2001年、株式会社インターメスティックの運営する「Zoff」の登場により、日本のメガネ流通の世界は大きく変わった。それまでのメガネの平均単価といえば30,000円前後。ところが「Zoff」の店頭に並んでいたのは、5000円、7000円、9000円というスリープライスだった。しかも、それは単なる価格革命ではなかった。約1200種類ものデザインを用意し、一人あたり数アイテムを保有する“着替えるメガネ”を提案。視力矯正を担っていたメガネが、ファッションアイテムへと昇華した瞬間だった。現在では、ディズニーコレクションをはじめ、有名なアニメやゲームなどのコラボ商品にも注力。相変わらず店頭には多くの顧客が溢れ、そのすさまじい集客力に圧倒される。
そんな「Zoff」がECサイトの運営を開始したのが2011年のこと。それまで運用していたブランドサイトの商品一覧ページからメガネが購入できるという簡易的なものからのスタートであった。
「製品開発や店舗運営も同様ですが、新しい取り組みに対しては、まず小規模から素早く始めて、反応を見ながら次の手を打っていくというのが、弊社の根底にある姿勢です。まずは、“ECサイトで度付のメガネを販売する”ことを着地点として試験的にスタートしたのです」と語るのは、同社情報システムグループマネージャーとダイレクトマーケティング事業部のマネージャーを兼務する得田雅史氏。当時は、まだ度付のメガネを販売するサイトは他に存在しなかったものの、あらゆる小売業界において、急激にECの普及が進んでいた時期。洋服や靴を扱うサイトでは、試着なしでも商売が成立していたため、誰もがECでメガネを購入する時代も間違いなくやって来るであろうと確信していたという。
「参考にしたのは、BTOパソコンのサイト。パーツをカスタマイズするのと同様に、ユーザーがメガネフレームを選んだ時点で、装着可能なレンズを提示しセレクト。ケースを選んでご注文をいただくという、実にシンプルなものでした」(得田氏)
手ごたえはあった。ECサイトからメガネを購入するユーザー数は順調な伸びを示し、何よりも度付のアイテムを購入する顧客が、利用者全体の5割に達していたのは喜ばしい“想定外”であったという。
「世の中全体の風潮として、ECサイトでモノを購入することへの抵抗がなくなっていたという背景に加え、店舗がなかったエリアのお客様にもアピールができた点、さらにコラボ商品をTOPページに配し、そのコラボ先のブランドのファンにも強く訴求できたのが勝因であったと感じています」(得田氏)
トライアル要素が強かった初期のサイトで好感触を得た同社は2012年、本格的なECサイトの構築をスタート。これまでは社内のシステム担当者が手探りでサイト構築・運営を行っていたのだが、現状のメンバーでは限界を感じていたという。専任部隊が必要であると判断した同社に新たに迎えられたのが斑目拓也氏だった。それまで、WEB制作会社に属し、多くのECサイトの構築を経験してきた斑目氏は、まず「ユーザビリティに乏しく、非常に使いづらいサイトだったので、やるべきことは山積みだと感じていました」という。
新ECサイトの構築には、いくつかのテーマを設けられていた。まずは、特別なコンテンツを追加する際に、自由度の高い表現方法を用いたいということ、また人気のコラボ商品が発表された際、アクセスが集中することで起こるサーバー負荷の分散軽減対策、そして何よりもこだわっていたのがユーザビリティだった。メガネ選びや購入フローをより簡素化することで、確実に売り上げ実績があがると確信していた得田氏と斑目氏は、モニターに既存のサイトを使用してもらい、操作中は「どこで迷うのか?」「どの画面をよく見るのか?」など、ユーザー調査を徹底的に実施。サイト設計に役立てたという。
「実際の声を聞くと、作り手側の認識と大きく違っていることがわかります。例えば、私たちは“PCメガネ”とか“軽いメガネ”とか、機能性を切り口とした目的買いからサイトに入ってこられるのかと思いきやそんなことはなく、多くのユーザーが、どんなメガネがあるのかが一目でわかる一覧ページに滞在し、そこから好みのモノを選んで購入していく傾向があったのです」(斑目氏)
洋服の場合であれば、“こういう感じのパンツがほしい”と、ある程度の自分の好みがあり、目的があって探しに行くのだが、メガネの場合には、自分の好みがそこまで固まっていないと分析。「こういうメガネが欲しいと、しっかり言語化ができていないのであれば、より多くの商品を見せることで購買動機を促せるのではと判断し、一覧で判断ができる程度のサイズの画像を用意したのです」(得田氏)
ユーザー調査から判明したのはそれだけではなかった
「ユーザーの属性を調べてみると、メガネをファッションアイテムとして購入する割合はまだまだ少なく、全体の2割程度。残りの8割は、“壊れたから購入する”という実用ユーザーでした。社内の感覚としては、もう少し前者が多いと思っていただけに、意外な結果ではあったのですが、逆にこの2割をどれだけ広げていけるのか、一つの目標ができたのは間違いありません」(斑目氏)
2割に留まっているファッションユーザーを拡大する手段のひとつに、コンテンツの充実があるという。例えば、プロダクト軸だった見せ方からモデルを起用した着用イメージの提示に切り替えていくなど、いくつもの方法論を試しながら進めていくのは、同社の根本方針であるのはすでに述べた。そのためには、柔軟性の高いシステムの活用が必須となる。
「EC-Orangeは、クーポンやセール対応など、基本的な機能はひととおり揃っているし、パッケージとは言ってもカスタマイズの自由度も高い。当社が掲げていた思想にぴったりマッチしていました。エスキュービズムさんには、今後も様々なカタチで助言をいただけると期待しています」(得田氏)
リニューアルの効果は数字として顕著に表れていた。現在、前年比120~150%でECの売上が推移。度付レンズの購入者も全体の6割にまで達しているという。その要因としては、ページデザインや商品レイアウトの工夫はもちろん、別ページに遷移しなくてもメガネの度数の入力ができるようになったことや簡易な決済フローなどのシステム改善があげられる。
当面の目標を達成した同社が目下、注力しているのがスマホ専用サイトの構築、そして店舗とECデータの連携だ。
「理想なのは、朝の通勤電車の中でお気に入りのメガネを見つけ、スマホで気軽に購入していただくこと。ログインして、メガネのフレームを選ぶだけで、(現在はユーザーが手動で入力している)過去の店舗でのレンズ度数データが自動で参照され、ぴったりなレンズが選択される。そして会社帰りに最寄の店舗で受け取ることができるような、そんな手軽な購買環境を用意することです」
同社が考える小売りのミライ。それは、店舗とECのデータ連携がさらに強化されることで、 気になった洋服を衝動買いするような感覚でメガネをもっと気軽に購入できる環境づくり。それが実現できれば、さらにメガネが身近なファッションアイテムとなるに違いない。業界の常識を大きく変えた革新者は、実は地に足を着けながら、着実にヴィジョンを具現化していく。
常時約1,200種類ものメガネ・サングラスを取り扱うメガネ通販サイト。ユーザー調査をもとに、どんなメガネがあるのかが一目でわかるデザインに工夫されている。