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中小企業が注目 外国人留学生

2月29日 20時13分

川島進之介記者

ことしは3月から大手企業の会社説明会が解禁され、就職活動が本格化します。このところ学生の「売り手市場」が続くなか、中小企業が注目しているのが日本の大学や専門学校などで学ぶ外国人留学生。その採用を進める中小企業の現場と課題を報道局遊軍プロジェクトの川島進之介記者が解説します。

増える外国人留学生の就職

日本企業に就職する外国人留学生の数は、ここ数年増加が続き、おととしは12,958人と過去最高を更新しました。

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大企業に就職する留学生も多いのですが、就職先の半数以上を占めるのは中小企業です。背景には、経済のグローバル化が進んで、製造業を中心に中小企業にも海外との取り引きなどが求められるようになっていることがあります。

外国人留学生に注目する中小企業

留学生を積極的に採用している中小企業の1つ、埼玉県川口市の金属加工メーカーを取材しました。現在、社員およそ50人のうち4人が留学生出身です。

この会社は、国内大手メーカーからの受注が売り上げの中心ですが、海外に生産拠点を移す企業が増えたため、新たな事業の開拓に迫られ、海外企業との直接取引に力を入れています。

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そこで、海外事業に必要な日本人の人材確保を目指しましたが、応募は殆どなく、採用にはつながらなかったといいます。こうしたなかで3年前から留学生の採用を本格的に始めました。

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採用を担当している北川典宏部長は「能力で見ても、留学生はとても優秀な方がいます。会社としては海外進出を視野に入れているので、留学生出身社員はその準備や実働部隊として考えています」と話しています。

入社1年目でも“重責”

去年、この会社に埼玉大学の大学院を卒業して就職したのが中国人の李さん。ふだんは、専門知識を学ぶため、製品の設計などを担当していますが、海外との取り引きでは重要な役割を担っています。

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中国語のほか得意な英語も活かして、文書の翻訳のほか、ことし1月には中国企業との商談のため上司と現地を訪れ、新事業に向けた交渉にも当たりました。取材した日も、来日した中国の取引先との交渉に同席し、その活躍ぶりは高く評価されています。

李さんは「会社の発展する方向と関わる仕事で、社長や部長から信用してもらってとても感謝しています」とやりがいを語ってくれました。

この会社が取引する海外企業は、今では4つの国と地域に広がり、売り上げも伸びているということです。さらに海外事業を強化しようと、ことし入社する7人全員が留学生出身になる予定です。北川部長は「母国のことばがしゃべれるという強みをも持っていて、なくてはならない存在です」と今後に期待しています。

“出会いの場”が課題

このように、外国人留学生に注目する中小企業が増えるなか、課題が指摘されているのが、どうやって採用するか、という問題です。

留学生を支援している独立行政法人「日本学生支援機構」の調査では、日本企業への就職を希望する留学生は全体の65%に上ります。しかし専門家は、このうち就職できているのは、半数程度にとどまっていると分析しています。

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日本人の学生とは違い、企業と留学生がお互いの情報を得る仕組みが不足していることが要因と見ています。留学生支援ネットワークの久保田学事務局長は「日本の就職活動は独特で、留学生はその方法が分からないし、企業側もどこに留学生がいるのか分からない。企業と留学生の接点を増やすのがいちばんの課題だ」と話しています。

九州での新たな取り組み

こうしたなか、九州経済産業局は中小企業と留学生を結びつけよる新たな試みを始めています。福岡を中心に、留学生の学んでいる専門分野や得意な外国語などの自己アピールを動画として掲載し、登録した企業が閲覧できるというサイトを始めたのです。

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留学生たちが実際に自己PR動画を撮影しているところを取材しましたが、なかには日本語のほか英語で自己紹介をする学生もいました。サイトには学生のメールアドレスなど連絡先も掲載され、企業側は、求める人材がいれば、直接、やり取りすることができます。サイトの開設から4か月足らずで、登録した留学生は、10か国のおよそ100人に上っています。

利用する企業

このサイトの利用を始めた福岡県直方市の企業を取材しました。農業機械や自動車向けの歯車を製造しているこの会社は社員18人。現在、7つの国と地域の企業と取引があり、さらに海外事業を拡大したいと考えています。

最近、特に取引が増えているのがベトナム企業で、このサイトでベトナム語ができる人材を確保しようと、採用担当者は毎日、サイトをチェックしているといいます。

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担当の古田菊乃部長は「インターネットを通して話す形なので、いろいろな方と数多く会える機会のひとつと考えています」と話していました。

サイト拡大へ

このサイト、企業からは好評だということで、九州経済産業局は来年度から各県と協力しながら、対象を九州全域に拡大することにしています。

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九州経済産業局の大久幸昭国際部長は「こうした手法は最初の出会いの手段としては有効だ。これからはオール九州で、われわれのこのツールをステップアップさせたい」と話しています。

今後は…

こうして見てくると、就職面で外国人留学生が日本の学生のライバルになるのではと心配する人もいるかもしれません。ただ、今のところ、海外事業の必要性に迫られた中小企業が、日本の学生を採りたくてもなかなか採用できないなかで、いわば苦肉の策という側面が強いようですから、すぐに強力なライバルになるとまではいえないと思います。

むしろ、中長期的に見ると、必要な人材をどう確保していくかが課題になりそうです。成長が見込まれる東南アジアの優秀な人材を巡っては、中国やオーストラリアなどほかの国々も積極的に確保しようとしているという指摘があります。また、留学生の側も、会社を移りながらキャリアアップしたいという指向が日本の学生よりも強いと言われています。このため特に優秀な人材についていえば、将来は、いかに定着してもらうかということも重要になりそうだと取材を通して感じました。


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