仲間を増やすために、
ベテラン農家がぜひとも伝えたいこと。
若者は、こんなふうに「師匠」に学んで一人前になる。
「先輩から伝授したいこと」コーナーより
鍬を引くのも葉物の収穫も
腰痛知らずでラクラクな体の使い方
奈良県宇陀市・(有)山口農園
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体重を股関節に乗せる練習をする3人。牧野裕三さん(中)と研修生の溝口裕子さん、好地史さん(写真はすべて田中康弘撮影) |
「力のない高齢農家が、なぜ見事なウネをスピーディーに立てられるのか?」
疑問に思った(有)山口農園の教育部長、牧野裕三さんは、ベテラン高齢農家の動きをつぶさに観察した。すると、鍬を引く時も、収穫する時も、股関節に体重を乗せて作業していることがわかった。「このやり方だと、軽い力ですむし、腰も痛くならない」と牧野さん。
山口農園が開設する有機農業の職業訓練学校に1カ月前に入校した研修生・溝口裕子さん、好地史さんと一緒に、股関節を意識した鍬の使い方と収穫法を教えてもらった。
股関節に体重を乗せるには?
股関節に体重を乗せるにはコツがある。肛門を締めるように意識して腰を入れることだ。仙腸関節を体の内側に引き込むようなイメージ(右図)。どの作業でも、腰を入れることが基本となる
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腰で体重を支えていると、上から押したときに首が後ろにそってしまう |
頭のてっぺんから地面に向かってまっすぐ押すと、体のどこで体重を支えているかがわかる。股関節に体重が乗っていると、安定する |
鍬を使う
基本の構え(右利きの場合で説明)
どんな鍬を使う時でも、この構えから始める
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腰を入れた状態でまっすぐ立ち、鍬の柄の先をへそで支える。この状態で、鍬の刃が土をすくいやすい角度になる柄の長さの鍬を選ぶ |
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肩幅と同じ広さに足を開く。つま先は必ず前に向ける |
左足を半歩下げ、外側に軽く開く。右足と左足のかかとの延長線が45度で交わるようにする |
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左手で鍬の柄の先を握る。こぶしひとつ分空けて、右手で柄を握る。目線は、鍬の刃先。膝を軽く曲げ、重心を左脚股関節に。左脚の股関節に7、右脚の股関節に3のイメージ |
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いざ、鍬を引く
まず左足を引き、次にすり足で右足を引いて後ろに進む。右足を引くのと同時に左手で鍬を引く。この時、左脚の股関節に体重を乗せる。引き終わったら、自然と基本姿勢に戻るようにする。右手は添えるだけで力はほとんど使わない。作業中、目線は刃先から外さない |
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小学校時代に合気道の経験がある溝口さん。すんなりと右脚股関節に体重を乗せて鍬を引けた(溝口さんは左利き) |
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鍬を引く時に両脚で体重を支えている好地さん。刃先も見ていない。「左脚の股関節に乗せるの、難しいです」 |
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葉物を収穫する
股関節に乗せれば 収穫もラク
葉物の収穫作業は片膝立ちでやっていたという研修生の2人。長時間やっていると腰が痛くなる。上半身の体重を腰だけで支えているからだ。股関節に体重を乗せれば、腰の負担もやわらげられる |
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腰が曲がっている。この姿勢で長時間作業すると、腰痛に |
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かかとをつけてしゃがむと、上半身の体重は、股関節で支えられ、腰の筋肉が伸びる |
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片足をお尻の下に回し、その上に座るとよい |
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おまけ 葉物野菜収穫のコツ
葉物を収穫する時の手の向きも大事
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親指を下にして株の根元付近をつかむ。親指側に力が入るので抜きやすく、収穫時に茎が折れにくい |
親指を上にしてつかむと、力が入りにくいうえに茎が折れてしまう |
好地さんはさっそく、教わったやり方で収穫し始めた。牧野さん、ありがとうございました |
取材時に撮影した動画が、ルーラル電子図書館でご覧になれます。
http://lib.ruralnet.or.jp/video/

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この記事の掲載号
『現代農業 2016年1月号』
特集:新規就農者を育てるノウハウ 地域の酒蔵がオレたちの米を待っている/生育診断で環境制御がレベルアップ/果樹の夢のような仕立て/重箱式巣箱で飼う日本ミツバチ/肉牛一貫経営に今、大注目/カラフルもちでひと稼ぎ/農協の准組合員問題とは/TPP大筋合意の許しがたいほど不都合な真実 ほか。 [本を詳しく見る]
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