「認知症+その予備軍1000万人時代」を間近に控えたこの国にとって、2016年3月1日は、画期をなす一日になったかもしれません。
2007年に起きた、認知症で徘徊中の男性が列車にはねられて死亡した事故で、JR東海と遺族とのあいだで争われた「見守り責任」をめぐる訴訟の上告審において、地裁・高裁の決定を覆す逆転判決が下されたのです。
「認知症の人とともに暮らす時代、ともに暮らす社会」が崩壊してしまうと警鐘を鳴らしてきた認知症サポート医・伊古田俊夫さんに、この判決の意義とこれからの課題について、緊急寄稿していただきました。
文/伊古田俊夫
最高裁の英断
2016年3月1日、最高裁判所で世間の注目を集めた判決が下されました。
最高裁第三小法廷(岡部喜代子裁判長)が、認知症を患っていた男性の妻(93歳)とその長男(65歳)の賠償責任を認めず、JR東海の請求を棄却する判決を言い渡したのです。すなわち、二審の判決を破棄し、家族側が勝訴、JR東海が敗訴となる逆転判決でした。
「当然そうあるべき」と考えていた結果とはいえ、ホッと安堵したというのが正直な気持ちです。当日は、モーニングショーでもこの話題が大きく取り上げられるなど、高い関心のある問題としてさまざまなニュース番組で紹介されていました。
認知症の人を介護する家族の方々もテレビに登場し、「みんな必死になって一生懸命介護している。そのうえ損害賠償を請求されたら、もう死ぬしかない」と涙ながらに訴えていました。
最高裁の英断に、敬意を表します。
介護の現場を震撼させた裁判
ことの発端は今から9年前、2007年の12月に、認知症の人がJR東海の線路に入り込み、電車にはねられて死亡した事故でした。たいへん痛ましい出来事でしたが、事故の処理をめぐって世間はアッと驚かされることになります。
JR東海は、こともあろうに死亡した男性の家族に、事故の処理にかかった費用719万7740円の損害賠償を請求したのでした。賠償額の内訳は、運行停止による損害や振り替え輸送の費用などです。
裁判の行方は、大いなる注目を集めました。下された判決に多くの市民が驚愕し、認知症の人を介護する家族たちは震撼したものです。一審も二審も、JR東海による損害賠償請求を認めたのですから……。
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