハウを搾り取られてポイ捨て、なんてうわさもありますが……。
Aさん 契約とか立場にもよりますけど、少なくとも30~40代の若い人には当てはまらないですね。そこまでひどい会社ではないですよ(笑)。50代以上の人は3年間以下の顧問契約が普通ですけど。
Dさん 僕の職場では、サムスンの元日本人顧問の記事が配られました。サムスンに長くいれば、その後のキャリアにもつながるから頑張れって意味だったみたいです。環境としても働きやすい会社だと思います。
――かつては先行している技術を教える“先生”としてサムスンに渡った日本人ですが、サムスンが世界ナンバーワンの家電メーカーとなった今、求められる役割に変化を感じますか?
Aさん それは感じます。テレビや半導体、スマートフォンなど、多くの分野でサムスンはもう世界一になりました。だから、そういう分野では“先生”としてのニーズはほとんどないです。
Dさん そういう部署では、ある意味“飼い殺し”になっている日本人もいます。技術者が最も生きがいを感じる、新しい技術への挑戦をさせてもらえず、コストカットのみが上司から与えられる使命なんて人もいます。
これは、プラズマテレビみたいに成長の見込みがなくなった事業も同様です。そういう部署では、だんだんと日本人が周りから消えていったと聞きます。サムスンが日本人を必要としなくなっていき、日本人技術者としてもサムスンが働きがいのある職場ではなくなっていったということですね。
Bさん 最近はサムスンからヘッドハントされるんやなくて、自分でサムスンに入社試験を受けに来る日本人も多いです。結構落ちとるみたいですけど。
Dさん 水原(スウォン)の工場のつくりが、パナソニックの門真工場(大阪府)と瓜二つというのは有名な話で、昔は工場の建て方から経営哲学までいろんなことを学んでいたんですが、時代は変わりましたね。
徹底したトップダウン
上司命令は絶対の軍隊組織
――先ほど、働きやすい環境だというお話もありましたが、やっぱり文化や言葉の違いなどがあります。異国の地で働くのは大変じゃないですか。
Cさん 社風がまったくちゃうね。サムスンは軍隊。トップダウンが日本のようなハンパなもんやない。上司がこうやって言うたら、一斉にそっちへ向かう。
Aさん 軍隊というのは、まったく同感です。サムスンって末端の社員レベルでは決断力もないし、リスクテイクもあまりしないですよ。そこは日本企業とそれほど変わらないと思います。
それでも、サムスンが「決断が早い」と巷で言われるのは、上が決めた途端に一斉に下が動き出すからです。上司の命令は絶対です。
Dさん 韓国人社員の出世意欲がハンパじゃないですね。上司に気に入られるために、中間管理職をすっ飛ばして、その上に報告をするなんていうのは日常茶飯事です。あと、課長クラスになると急に偉そうになる人が多いです。