映画のアカデミー賞の授賞式に主演男優賞に選ばれた俳優が出席していないという状況は結婚式に花婿さんが欠席するほどに気まずいか。その日の主役の一人である。実際に起きている▼一九七二年、「ゴッドファーザー」で主演男優賞候補になったマーロン・ブランドは授賞式を欠席。受賞も拒否した。米映画界のアメリカ先住民への差別表現に抗議するためだった。「インディアンを不当に扱い、中傷してきた映画産業のお祭り騒ぎの、片棒を担ぐのはばかげている」。やり方には批判も出たが、効果もあった。以降、先住民を野蛮で残虐な存在と描く西部劇映画は消えていった▼黒人の俳優がなかなか賞の候補にならないなどの差別批判に揺れた今年のアカデミー賞だが、これほどの混乱はなかった。差別を憎むブランド式の荒っぽい手法は控えられたか▼今後、賞を改革すると聞くが、問題は賞や映画界にとどまらぬ。あらゆる差別と偏見の解消に、いつ、そして本気で世界が取り組むかだろう▼「レヴェナント 蘇(よみが)えりし者」で二年連続の監督賞を取ったアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督がこんなスピーチをした。「すべての偏見から解放される最大の機会だ。肌の色を髪の毛の長さの違いほど無意味なものにしよう」▼それは今と訴えた。ブランドが見ていたら「お祭り騒ぎ」にも意味があると思っただろう。