国債入札でマイナス利回り、将来は国民のツケにも

2016/3/3 2:00
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 国債の入札で、借金する国にもうけが生じるマイナス利回りが付くケースが増えている。日銀のマイナス金利政策の影響で、満期までの期間が5年や10年の国債入札で初めてマイナス利回りを記録した。国は借りた額よりも少ない額しか返さなくてよいことになる。借金をすればするほどお金がもうかる不思議な構図はなぜ生まれたのか。

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 Q 国債の入札ってどういう仕組みなの。

 A 財務省が1日に実施した10年債の入札をみてみよう。債券に記載される額面は100円で、利息は年0.1%という条件が付いていた。この条件の国債をいくらで買うかを競うのが国債入札で、高い金額を提示した金融機関が国債を買うことができる。金融機関は市場で流通する国債の価格を参考に、入札価格を決めることが多い。

 Q マイナスの利回りってどういうこと。

 A 先ほどの10年債の場合、満期まで持ちきれば、元本の100円と10年間の利息を合わせた101円を手にできる。通常であれば、金融機関は101円よりも低い価格でしかこの国債は買わない。それより高い金額で買えば確実に損をするからだ。

 ところが1日は金融機関がこれを平均101円25銭で落札した。額面100円当たりで国は25銭の得、金融機関は25銭の損をする計算になる。年間の利回りに直すとマイナス0.024%で、これがマイナスの利回りだ。財務省は今回、国債を2兆3992億円発行したため、国の利益と金融機関の損失はそれぞれ約60億円となる。

 Q なぜ金融機関は損が出るような高い価格で国債を買ったのか。

 A 国から買い取った値段よりも、ずっと高い値段で転売できると考えているからだ。その転売先となるのが日銀だ。

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 日銀は1月29日にマイナス金利政策の導入を決めたが、それ以前から国債などを大量に買い入れる量的・質的金融緩和を進めている。日銀は国債保有残高を年80兆円増やしている。これは国債の新規発行額よりもずっと多い。

 日銀が国債を買い取る価格はおおむね市場価格と連動し、国債の落札価格よりも高めだ。金融機関は国から買った国債を日銀に売れば、利益を得られる可能性が高い。

 Q 結局、誰が損をしているの?

 A 表面的にみれば、借金するほどもうけが出る国は得をし、国債の転売でもうけている金融機関も得をする。日銀だけが損をしていることになる。

 ただ、日銀は年間のもうけの一部を国に納めている。2014年度は1兆90億円の利益を上げ、7567億円を納付した。日銀が持っている国債はプラスの利回りが付くものが大半だが、損が膨らんでいけば国に納めるお金も減る。マイナス利回りのツケは結局、国民に回ってくることになる。

 Q マイナス利回りでの国債落札は続くのか。

 A 先行きは不透明だ。2年物や5年物など中期国債についてはマイナス利回りでの落札が続くとの見方が多いが、10年物のマイナスについては「やや行き過ぎ」(メリルリンチ日本証券の大崎秀一チーフ金利ストラテジスト)との声もある。

 海外に目を向けると、マイナス金利政策で先行する欧州でも、10年債の落札利回りがマイナスとなったのはスイスだけだ。日銀によるマイナス金利政策の導入後、国債の利回りは不安定になっており、落札利回りも揺れ動く可能性がある。

 Q 財政規律は失われないか。

 A その可能性はある。2月末に中国・上海で開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で機動的な財政出動の必要性で一致したこともあり、日本でも大規模な経済対策が検討される可能性がある。金利が低い今こそ国が借金をして景気をよくすべきだという議論が高まりがちだ。

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