大震災から5年 忘れない 一人一人の交流を力に
毎日新聞
あの時、私たちのほとんどが被災地へ思いをはせたはずだ。
自分に何ができるのか。大勢のボランティアが何十時間もかけて現地へ駆けつけた。街頭に立って募金への協力を呼びかけ、それに応じる人もたくさんいた。
東日本大震災から間もなく5年になる。復興事業の大型トラックが行き交う中、ボランティアはずいぶん減った。被災地を歩くと「東京の人は震災を忘れかけていないだろうか」「まだ復興は遠いのに」という声を聞く。
時の流れはいや応なく記憶を薄れさせる。それでも地道に活動する人たちがいる。震災を忘れず、息の長い支援を続けたい。
支援が風化を防ぐ
兵庫県立舞子高校(神戸市)環境防災科の生徒たちは2011年4月以降、毎年被災地を訪れている。環境防災科は全国で唯一、防災を専門に学ぶ学科だ。当時、引率した諏訪清二教諭が著書「高校生、災害と向き合う」にその様子を記している。
がれきの片付けや家の泥かきをした。被災者からも話を聞く。目の前にいた子供を津波から救えず、自分を責める高齢の男性がいた。避難した小学校の体育館で、濁流にのまれていく住民を見ているほかなかった人も多い。
生徒たちは夜のミーティングで時に声を詰まらせながら報告する。そして支援の方法を繰り返し議論したという。その経験が彼らにもたらしたものは計り知れない。
生徒たちは被災地で「若い人がこれだけがんばっているんだから、私たちもがんばらないと」という声をよく聞いた。被災者の心の支えになったのではないか。
神戸市では震災を知らない世代が増え、記憶の風化が進む。同校の生徒たちは東北の被災地などで見聞きしたことを神戸でも伝えている。それが阪神大震災の風化を防ぐことにもつながるだろう。在校生はこの夏も被災地で支援活動をする。
原発事故に見舞われた福島県の調査によると、「ふくしまに関心がある」「応援する気持ちを持っている」という他県の人たちの割合が、わずかだが減る傾向にある。一方、県産の農林水産物の価格はなかなか回復せず、修学旅行や合宿での宿泊者数も震災前の半数に満たない。
県は昨年9月、「福島県風評・風化対策強化戦略」を発表した。担当者は「風評と風化の両方に悩まされている」と言う。
それでも、やはり他の被災地との結びつきは心強い。神戸市は、阪神大震災の経験や復興のノウハウを福島の人たちに伝える民間の活動を支援している。神戸市で活動するNPO法人の一つは、いわき市のNPO法人と協力し、復興住宅のコミュニティーづくりに取り組む。人の交流は、ここでも互いの理解と共感を深める。
震災の経験を教育に生かす試みは東北でも始まろうとしている。
宮城県多賀城市の県立多賀城高校には4月、「災害科学科」が開設され、40人が入学する。防災教育の専門科は舞子高校に次いで全国で2番目となる。
教訓を後世に伝えたい
多賀城高校は舞子高校の視察を重ねた。「阪神大震災の経験を生かした教育内容を参考にする」という。両校の生徒は交流を進める予定だ。
一方で、被災地を訪れなくても支援はできる。何らかの方法で応援したいと思っている人は決して少なくないはずだ。
津波被害が甚大だった岩手県陸前高田市の仮設住宅には、小さな図書館がある。市の図書館は全壊し、蔵書も流された。図書館を作るために、仮設住宅で暮らす女性がネットで募金を呼びかけたという。
「建設している空っぽの図書室を本でいっぱいにするお手伝いをしていただけませんか」
「こんなときだから、今出会う本が子どもたちの一生の支えになる」
公益社団法人「シャンティ国際ボランティア会」(東京)が活動を支援した。寄付は本の購入に充てられ、一定額以上を寄付した人は同時に自分が贈りたい本を1冊指定して図書館に収められる仕組みにした。
目標額をはるかに超える寄付が集まり、約1万8000冊がそろった。被災地に行けなくても、被災者の役に立つことができる。寄付金だけでなく、一冊の本を介して被災者とつながる喜びが大きかったのではないだろうか。
本には「○○県の○○さんからの贈りもの」と記されていた。寄付者の中には、遠くから図書館を訪ねてきた人もいるという。
人と人との交流が大きな力を生む。そして震災を忘れず、後世に教訓を伝え続けることが、災害に備える最も有効な方法にもなり得る。
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3・11が再び巡ってくる。5年の節目に、さまざまな角度から被災地の現状や課題をシリーズで考える。