再発や治療のモニターになるか、胃がん治療に有効な血液検査が開発される1/1

血液の採取で、胃がんの再発や治療のモニターになる可能性を秘めた血液検査が開発されました。発表は、井本逸勢教授(徳島大学大学院医歯薬学研究部人類遺伝学分野)、増田清士准教授らと、大辻英吾教授(京都府立医科大学消化器外科)、市川大輔准教授らの研究グループです。

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血液中の遊離 DNAを Droplet digitalPCR を用いて解析する「リキッドバイオプシー(液体生検)技術」により、がん組織を用いることなく、胃がんにおける数少ない分子標的治療薬の標的である HER2 遺伝子の増幅を高い感度で検出できる方法が開発されました。

遊離 DNA
がんが存在すると、そのヒトの血液にはがんから遊離したDNAが存在するようになる。

Droplet digitalPCR
デジタル技術。ターゲットDNA/RNAの濃度を、検量線を作成すること無く、高感度・高精度に絶対量を測定することができる。

HER2 遺伝子
細胞の生産にかかわる遺伝子タンパク。HER2タンパクは、正常な細胞にもわずかに存在し、細胞の増殖調節機能を担っていると考えられているが、過剰に発現したり、活性化したりして細胞の増殖や悪性化に関わるとされている。

HER2 遺伝子の増幅は、胃がんの一部の患者に認められ、がんが再発したときに分子標的薬を用いた薬物治療を行う判断をおこなうための重要なマーカーです。

これを血液で診断できることで、再発の監視治療効果の予測・判定がリアルタイムにおこなえることになるので、今後の胃がん治療に有用なツールとなる可能性があります。

この研究成果は、2 月 13 日付けで、科学誌『Gastric Cancer』のオンライン版に掲載されました。

研究概要

HER2 遺伝子の数が増えることによる「HER2 分子の活性化」は、乳がんや胃がんの一部の症例で悪性化の原因となっています。

現在は 手術時のがん組織を用いて、その陽性・陰性が診断されています。

胃がんの HER2 遺伝子増幅の症例では、外科治療後の再発時に、この分子を標的にした分子標的治療薬(Trastuzumab)などを用いた薬剤治療を行います(保険承認)。

しかし、「HER2 陽性胃がん」と診断されても、全てのがん細胞で HER2 増幅が起こっているわけではないために、再発したがんの中で HER2 増幅を持った細胞が主に増えていなければ、分子標的薬の治療効果は見込めないことになり、がんの奏功率は 50%程度に留まります。

今回開発された、血液中に流れるがん由来の DNA から高精度に HER2 遺伝子の増幅の有無を判定する方法は、採血のみで判定可能なので、身体に対する侵襲度が低い医療機器を用いた診断・治療が何度でもおこなえます。

今回の研究によって、手法の確立以外にも、解析された症例は少ないものの、いくつかの臨床的に重要な知見が得られました。

繰り返し採血できた症例では、「HER2 増幅の程度を示す値が、再発の進行と共に上がっていくこと」が確かめられており、このような患者さんでは分子標的薬を用いた薬物治療が有効な可能性があります(図1)

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図1・経過中にHER2陽性がんの再発を検出した例
手術切除組織で、HER2陰性と診断されていたが、再発とともに、血液中のHER2値が経時的に上昇し、がんの中のわずかなHER2陽性細胞が主に増えて、再発したと考えられた。

 

また、手術前に血液で HER2 増幅があることがわかっていた症例では、手術で一旦値が低下した後、再発と共に再度値が上昇し、分子標的薬を用いた薬物治療開始によって再発腫瘍が小さくなるとまた値が低下するなど、再発のモニターや治療効果のマーカーになることもわかりました(図2)

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図2・分子標的薬の治療効果をモニタリングした例
HER2陽性がんの手術後再発と、分子標的薬を用いた薬物治療の効果を経時的に検出することができた。

今後研究グループでは、症例を増やして臨床的な有用性を確認するとともに、検査の実用化のためのさらなる技術開発を進めていく方針です。


本研究成果のポイント

カラダへの負担を極力少なくした、胃がん治療の重要な標的分子(HER2)の遺伝子異常を、血液で検出できる検査方法が開発された。治療中、再発のモニタリングに有効とされる。


【出典】

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