編集委員・石飛徳樹 ロサンゼルス=藤えりか
2016年3月1日19時42分
俳優部門のノミネートが2年連続白人ばかりだったことで批判にさらされた米国の第88回アカデミー賞。まれに見る混戦と言われた作品賞には「スポットライト 世紀のスクープ」が選ばれた。カトリック教会による組織ぐるみの犯罪隠蔽(いんぺい)を暴く新聞記者の物語だ。
授賞式は2月28日(日本時間29日)に開かれた。作品賞の発表直前までは「レヴェナント:蘇(よみが)えりし者」がレオナルド・ディカプリオの主演男優賞、アレハンドロ・G・イニャリトゥの監督賞を含む3部門、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が技術系6部門を獲得。この2作が他を圧していた。
前者は、厳寒の未開拓地に入った猟師(ディカプリオ)が次々訪れる窮地を切り抜けていく物語。後者は、恐怖政治を敷く支配者側と主人公たちが激しいカーバトルを繰り広げる。いずれも脚本を緻密(ちみつ)に組み上げるタイプではなく、映像と音響のパワーで押しまくることで評価を得た。
過去10年の作品賞をみると9本が脚本賞か脚色賞を得ている。唯一の例外は無声映画の「アーティスト」(2012年)。ただ脚本賞候補にはなっていた。ところが「レヴェナント」も「マッドマックス」も脚本・脚色賞の候補にもなっていない。いずれかが作品賞ならば、映画にとって画期的な出来事になるはずだった。一方、「スポットライト」は脚本賞とダブル受賞。混戦の中で、アカデミー会員は脚本のしっかりした伝統的な骨格を持つ作品を選んだ。
舞台はボストン・グローブ紙の編集部。新しい上司が着任し、困難な取材を命じる。最初は面倒臭がっていた記者たちも徐々にその気になり、ついに特ダネをものする。彼らはスター記者ではない。ごく普通の人間たちだ。それゆえにかえってスリリングで共感を得やすい展開になった。
作りは伝統的だが、主題は挑戦的だ。劇中に「カトリック信者の購読者を失う」と危惧する場面がある。映画の作り手にも同じ不安があったはずだ。それをはねのけて映画は完成し、アカデミー会員はそれに最高の栄誉を与えた。
ほかにも、ウォールストリート・ジャーナル紙ほか実在の社名を挙げて金融資本主義を痛烈に風刺した「マネー・ショート 華麗なる大逆転」が脚色賞。LGBTを扱って助演女優賞を受けた「リリーのすべて」など社会的主題を扱った作品が目立った。人種問題でミソをつけたアカデミー賞だが、作品選びに関しては今年もリベラルな姿勢を示した。(編集委員・石飛徳樹)
■白人偏重、海外受けを意識
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