愛知県で2007年、徘徊(はいかい)中に電車にはねられ死亡した認知症の男性(当時91)の家族にJR東海が損害賠償を求めた訴訟の上告審判決が1日、あった。最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は妻に賠償を命じた二審判決を破棄し、家族の責任を認めない判決を言い渡した。JR側の逆転敗訴が確定した。
同小法廷は監督義務について「生活状況や介護の実態などから総合的に判断すべきだ」との初判断を示し、「男性の家族は監督可能な状況になかった」とした。在宅介護の現場への影響を抑えた格好だが、状況によっては責任を問われる場合もありそうだ。
民法は責任能力のない人が与えた損害は「監督義務者」が賠償責任を負うと規定。一審・名古屋地裁は長男と妻の責任を認め、2人に約720万円の賠償を命令。二審・名古屋高裁は妻のみ責任を認め、約360万円の支払いを命じた。
この日の同小法廷は判決理由で「同居する家族だからといって直ちに監督義務者に当たるとはいえない」と指摘。監督義務を負うかは「介護者の生活や心身の状況、同居の有無や日常的な接触の程度、介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきだ」とした。
今回については、妻は当時85歳で要介護1と診断され、長男も同居していなかったとして「いずれも監督可能な状況にあったとはいえない」と結論付けた。裁判官5人の全員一致。
一、二審判決によると、男性は07年12月7日、自宅で妻と長男の妻が目を離した間に外出し、愛知県大府市の線路に入って電車にはねられ死亡した。JR東海は家族が監督義務に違反していたとして、賠償提訴した。
JR東海の話 列車の運行に支障が生じ、振り替え輸送の費用が発生したことから裁判所の判断を求めた。最高裁の判断を真摯に受け止める。