おどけた調子のコメディアンが、シリアスな映画やドラマに起用された途端、役者も真っ青の迫真の演技を見せることがある。その時、観客は初めて彼がプロとしてコメディアンを演じていたことを知る。DeNAのアレックス・ラミレス新監督もそんなプロの一人だったようだ。陽気なキャラクターとパフォーマンスでファンを喜ばせた現役時代からがらりとイメチェン。地道な「ボンジテッテイ(凡事徹底)」をスローガンに掲げ、こまめにメモを取りつつ、身の丈に合わせた守り重視のチームづくりを進めている。
■ベンチから捕手へ1球ごとにサイン
2月13日、沖縄・浦添で行われたヤクルトとの練習試合。1球ごとにベンチを見つめる新人捕手・戸柱恭孝の視線の先にラミレス監督がいた。耳たぶ、鼻、帽子のツバと動く右手。出していたのは配球のサインだ。
「コーチとは相談せずに決めている。これまでDeNAのバッテリーは内角を攻め切れていなかったから」とラミレス監督。光山英和バッテリーコーチは「ベンチも一緒に配球を考えようという発想。お互いの意図が一致し、捕手自身がポンポンとサインを出せるようになれば、監督の指示も減るだろう」と話す。
昨年のDeNAは球宴前まで首位を走りながら、終わってみれば最下位に沈んだ。得点は優勝したヤクルトに次ぐセ・リーグ2位の508だったが、守りのほころびが大失速を招いた。その象徴がバッテリーミスだ。捕逸はリーグワーストより1つ少ないだけの11。暴投は次に多い阪神を26も上回る68を数え、プロ野球ワースト記録に並んだ。記録上は投手のミスでも、捕手が止められるワンバウンドをそらす場面も多かった。
ベンチによる配球指示には、捕手の仕事の優先順位が明確に表れている。ラミレス監督はキャンプイン前から「捕手に求めるのはワンバウンドのブロックと強肩。打撃、野球IQは求めない」と言い続けてきた。捕手陣は昨季いずれも60~70試合前後に出場した高城俊人、嶺井博希、黒羽根利規に新人の戸柱が競い、飛び抜けた存在は見当たらない。キャンプではワンバウンドを胸に当てて素早く拾う練習や、捕球からのスローイングを繰り返した。高城は「みんなの意識がかなり変わった。技術的にも向上している」と手応えを語る。
■緻密で理知的な面にフロントは期待
捕手にすれば、最大の職権であり、醍醐味でもあるリードに介入されるのは複雑だろう。だが野手出身監督による配球が、バッテリーに新たな視点を提供しているのも確かなようだ。
13日のヤクルト戦に先発した左腕の砂田毅樹は振り返る。「バッテリーでは投手の良さを引き出すことばかり考えて組み立ててきたが、監督は打者にとって嫌な球を選ぶ傾向がある。例えば下位打線のイニングは直球一辺倒。それでもあっさりと打ち取れて、こういう選択肢もあるんだな、と。監督の考え方を理解して、バッテリーで配球を決めるときにも生かしたい」
紅白戦でラミレス監督と“対決”した主砲の筒香嘉智は「しつこいリードという印象。打者目線でいろいろ読んでも、さらに違う球が来ることも多い」と話した。現役時代、相手捕手のリードを熱心に研究して外国人初の2000安打を放ったのがラミレス監督。その面目躍如といえようか。