3月の朝鮮半島は一触即発! 「制裁決議案」採択後、金正恩の報復がはじまる

2016年02月29日(月) 近藤 大介
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北朝鮮の暴発リスクを軽減しつつ、ロシアにも配慮

この新たな制裁案について、もう少し具体的に見ていこう。

まず、①の燃料の供給停止によって当面困るのは、北朝鮮の国有航空会社、高麗航空である。

高麗航空は、北京と平壌間を月火木金土の週5回、瀋陽と平壌間を水土の週2回往復している。これらがストップすることになるだろう。その際には、中国国際航空や中国東方航空などが、平壌便を肩代わりすることになるのではないか。そうなると、中朝の二国間問題だから、北朝鮮が中国に恭順の意を示せば、北朝鮮客は無料か大幅割引するなどして、便宜を図ってやることができる。

②の禁輸措置は、上記の6点の中で、私が中国外交に最も感心した点である。

もともと北朝鮮で石炭や鉄鉱石などの開発を始めたのは、中国企業だった。今世紀に入って、石炭や鉄鋼バブルに沸いた中国が、安くて質のいい北朝鮮産鉱物に目をつけたのだ。それに、外貨獲得を狙う金正日総書記と張成沢党行政部長が乗った(どちらもいまは亡きツートップだ)。

ところがここ数年、中国は国内の生産過剰に悩まされたことと、契約上のトラブルなどから、ほとんどの中国企業が、北朝鮮の石炭及び鉄鋼事業から撤退した。だが北朝鮮側は、無理やり安くて質の高い鉱物を中国市場に出してくるので、困っていたのだ。だから今回、渡りに船とばかりに、北朝鮮産鉱物が中国市場に出回るのを抑え込んでしまったというわけである。

「ただし国民生活に影響が及ばない範囲とする」と、もったいを付けたのは、二つの意味がある。

一つは北朝鮮に対して、「これは中国の国益を優先させた勝手な行為ではなくて、あくまでも制裁の一環として行うものだ」と示すことである。その言外には、北朝鮮の今後の出方次第で、中国が北朝鮮国民の生活を向上させるためにインフラ整備を施すことを示唆している。そうすることで、北朝鮮が怒りに任せて暴発するリスクを軽減させているのである。

もう一つの意味は、ロシアへの配慮である。北朝鮮での石炭及び鉄鋼事業から中国が撤退した後、それを引き取ったのはロシアだったからだ。

2011年8月、金正日総書記は最後のロシア訪問で、メドベージェフ大統領と一つの合意に達した。それは、北朝鮮が抱えているロシアに対する累計110億ドルあまりの債務の9割を免除し、残りの1割を「現物支給」で受け取るというものだった。それが石炭及び鉄鋼事業だったのである。

ロシアからすれば、自国の極東地域のインフラ整備を行うには、安い北朝鮮産を使うのが、最も手っ取り早かった。加えて、中国を牽制するために、背後の北朝鮮を取り込もうとしたのだった。このロ朝間の合意は、2014年4月にロシア国会が批准し、確定している。

それが今回、ウクライナやシリア問題を巡ってロシアと敵対するアメリカの思惑も重なって(つまり中国がアメリカに貸しを作って)、ロシアが割を喰うような決議案を作ってしまったのである。

今回の合意案作りは、完全に米中2ヵ国だけで行われ、6ヵ国協議のメンバーである日本、韓国、ロシアは外された。そこで中国としてはロシアに対して、「アメリカがものすごく強引だったが、中国の尽力で何とか、『ただし国民生活に影響が及ばない範囲とする』という一文を入れて、ロシアが完全に割を喰わないように配慮した」と言い訳したというわけだ。

だが2月25日に決議案を見せられたロシアは、蒼くなった。ロシアからすれば、「ふざけるな!」という案文である。そこで、「持ち帰って詳細に検討する時間が必要だ」として、即決に難色を示したのである。

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