韓国政府関係者が続ける。
「昨年末の12月30日、北朝鮮は、長年韓国担当の書記だった金養建統一戦線部長が、前日の早朝に交通事故で死去したと発表した。金養建は開城工業団地の北朝鮮側の責任者でもあり、決して有能とは言えないが、話の分かる人物だった。
おそらく金正恩は、こうなる展開を見越して、金養建を殺してしまったのだろう。あるいは金養建が、このような展開に異議を唱えて殺されたかだ。われわれとしては金養建が粛清された時点で、開城工業団地が閉鎖に遭うかもしれないと覚悟していた。
今後、朴槿恵政権としては、この124社への多額の補償問題などを抱えるが、それでも北朝鮮に大量の『人間の盾』を取られるよりは、ずっとマシだ。そんなことになったら、4月の総選挙はもたないし、朴槿恵政権崩壊の危機となる」
米韓合同軍事演習 vs 北朝鮮サイバーテロ部隊
韓国では、近く北朝鮮からの「報復攻撃」があると見て、最大限の警戒を敷いている。韓国が警戒しているのは、主に次の4点だ。
①延辺島を始めとする西海(黄海)5島への砲撃
②東海(日本海)を南下して、江原道への工作員の上陸及びテロ
③38度線の板門店付近への陸上攻撃。特に接収した開城工業団地からの砲撃
④ソウルや釜山など、大都市へのサイバーテロ
このうち、私は個人的に最も可能性が高いのは、④のサイバーテロだと見ている。それは次の4つの理由による。
第一に、北朝鮮のサイバーテロ部隊(偵察総局)は、金正恩第一書記自身が2009年に創設した部隊だからだ。第二に、米韓軍と圧倒的な力の差がある陸海空の伝統的戦力と比較すると、相対的に戦力の差が少ない。第三に、2011年4月に韓国の農協のサーバーを襲撃して以来、北朝鮮のサイバーテロは何度も成功体験がある。そして第四に、犯人が特定されにくいため、米韓軍の報復を受けにくいからである。
韓国政府の調査によれば、北朝鮮のサイバーテロ部隊は、全国の小学生の中から理系の天才児をピックアップして、平壌の金星中学校に集め、徹底したコンピュータ教育を施す。その中から厳選して、朝鮮人民軍総参謀部傘下の自動化大学(美林大学)でハッカーの英才教育を受けさせ、偵察総局に送り込むというわけだ。サイバーテロ部隊は、すでに1000人以上の規模に膨れ上がっているという。
ともあれ、国連安保理の北朝鮮制裁決議を受けて、実戦さながらの米韓合同軍事演習と、北朝鮮精鋭のサイバーテロ部隊が対峙する。3月の朝鮮半島は、一触即発の事態を迎える。
<付記>
上海G20蔵相・中央銀行総裁会議が先週末に開かれましたが、中国経済の減速、原油価格の低迷、米景気の足踏み、新たなEU危機という4つのリスクについての「解答」は得られませんでした。そのうち、中国経済の減速について、昨年来の現地の事情を踏まえて論じたのが本書です。どうぞご高覧ください!
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今週のコラムでは、北朝鮮の地政学的リスクについて述べたが、世界中の最新の地政学的問題について、ジャーナリストの船橋氏が斬り込んだのが、この新刊本だ。例えば北朝鮮については、次のように記している。
〈 北朝鮮が崩壊する可能性が強まっている。2016年1月の金正恩体制下の核実験は、この国をさらに孤立へと追いやることになるだろう。北朝鮮はこのままでは、爆発(外)か自爆(内)の暴発のいずれのシナリオもありうる。そうなった場合、朝鮮半島の行方が日本の安全保障にとって再び、死活的な意味を持つ 〉
このような船橋氏の博学多才な地政学的見解が、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、中東、そして日本と、論じられていく。日本は小さな島国ではあるけれども、その将来を考えるには世界とアジアの地政学を学ぶ必要があると、再認識した次第である。