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第1話 幽霊
第1話 幽霊
2月5日金曜日
ウチの名前は、【太秦萌】17歳。
京都に住む、何の変哲も無い、彼氏無しイコール年齢の只の女子高生。
そして目の前でアイスを頬張っている、ショートカットの女子高生は、【松賀咲】。
幼馴染みで、部活は陸上部の彼氏無しイコール年齢の17歳。
隣で、携帯を弄りながらアイスを少しずつ食べている、ツインテールの眼鏡の女の子は、【小野ミサ】。
同じく幼馴染みなのだが、私服の高校に行ってるにも関わらず、コスプレで制服を常に着ている変な17歳。
3人は引っ越しをして、今は京都市内で別々の所に住んでいて、別々の高校に進学したが、今でも仲の良い3人組であった。
いつも地下鉄京都市役所前駅の地下街にある、アイスクリーム屋さんに私達3人は来ている。
ここのアイスクリーム屋さんは、私は京都で一番美味しいと思っていて、二人も同じく一番と思っていた。
「もう少しでバレンタインかぁ、萌は誰に渡すの?」
咲が、スプーンをくわえながら言った。
「ん~今年も本命はいないよ」
「だよねぇ、ウチらって本当にこんな高校生活をやっていて良いのかねえ」
咲はそう言って椅子に、もたれ掛かり天を仰いだ。
「……私居るよ」
ミサが、携帯を弄りながらボソッと呟いた。
『嘘!』
ミサの言葉に、二人は食い付いた。
「誰に渡すの?」
咲は、ミサに問いただしたのだが。
「成功したら言うわ」
携帯を弄りながら、そう言うだけであった。
まぁ何にせよ、今の所は我等3人組は、彼氏がいないのであった。
「萌の所のお姉ちゃんは、彼氏いそうやね」
咲は萌の前にスプーンをフラフラとさせながら言うと、萌は首を振り言った。
「あかんて、お姉ちゃんの好きな食べ物は、日本酒と漬物やで。
完全にオヤジやし、彼氏出来ても中身知ったら逃げるわ」
そう言って笑った。
「でもこないだ、男の人と歩いてはったで……口止めされたけど」
『嘘!?』
またしても二人はミサの言葉に、食い付いた。
「てか、口止めされてたら言ったらアカンやん」
咲が、慌てて言うと、ミサは冷静に切り返した。
「うん、だからそれ以上は、言わへん」
「そこまで言ったら言えよ!」
思わず萌はツッこんでしまった。
結局ミサは口を割る事はなく、ウチら3人は家路につくために、駅の改札口迄行くと、変な光景を見た。
「あれ、見て」
ミサが指差した方向を咲と一緒に見ると、優しそうな歳の取った駅員さんが、猫に話し掛けていた。
「何処から来たんですか?そろそろ、お帰りになりませんか?」
「にゃ~」
「暗くなってきたから、危ないし、帰らんと家の人が心配するで」
「にゃ~」
「あの駅員さん、猫に話し掛けてるで」
ミサが笑顔で言うと、ウチと咲も笑顔になっていた。
「奥中さん、代わりましょうか?」
そう言って出てきた、若い駅員さんが暫くしゃがみこみ、猫と見つめ合うと、猫が鳴きながら、出口の方向へ歩いて行き、その後を若い駅員さんがついていったのであった。
まさに、猫に案内される様に。
「……猫使いや」
咲がボソッと言った。
『うん』
思わずウチとミサも頷いてしまった。
終点の太秦天神川の駅に到着して、萌は家に向かい歩いていた。
すると、家路の途中には、猿田彦神社が在りいつもはその前を通って帰っていた。
いつもならば……
ただこの日は違った、何故か無性に神社が気になっていたのであった。
冬のせいで、日が落ちるのは早い。
比較的車の多い三条通とは対照的に、猿田彦神社の境内は、闇に包まれている。
普段なら気にする事が無かったのだが、夜の神社は不気味であり絶対に萌は入ろうとも思わなかった筈であった。
普段なら……
しかし、萌は何かに誘われる様に神社の境内に入って行ったのであったのだ。
暗闇の境内を歩いていると、車のライトに照らされて一人の女性が境内のすみに立っているのが写し出された。
幽霊だ!そう思った萌は、言葉も出ずに少しずつ後退りをしていくのだが、どうもその女性が気になる。
そう気になると言うか、見慣れた雰囲気であったのだ。
萌は意を決して、女性に近付きよく見ると、萌の姉の【麗】であった。
「お姉ちゃん、こんな所で何してんの?」
そう言って萌は近付いて行くのだが、麗に反応が見られない。
それどころか、その目には精気は無くまるで死んだ魚の様であった。
「お~い、お姉ちゃん……」
萌が目の前で、手をヒラヒラとさせたが、全く反応が無い。
それ所か、顔を下に向けて虚ろな眼で地面を見詰めている。
「もうお姉ちゃん、先に帰るで」
萌がそう言った時であった。
麗の右腕が、スゥーっと上がりそのまま地面を指差したのであった。
「もう、そんなんしてもビビらへんし!先に帰るから!」
そう言って萌は、振り返ると、麗を置いて神社を後にするのであった。
「ただいまぁ」
萌が家の玄関を開けると、家の奥からヒョッコリと顔を出した女性がいた。
「お帰り、夕飯はもうすぐ出来るから待ってて」
この女性は、ウチの母親の【華】。
普段から着物を着ている、まさにザ京都と言った女性だ。
しかし、東京出身で娘の私が言うのも何だが、美人でとても45歳に見えない。
……詐欺である。
「お母さん聞いてよ、お姉ちゃんが神社で、私を恐がらせようとするねんで。
私がお化け嫌いなん知ってるのに酷いやろ?」
「あれ?麗は仕事が終わったら、今日は飲み会で木屋町に行くって言ってたわよ。
見間違いじゃ無いの?」
「いやいや、あんなん見間違いやったら、それはそれで恐いし」
「それもそうね、不審者とかなら恐いしね」
そう言っている間に、玄関を開ける音と共に男性の声が聞こえた。
「ただいまぁ」
「お帰り、お父さん」
このバーコード頭の中年太りのオヤジは、私のお父さんの【太】50歳。
お母さん曰く、昔は男前だったのよ。
……想像出来ないし、有り得ない。
だが、性格は良い。
恐らく、お母さんもその性格が気に入ってると思う……そうであって欲しい。
「お父さん、駅から歩いて帰ってきたん?」
「当たり前やんか」
「神社にお姉ちゃん、おらんかった?」
「何を言ってるんや、麗は今日は飲み会で木屋町に行ってるやんか、それに神社には誰もおらへんかったで」
やっぱりお母さんと同じ答えや、でもあれは絶対にお姉ちゃんやった。
明日にでも聞いてみるか。
そう萌は思い、夜はふけて行くのであった。
2月6日土曜日
萌はまだ眠い目を擦りながら、リビングに降りて来ると、リビングのソファーで麗が爆睡していた。
こやつ、また最終まで飲んでたな。
このソファーでお父さんが見たら、嘆くで有ろう姿で寝ているのは、我が姉の【麗】25歳。
外見は、綺麗なOLのお姉ちゃんなんだが、日本酒大好き、漬物大好きで毎週末には飲み歩く、内面がオヤジの残念な姉である。
「お姉ちゃん、お父さんが見たらまた怒られるで」
そう言って、揺すったがなかなか起きない。
まぁこれくらいで起きる、我が姉では無い事は解っていた、ここから起きて、二日酔いがいつもの土曜日の光景である。
萌はそのまま台所に行きコップに水を入れて、冷蔵庫から、氷を1つ取りだし麗の元に持ってきた。
……ニヤリ
思わず、寝ている麗の上で、萌は悪魔の様な笑みをこぼした。
そして、持ってきた氷を麗の胸元から、入れると麗が変な声で飛び起きたのであった。
「ふにゃっ!」
「お姉ちゃん、おはよう」
「冷たっ!冷たっ!」
慌てて麗が服をパタパタとはためかせ、氷を急いで取りだして、恨みのこもった眼で一瞬、萌を見たのだが、直ぐに口元に手を当てて下を向き萌に言った。
「……ぎもぢ悪い……萌、水……」
「はいはい」
そう言って、持っていたコップを麗に差し出すと、麗はコップをぶん取り、一気に飲み干した。
「また最終まで飲んでたん?」
「1件目で木屋町で飲んでたんやけど、2件目に烏丸御池のいつもの日本酒のバーで飲んだら、エンジン掛かってしもた……」
「1件目で止めたらええのに……せや、お姉ちゃん昨日、神社の境内で私をビビらそうとしたやろ?」
「神社ってそこの猿田彦神社?」
「そうそう」
「何をアホな事言ってるんや、昨日は仕事終わったら直ぐに木屋町に行ったで……幽霊でも見たんちゃうか?」
有り得へん……あれは絶対にお姉ちゃんやった。
でも、お姉ちゃんは嘘をついている様には、見えへん……じゃあ、ホンマに幽霊やった?
そう考えた萌は、強烈な寒気に襲われた。
その日の夕方。
「お姉ちゃん行こうやぁ」
萌は、麗の部屋に行き一緒に神社に行こうと誘っていた。
「だから、何で行かなあかんねん、寒いやん!」
麗は、暖房の効いた部屋でジャージ姿でゴロゴロしながら言っていた。
ホンマにこの姉は、家では女子力0の干物女やねんから!
そう言いたかったが、ウチはグッとこらえた。
「ほな、コンビニで何か奢るから」
「……ピザまんと、コーヒー」
「……ピザまんだけは?」
「あかん、ピザまんと、コーヒーはセットやねんから」
我が姉ながら、訳の解らん拘りを持っとるな……しゃあないか。
「んじゃそれで」
「んじゃ準備するわ」
そう言って麗は、急いで着替えていた。
「ちょっとお姉ちゃんと、コンビニ行ってくるわ」
「晩御飯迄には帰って来なさいよ!」
お母さんのそんな言葉を背に、私はお姉ちゃんと神社に向かった。
家から出て、三条通りをコンビニの方向に向かうと、途中に神社がある。
ウチらは、先ず神社に向かった。
神社の境内に入り、昨日女性の立っていた場所に行くと……居ない。
「……おらへんやん」
解ってますよお姉様。
「昨日は、ここに居たのに何で?」
「居たのに何で?ちゃうで、まぁピザまんとコーヒーが貰えるからエエけど」
「所で、お姉ちゃんその格好は何で?」
そうお姉ちゃんは、マスクに眼鏡、更にはネックウォーマーの重装備で、出てきたのである。
「これなら化粧せんでええから、楽やねん。
しかも暖かいから、一石二鳥やし」
「……ずぼらなだけやん」
「ハイハイ、とっととコンビニ行くで」
「痛っ、お姉ちゃん痛い!」
寒い中で、耳を引っ張られた……これはホンマに痛い、妹に対しての扱いが酷すぎる。
こうして二人はコンビニに行き、萌はきっちりと麗に奢らされて、コンビニを出ると、夜の闇が辺りを包みかけていた。
「萌、知ってるか、こんな時間の黄昏時の事を、昔は《逢魔が時》って言うねんで」
「何それ?めっちゃ恐いネーミングやん」
絶対にビビらそうとしてるわ、我が姉ながら性格悪いなぁ。
でも、そんなんでビビる程、子供とちゃうし。
「人間は家に帰り、その代わりに魔物が出歩くって時間や。
もしかして、萌の見た幽霊が出るかもなぁ……見に行くか?」
「お、おぅ……行こうやないの」
ま、まぁホンマにいるか解らんけど、お姉ちゃんもおるから大丈夫やろう。
そう考えながら神社の境内行って見ると……いた。
前回と同じ場所で、同じポーズをとっている、顔も相変わらず、血の気の引いた顔で虚ろな眼で、下を向いている。
「出た……いるやん、てかホンマにお姉ちゃん、違ったんや」
「えっ?何処?」
まさかお姉ちゃんには見えて無いの?んじゃホンマに幽霊やん!
「う、うぁぁぁ!」
萌は、慌てて走ってその場から逃げて、麗もそんな萌を追い掛けて神社を後にした。
家の前で、麗は萌に追いつき腕を掴んで聞いた。
「ホンマにおったんか?」
こんなに心配している、お姉ちゃんは初めて見たな。
そう思いながら、萌は黙って頷いた。
「取り合えず寒いから、家に入って聞こか」
そう言って、二人は家に戻り麗の部屋で話す事にした。
「で、どんなんやったん?」
「……お姉ちゃんそっくりで、地面を指差してた」
「ウチそっくり……まさか御先祖様かなぁ」
「そうなんかな?」
「せやろ、害が無いんやったら御先祖様やって、気を取り直してご飯に行こ」
そう言ってお姉ちゃんと部屋から、出ていったんやけど、私は信じられない物をお姉ちゃんの部屋で見た。
お姉ちゃんの部屋に掛けてあった、フレアスカートと袖がロールアップのオフィスカジュアルの服……あの幽霊と全く同じ服装やった。
と言う事は御先祖様と違って、お姉ちゃん?……でもお姉ちゃん生きてるしなぁ。
この時、もう少しちゃんとお姉ちゃんと話してれば、あんな事にならなくて済んだのかも知れない。
そうすれば、あんな気持ちを味わい、苦しまなくて良かったのかも知れない。
そんな事とは知らず、ウチはお姉ちゃんの後を追って、一階に降りて行ったのであった。
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