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» 2015年12月28日 06時30分 UPDATE

わずか5ドルで発売:日本の科学技術立国の地位いつまで? 「ラズベリーパイ・ゼロ」600円の衝撃 (3/3)

[SankeiBiz]
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仏作って……

 プログラムを書かれたチップ(電子部品)は、いまや電気で動くほぼ全ての製品に内蔵されているといってもいい。その重要性は、軍事の世界では韓国が端的に示した。

 次期戦闘機(KFX)の開発にあたって、韓国政府は今秋、新型のAESAレーダーの技術を提供して欲しいと米国に求めたが、あっさり断られた。直後に韓国の国防科学研究所は「すでに自力開発している」と反論し、国民に向けて「完成した新型レーダー」を公開したが、実際に完成していたのはハードだけ。レーダーの電波信号を分析し、距離や方向などを的確に表示するためのソフトウエア(プログラム)はできておらず、米国や欧州各国に協力を求めたものの、いまだ開発のめどは立っていない。いくらハードが完成しても、ソフトがなければ「仏作って魂入れず」だ。

5ドルの意味

 「ゼロ」を開発した「ラズベリーパイ財団」が、最初の製品「ラズベリーパイ1モデルA」を発売したのは2012年2月。主に学校で使う教材として開発、25ドルで販売し、計約450万台を売る大ヒットとなった。

 その後「A+」や「B」といった新型が発売され、今年2月にはCPU(中央処理装置)の性能を上げた「2モデルB」を35ドルで発売した。日本でも5000円前後で発売され、人気を集めている。同財団は高性能で価格も上がった新型を出したのだが、一方で初心を忘れず、より多くの子供たちが気軽に扱える低価格版の「ゼロ」を発売したというわけだ。

 わずか5ドルという値段は、新興国や、貧困層が多い国の子供たちもコンピュータが持てることを意味する。米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)によると、英国ウエールズ州南部の工場で生産された2万台は即売り切れ、追加注文が殺到しているという。

 ラズベリーパイとは機能が異なるが、同じくプログラミングや電子工作を学べる「アルドゥイーノ」はイタリア発祥で約3000円。米国のオークションサイト「イーベイ」ではコピー品が送料込み3.5ドル(約420円)で売られており、注文すると中国の深セン市から送られてくるという。

 こうした製品が、PCメーカーのひしめく日本や米国ではなく、英国やイタリア、果ては中国で企画、製造され、爆発的に売れている事実は軽視できないだろう。

 日本でもBASICプログラミングに特化した「子どもPC IchigoJam(イチゴジャム)」や、アルドゥイーノより高性能な「GR−SAKURA」などが開発、販売されているが主流ではない。イチゴジャムやラズベリーパイを使ったプログラミング教育を行っている小中学校もわずかだ。

 ラズベリーパイの愛好家が集うHPでは、海外の小中学生が力作のプログラムを公開している。貧しい生活のなか、5ドルのPCに自分の将来をかけてプログラミングを学び、論理的な思考を身につけた世界の子供たちが大人になったとき、日本にも同じような人材が育っているだろうか。

ks_pc03.png 2月に発売されたラズベリーパイ・モデル2B。左のiPhone 6よりひと回り小さい
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