ゲスト夢眠ねむ!】アイドルは延命するだけじゃなく、永遠になって、繁殖する!

芸人、DJとして活躍されているダイノジ・大谷ノブ彦さんと、音楽ジャーナリストの柴那典さんが今気になる音楽シーンについて熱く語り合う人気連載「心のベストテン」。
今回はスペシャルゲストとして『でんぱ組.inc』のメンバーとして活動する夢眠ねむさんを迎えてお送りします!音楽だけでなく、漫画・イラストなど幅広いカルチャーに精通しているねむさん。自身もアイドルとして活躍するねむさんと、アイドルの未来について思い思いに語ります。

アイドルの「中の人」

大谷ノブ彦(以下、大谷) 今回はなんとゲストに現役のアイドルに来ていただきました! でんぱ組.incから夢眠ねむ先生!

夢眠ねむ(以下、ねむ) 「先生」ってやめてくださいよ〜(笑)。

柴那典(以下、柴) ははは! でも、ねむちゃんは単なるアイドルというよりいろんな音楽カルチャーを熱く語れる人ですし、こんなに素敵なゲスト、他に考えられません。

ねむ えへへへ、よろしくお願いします!

大谷 でんぱ組.incは今やロックフェスでもめちゃくちゃ盛り上がってるじゃない? こんな現象になるとは思ってたの?

ねむ ぜーんぜん思ってないです。だって、部屋の片隅で泣いてましたから(笑)。「外が怖い、人間ツラい……」みたいな感じで。こんなに人に求められるって思ってなかった。

 ねむちゃんはアイドルをやっていることについて、自分の素とはわけてるんですか?

ねむ 私はハッキリわけてますね。もともとオタク目線なんですよ。だから、オタクの私自身は「夢眠ねむの中の人」という感じ。

 中の人! 中でそれを運営している人なんだ(笑)。

ねむ そうそう、私はアイドルのプレイヤーみたいな感じ。中にコックピットがあって操縦してる、というか。でも、生粋のアイドルの子は自然にアイドルらしい振る舞いができるし、アイドルっぽいオーラが出てるんです。

大谷 アイドルもいろいろだ。

でんぱ組.incの変化球とストレート

大谷 僕はね、今の時代の女性アイドルって、かなりキツめの負荷を背負ってると思うんですよ。それを乗り越えるところに物語が生まれる。でも、その負荷がインフレしていくのを終わらせたのがでんぱ組.incだと思うんです。

ねむ えー、なんでですか!?

大谷 つまりね、「W.W.D」でオタクで引きこもりだった人生を赤裸々に語ったじゃないですか。

大谷 その後の「W.W.D Ⅱ」ではメンバーの間にすれ違いがあったことまで隠さずに歌ってる。

大谷 あれを見て「すげえ!」と思ったんだけど、その半面、「これを続けていったら、もうでんぱ組.inc、終わっちゃうんじゃないの?」って思ったの。これ以上のことできるの? 死んじゃうよ?って。でもその次の「サクラあっぱれーしょん」でいきなり陽気になったじゃない? これが突き抜けていて。

ねむ ああ、あの曲はもう死んだ後なんです。

 ええっ!?

ねむ 私の解釈では、あれは桃源郷なんですよ。「ばいばいさようなら」って歌って、あんな幸せな音楽がずっと流れる場所なんて、天国しかないじゃないですか(笑)。

 死後の世界だったんだ(笑)。

大谷 なるほどねえ。おもしろい! で、それを経てのここ最近のでんぱ組.incの新曲って普通にポップスとしてすごくいい曲じゃない? ギミックとか変化球とかじゃなくて。

 「あした地球がこなごなになっても」とか、普通にいい曲ですよね。

ねむ あれはね、「でんぱ組.incにいい曲を歌わせてみた」って企画なんです(笑)。

大谷・柴 ははははは!

ねむ だって歌ってても、テンポ遅いなあとか、言葉数が少ないなあって思いますもん。今はでんぱ組.incが普通にいい曲を歌うのが、変化球なんですよ。

 そうか、前に自分たちがやっていたことがもはやスタンダードになってるから、今は逆なんだ。

ねむ だから(古川)未鈴ちゃんというウチのセンターの子が「やっと普通の曲を歌えるようになった」って言ってました。

大谷 そう! 大事なのは過程なんだよ。

ねむ でも、たまにめっちゃかわいいアイドルの子たちに「でんぱ組.incに憧れてます!」とか言われるんだけど、「絶対やめたほうがいい!」って言いますよ。ウチらはいろんなことをやって、ここまで遠回りしてようやくストレートにいい曲を歌えるようになったけど、みんなはそんなことしなくてもポップな曲歌えるよ!って。

大谷・柴 あははは!

パトロンと絵描き、オタとアイドル

ねむ で、私、思うんですけど、アイドルかそうじゃないかを決めるのって、本人じゃないと思うんですよ。

大谷 え? 誰が決めるんですか?

ねむ これは私自身の体験談でもあるんですけど、自分のことをアイドルって言えない時期が長くて。でも「俺がアイドルって思ってるから、ねむちゃんはアイドルだよ」って言ってくれたファンの人がいて。じゃあ、この人が恥ずかしくないアイドルにならなきゃなって思って、アイドルになったんです。

 そうか、前に言ってましたよね。「お客さんがアイドルだって言ってくれたら、その子はアイドルになる」って。

ねむ それです!

大谷 いい話だなあ。自分を求める他人によって、自分を知っていく。

ねむ 私はもともと美大にかよっていて、美術家、絵描きになりたかったんですよ。で、アートの世界では美術家の価値を決めるのはパトロンの評価じゃないですか。それと同じで、オタの評価でアイドルの価値が決まるんです。

 なるほど。18世紀のパトロンと絵描きの関係と、21世紀のオタとアイドルの関係は一緒なんだ。

ねむ そうなんです! だから、ちゃんと好きなものにお金を払える人たちってエラいと思うんですよ。アイドルオタって、ずっと地位が低くて。でも、ようやく私はアイドルにお金を払って恥ずかしくない時代が来たと思ってるんです。

大谷 世間では「CDを何枚も買ってバカじゃん?」とか言う人のほうが多いけど、そうじゃないと。

ねむ はい、そうじゃないんです! 私はそういう人には「え? 好きなものにお金払えてないの? じゃあ何にお金払ってるの?」って思うんですよ。

 そうか、お金を払うことで好きなものに貢献できるわけですもんね。

ねむ やっぱり、自分の好きなものを否定されることって怖いんですよ。特にオタクはそう。でも、好きなものをちゃんと好きって言えるのって、ほんとに大事じゃないですか。

大谷 わかるなあ! 俺もDJやる時は必ず「あなたたちの好きなもの、全部肯定します」って言いますもん。

 でも今は、パトロンがアートを支えるのにお金を払っているのと同じように、オタがお金を払うことでアイドル文化を支えていると言える。

襲名制でアイドルが永遠になる

 アイドルがブームを超えた文化になって、これから先の「アイドルの未来」ってどうなるんでしょうね。というのも、前回のSMAPについての話でも言いましたけど、今の時代って昔に比べて格段にアイドルを長く続けられるようになってますよね。PerfumeだってNegiccoだって10年以上活動を続けている。

ねむ そうは言っても、10年以上続けてる女性アイドルって、やっぱり子供の頃からやってるんですよ。でんぱ組.incはそうじゃない。

 でも、でんぱ組.incは続けていくわけですよね。未来はどんなあり方になっていくと思います?

ねむ 最近、客席を見てて、ちょっと未来が感じられるようになってきてるんです。ファン同士が結婚して子供が生まれてるんですよ。

大谷 おお! 家族連れで来るようになってるんだ。

ねむ そう。ファミリー席が必要になってきてるんです。しかも、赤ちゃんだけじゃなくてちゃんと物心ついたぐらいの子供もいて。その子にもちゃんと推しのメンバーがいて、推しの子のコスプレをしてるんですよ!

 すごいなあ! 幸せな空間だ。

ねむ これは続けなきゃいけないな、って思いましたね。たとえば私が子供を産んだら、女の子のファンが子守りしてくれるんじゃないかな、とか思ったり。

 とは言っても、人間は必然的に歳をとっていくわけですから、限界はありますよね。初音ミクのようにCGや二次元のキャラクターだったら永遠に歳をとらないですけど。

ねむ そうそう! 私、ずっとそれを事務所に訴えてるんですよ。はやく夢眠ねむを二次元のキャラにスライドしていきたいって。そしたらずっとこの状態でいられるから。それでキャラクターボイスは私がやるんです。

大谷 おもしろい! でもそれ、ありえますよね。こないだhideさんのライブを観たんですよ。亡くなったはずのhideさんが3DのCGで完全に蘇ってた。

 僕も観ました。「ヤバい! ほんとに目の前にいる!」って感じでしたね。しかも、そこで歌った「ピンクスパイダー」って、リリースされる前に亡くなってしまったんで、今までhideさん自身は一度もライブでやったことのない曲なんです。その初ライブをCGで実現させた。

大谷 この先はもっとそれが簡単にできるようになっていくと思いますよ。画像データさえとっておけば、永遠にステージに立てるようになる。音楽だけじゃなくて、落語だってそうなっていくかもしれない。

ねむ 実は夢眠ねむは襲名制なんです。私は「初代 夢眠ねむ」を名乗ってるんですけど、未来には「五代目 夢眠ねむ」みたいになるはずです!

 襲名制なんだ!

ねむ 二代目になりたいって言ってくれる子がたくさんいるんですよ。

大谷 おお、おもしろい!

ねむ こないだも大学で「アイドルのセルフプロデュース論」という授業をやったんですけど、そこで「二代目 夢眠ねむを作ってください」って課題を出したら、みんなおもしろいアイデアを出してくれて。

 どんなアイデアだったんですか?

ねむ 私が一番驚いたのが「種を二代目とするんです」って言う生徒がいて。

 タネ?

ねむ 種です! 「種を植えて、苗木になって、そこからどんどんねむちゃんが増えてくんですよ!」って(笑)。「ウチのねむちゃん大きく育ってきたよ」って。

 すごい! みんなの家庭で夢眠ねむが育つんだ。

ねむ みんなが種としてアイドルを手に入れられるんですよ。しかも何代目かには大木になったりして。ワケわかんないけどすごい!って思って。「こんな発想あるの?」って思いました。

 いやあ、これは間違いなく「アイドルの未来」だ。永遠どころか、繁殖して進化する。

大谷 一体どんな未来なんだ、っていうね(笑)。

ねむ 未来のアイドルは木になっちゃうって、ヤバいですよね! 私、その生徒にはいい点数あげました(笑)。


次回、「星になったデヴィッド・ボウイと攻める50歳」は3/8更新予定

夢眠ねむ(ゆめみ・ねむ)

『でんぱ組.inc』のメンバー。三重県出身。電波ソングや漫画が大好きで、50年代の作品に熱中するなど深い造詣を誇る。絵画の個展を開いたり、イラストを描いたりと芸術方面にもアンテナを張る。

構成:柴那典

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コメント

notei  ”アートの世界では美術家の価値を決めるのはパトロンの評価じゃないですか。それと同じで、オタの評価でアイドルの価値が決まるんです。 ” 約1時間前 replyretweetfavorite

rqwpn アイドルヲタは必読! アイドル論をちゃんともってる アイドル代表ねむきゅんさん 約2時間前 replyretweetfavorite