子ども貧困基金/振るわぬ寄付責任は政府に
旗振り役の安倍晋三首相が言葉を超えた実績を示さない限り、「国民運動」も掛け声倒れになりかねない。経済界の反応の鈍さは、大胆な予算措置を伴う抜本的な対策に及び腰な政権の姿勢をそのまま反映していると言っていい。
子どもの貧困対策に向け、安倍首相らが発起人となって10月に創設した民間基金「子供の未来応援基金」への寄付金総額が、11月末時点で約300万円にとどまったことが明らかになった。
期待されていた経済界からの大口寄付が全くなかったためで、基金を原資として2016年度に始める予定だった事業の実施が、早くも危ぶまれる事態になっている。
そもそも18歳未満の子どもの6人に1人が貧困状態にある中、行政との役割分担も不明確なまま民間を頼った対策に安易さはなかったか、厳しく問われるべきだろう。
基金創設は、4月に提起された「子供の未来応援国民運動」の一環。個人や企業、大学から募った寄付金を活用し、学習支援や食事の提供、放課後の居場所づくりなどに取り組むNPOなどを支援することで、間接的に子どもたちの生活をサポートする。
寄付が振るわない原因について、政府内には「周知不足」を指摘する声もあるが、これまで安倍首相は、自ら経済界へのPRや働き掛けを繰り返してきている。
「国民運動」のスタートに当たっては、経済界幹部と発起人集会を開き、10月には連名で寄付を呼び掛けた。首相が掲げる「1億総活躍社会」の対策に基金の活用を明記し、政権の看板事業に位置付けもした。ここまでして「周知不足」もあるまい。
基金は大手企業による千万円単位の大口寄付を中心に、少なくとも年間1億円から2億円の寄付金が集まると想定し、1団体当たりの助成額を500万円程度と見込んでいたとされる。
円安を背景に過去最高益を記録し、与党への政治献金を大幅に増やした大企業が少なくなかったことを考えれば、経済界に余裕がなかったとは思えない。大口寄付が皆無だった事実は、経済界の「善意」に期待した制度設計が間違っていたことを示している。
政府の子どもの貧困対策のベースとなっている「子供の貧困対策大綱」は昨年8月に閣議決定された。だが、関係者の要望が特に強かった児童扶養手当や給付型奨学金の拡充は財源をめぐる問題から盛り込まれず、貧困率の改善など具体的な数値目標の導入も見送られた。
国が子どもの貧困の解消に責任を持つという当然の前提さえ打ち出していないことが、現行の対策のちぐはぐさにつながっていると言わざるを得ない。
官民挙げての「国民運動」と言いながら、実は民間の財布をあてにしているだけではないか。今回の基金の不振は残念ながら、国民にそんな疑念を生じさせた。
この機会に、約5年ごととしている大綱の見直しを前倒ししてでも、国の責任で子どもの貧困を解消する決意を明示し、行政と民間の役割分担を明確化する必要があろう。
2015年12月24日木曜日