外貨獲得にストップをかけようとしたアメリカ
続いて、③の北朝鮮に出入りする貨物船に対する検査の義務化、及び④の兵器輸出禁止は、中国にとっては痛くもかゆくもない。そもそも北朝鮮に対する武器輸出は行っていないからだ。
胡錦濤・金正日の「中朝蜜月時代」には、瀋陽軍区(現在の東部戦区)で北朝鮮空軍のパイロットを訓練させてやっていたが、習近平・金正恩の「中朝冷戦時代」になって、それもなくなった。今回、検査を厳しくすることで、中国としてはむしろ、麻薬だの偽札だのといった物騒なものが入国するのを防ぐ手立てにもなる。
最後の⑤と⑥、いわゆる金融制裁に関しては、前述の中国外交関係者の話を聞こう。
「アメリカは当初、北朝鮮企業及び個人の銀行口座凍結や、北朝鮮労働者の海外での雇用禁止といった強力な内容を求めてきた。
アメリカの『成功体験』は、2005年9月に米財務省が、マカオのバンコ・デルタ・アジアにあった金正日総書記の隠し資産52口座2,500万ドルを凍結したことだった。それによって北朝鮮はパニックに陥り、同時期に北朝鮮が6ヵ国協議で保証した核凍結合意も反故にしてしまった。
アメリカは今回それを、大幅に拡大しようとしたのだ。また、昨今の北朝鮮最大の『輸出品』である労働者を帰還させることで、外貨獲得にストップをかけようとした。
だが銀行口座の凍結や労働者の帰還を強制すれば、金正恩政権の転覆に直結することになり、金正恩第一書記の暴発を招いて、北東アジアが大混乱に陥る。そこで、『核とミサイル開発の封じ込め』に徹するよう押し戻した」
アメリカのケリー国務長官と中国の王毅外相は、1月27日に北京で、2月12日にミュンヘンで、そして2月23日にはワシントンでと、計3度にわたって米中外相会談を開き、対北朝鮮制裁の詳細を詰めたのだった。
これは換言すれば、アメリカ側の素案を100とすれば、それを90、80・・・と引き下げる作業だったのである。前回2013年3月の時と異なり、ここまで時間がかかったのは、現在の米中が微妙な関係にあるからに他ならない。
「米中関係指数」は下降トレンドにある
1979年の国交正常化から現在までの米中関係は、極めて複雑な大国関係である。あまりに複雑かつ時々刻々変化していくので、分析するのは容易ではない。
そこで私は、まずざっくりと、ベクトルで見るようにしている。つまりその時々の米中関係が、良好の方向に向かっているか、悪化の方向に向かっているかという「波動」を見るのである。いわば株価の変動のような大まかなバイオリズムを捉えるのだ。
その点、現在の「米中関係指数」は、明らかに下降トレンドにある。原因は、先週のこのコラム(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47993)で記したように、アメリカの韓国へのTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備計画と、南シナ海における米中の攻防である。
アメリカも中国も、今回の北朝鮮の「暴発」を、朝鮮半島北側の局所的なものではなく、もっとグローバルな問題と捉えている。つまり、「第一列島線」と呼ばれるカムチャッカ半島から、日本列島、台湾、フィリピン、大スンダ列島へと下る南北のラインを、アメリカが死守するか、それとも中国が奪還するか、という攻防の一環として捉えているのだ。
米中は、あたかも西太平洋という「碁盤」で碁を指している敵対手のようなものだ。中国は南シナ海の岩礁埋め立てという「布石」を打った。それに対してアメ リカは、「航行の自由作戦」を展開し、「止め石」を打つと同時に、北側にTHAAD配備という大きな「布石」を打とうとしている。