NTTドコモは3月2日、「地震予測システム」を研究する地震科学探査機構(JESEA)への協力と、基地局に設置したカメラで津波の状況を監視する「津波監視システム」の運用開始を発表した。
間もなく発生から5年を迎える東日本大震災の教訓をもとに、地震や津波の被害によって発生する通信障害からの早期復旧を目指す。
JESEAへの協力では、全国16カ所から地殻変動のデータをリアルタイムで送信し、地震予測システムの実証実験に活用する。各基地局にGPSで電子基準点との正確な距離を測定する装置を設置。収集した地殻変動のデータをモバイル通信でリアルタイムにJESEAに提供する。
JESEAが設置した測定ポイントは現在2箇所。ドコモが協力することで測定場所が大幅に増え、地震予知の精度向上が期待できる。携帯電話の基地局は地盤の安定した場所に建てられることが多く、通信インフラや電源も整っていることから、地殻変動をリアルタイムで測定・送信するのに向いているという。
津波監視システムは、海沿いの基地局に海面を監視するカメラを設置し、津波の発生や被害を確認する仕組み。沖合10キロまで見渡せるほか、遠隔操作でカメラのアングルを変え、基地局自身の通信設備が被災しているのかも確認できる。
カメラには太陽光パネルを用いた独自電源とマイクロ伝送装置を備えており、基地局が停電・停波しても監視を継続できるという。3月4日から運用を開始し、津波監視のノウハウを蓄積する。
いずれも災害の発生や被災時の状況をいち早く把握し、現地の情報をもとに移動基地局車や緊急用電源の手配など、基地局設備の復旧作業に生かす狙いもある。
またNTTグループは同日、石油精製・元売会社の業界団体である石油連盟と、災害時の石油供給について覚書を締結した。グループの重要拠点には緊急用電源を動かすための石油が備蓄されているが、東日本大震災では通常調達ルートからの供給が困難となり、燃料切れから設備が停止する恐れがあった。また給油するタンクローリーと貯蔵タンクでホースの金具が合わないといった問題も起きたという。これを教訓に、緊急時に政府を通じて石油の供給要請を行った際、各社の施設にスムーズに給油できる情報を共有する。
ドコモでは震災以降、被災時に基地局が停電しないよう、発電機やバッテリーの増強を進めてきた。基地局とコアネットワークを結ぶ伝送路を複数用意し、オペレーションセンターや顧客情報管理システム、メールセンターなどが入る重要設備を首都圏と関西、九州に分散させるなど、信頼性の強化を図っている。
さらに通常の基地局がダウンした場合に備え、被災時にのみに稼働して広域をカバーする大ゾーン基地局を全国106箇所に新設。当初は3G通信のみに対応していたが、LTE対応端末の増加やVoLTEの利用が増えていることから、2016年度末をめどに全てをLTE対応に更新する。LTE化で周波数の利用効率も上がり、被災時の通信容量が約3倍に拡大するという。
そして通常の基地局を活用した中ゾーン基地局も展開する。これは無停電化と複数の伝送路に加え、さらに遠隔操作でアンテナの角度を変えられるという基地局。信頼性をアップさせただけでなく、被災時にアンテナの角度を変えて、普段よりも広いエリアをカバー。災害で周囲の基地局がダウンしても、圏外になるエリアを減らすことができる。津波や火山、水害や雪害が多い山間部への設置が考えられ、2017年度末までに全国1200箇所に設置する計画だ。
ドコモではコアネットワークの仮想化も一部で開始し、トラフィックが集中した際に処理能力を柔軟に高めたり、故障時しても復旧までの時間を大幅に短縮するといった取り組みも行っている。
いつ起きてもおかしくないといわれる南海トラフ地震では、関東から九州の広範囲で大きな被害を受けると予想されている。ドコモは受け身の災害対策に加え、地震や津波の予知・予測といった一歩進んだ取り組みを通じて、通信インフラの確保を目指すとしている。
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