非正社員であっても同じ仕事なら正社員と賃金に差をつけない「同一労働同一賃金」の議論が本格化してきた。

 安倍首相は、参院選前のとりまとめを目指す「1億総活躍プラン」の柱に据えて「ちゅうちょなく法改正の準備を進める」と積極姿勢をアピールする。

 非正社員は働く人の4割に達し、賃金水準が低く暮らしが不安定だ。これを機に、待遇改善に本気で取り組んでほしい。

 お手本とされる欧州では「客観的な根拠によって正当化されない限り、不利益な取り扱いを受けない」(EUパートタイム労働指令)といったルールが雇用形態ごとに明記されている。

 日本にこうしたものが全くないわけではない。有期雇用について定めた労働契約法やパートタイム労働法には、待遇、労働条件について「不合理と認められるものであってはならない」「差別的取り扱いをしてはならない」といった、均衡待遇や均等待遇の規定もある。

 にもかかわらず、例えばパートタイム労働の賃金水準はフルタイム労働の約6割。ドイツの8割、フランスの9割と比べて著しく低いのが現状だ。このような賃金差がどうして生じるのか、そこを解きほぐして実効性ある取り組みを進めなければ、底上げにはつながらない。

 首相は法改正を強調するが、何を念頭に置いてのことなのか、はっきりしない。例えば労働者派遣法にはパート法のような規定は現在ないが、同様の規定さえ設ければ解決する話でないことは、パートタイム労働の現状をみれば明らかだ。

 そもそも日本では、長年かけてルールが定着してきた欧州と異なり、何が「不合理」な取り扱いなのかというルールがはっきりしていない。

 非正社員には長年の経験を評価する仕組みがなく、長く勤めても賃金がほとんど変わらないことが指摘されている。これは、「不合理」には当たらないのか。

 政府は、何が不合理な違いで、差別的な取り扱いにあたるのか、欧州の事例を参考にしながら指針を作るとしている。非正社員の生活を守る視点で論議を深めてほしい。

 その前提として、労使は現状を直視し、ルール作りに積極的にかかわることが必要だ。

 経営側には負担増への警戒感もある。総人件費を抑えようとすれば、正社員の待遇を切り下げて低い方へ合わせることにもなりかねない。主眼は非正社員の底上げだという原点を忘れてはならない。