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産業革新機構会長 「シャープ」を語る

2月29日 19時52分

山田賢太郎記者

主力の液晶事業の不振で、経営不振に陥っていた大手電機メーカーの「シャープ」は、台湾の大手電子機器メーカー、「ホンハイ精密工業」の傘下に入ることを2月25日に決め、外資のもとで経営再建をはかることになりました。
一方、国と民間で作る官民ファンドの「産業革新機構」も出資を提案。シャープがどちらの提案を選択するのか注目されました。今回の決定を受けて、産業革新機構の志賀俊之会長がNHKのインタビューに応じました。シャープの決断をどう受け止めるのか。機構として今後の戦略は?経済部の山田賢太郎記者が取材しました。

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「産業革新機構」は、日本企業の競争力強化につながるような事業の再編やベンチャー企業を育成しようと、政府や民間企業などの出資によって、2009年7月に設立された官民ファンドです。
シャープの支援で、機構は、シャープ本体に3000億円を出資するほか、シャープの液晶事業を、機構が筆頭株主の液晶メーカー「ジャパンディスプレイ」に統合させる案をまとめました。シャープや銀行に積極的に機構案の採用を働きかけたのが志賀会長です。

シャープの決定 「残念」

:シャープは、ホンハイの買収提案を受け入れました。その受け止めから聞かせてください。

志賀:われわれとしてはシャープにベストな案を自信を持って提案したので、選ばれなかったというのは正直言って残念だという思いはあります。
ただ一方で、取締役会でホンハイに「全会一致」で決めたということですから、ここで一致団結してやはりシャープさんが将来に向かって成長してほしいという思いです。
産業革新機構としては、日本の産業を強くしていこうという思いの中でシャープの「事業」に着目して事業を統合・再編する形で、日本全体の競争力を上げていきたいという思いでやってきました。志半ばということなので残念だと思っています。

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機構案は“守り”の提案ではない

:官民ファンドの産業革新機構が支援に乗り出すことに批判もありました。

志賀:われわれは、出資金の95%は日本政府の保証でやっているファンドですから、存在意義は日本の産業競争力を強化し、それを通じて新しい次の世代の国富を担って育成していこうということです。ですから、そもそも企業を再生させる組織ではありません。

シャープ支援については、よく「独自の液晶技術が国外へ流出するから(機構案を採用すべきだと主張している)」と報道されましたが、守りの案ということでは決してないんです。われわれは、シャープと競合している液晶メーカーの「ジャパンディスプレイ」の株主であり相当な投資をしています。シャープを得ることによってさらに企業価値が上がるというのは、極めて純粋にファンドとしての行動だと思っています。

将来的に、液晶より薄くかつ消費電力も少なく、液晶に代わる次世代の技術として注目されている「有機EL」が本格的に使われ出す時に、有機ELの量産設備が必要になってきます。
その時、シャープの亀山の工場は当然使えるわけですね。そういうシナジーを含めて着目しました。 ジャパンディスプレイとシャープの液晶事業を統合するというのは間違いなく世界と戦える、今も世界と戦っているわけですが、間違いなく日本の優位性は高まります。

私は外資を拒んでいるような構図に見られてしまいましたが、産業革新機構、あるいは私自身、外資を拒む発想は全くないです。

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今後も産業再編を進めていく

:産業革新機構のトップとして今後は何を手がけますか?

志賀:正直申し上げまして、大変な危機感を持っているんですね。産業革新機構の会長を引き受けたのも、そういう危機感の表れです。日本はひとつの領域にたくさんのプレーヤーがいて、残念ながら過当競争を繰り返している。少子高齢化で日本のマーケットが小さくなる中で、実はプレーヤーそのものはあまり減っていない。

そこで極めて強烈な過当競争、価格競争、営業時間を延ばす時間競争をずっと繰り返し、会社も疲弊しています。従業員の方々も大変疲弊している。私から見るといま、過当競争、価格競争、時間競争から脱却して本当にイノベーションを起こし、戦い方を変えていかないと、日本がみんなで疲れていってしまう。で、倒れたところから一本ずつ抜かれるようにしてどんどん国が弱くなってしまう。そこに対する危機感はあります。

:大企業の再編が必要だという意味でしょうか?

志賀:われわれは「企業」には着目していません。着目しているのは「事業」です。ですから中規模の企業が持っている事業規模ではなかなか世界と戦っていけないところに、成長資金を入れて育てていくのも仕事です。「企業の再編」ではなくて「事業の再編」が必要なのです。新陳代謝を高めていくということです。

企業の中には、いくつも事業があって、コアの事業(中核の事業)とノンコアの事業(中核でない事業)があります。ノンコアのところには、よい技術を持っていてもなかなか経営資源は回されていない。こういうところは抱え込んで弱体化させないで、切り出してもらって、ほかと組ませて、そこに成長資金を入れて世界で戦えるものに成長させる。こういうことを仕掛けていきたい。大企業の中にお金を入れるというのは今までもやっていません。

シャープ再生は意欲から始まる

志賀会長は、もとは日産自動車のCOO=最高執行責任者で現在も副会長です。日産自動車は、1990年代の経営危機で、フランスの「ルノー」の傘下に入り、カルロス・ゴーン社長の下で復活を遂げました。生え抜きのトップとして、ゴーン氏とともに、再建計画「日産リバイバルプラン」を進めたのが志賀さんです。

:志賀さんは、外資のルノーの下で復活を果たした日産自動車の出身です。台湾企業の傘下で、再建をはかるシャープにはどんなアドバイスを送りますか?

志賀:私は、ゴーン氏のもとで日産が再生できた後に、何が成功のキーだったんだろうと考えました。企業再生というのはお金が入ったり、経営者が変わったりという構図はあるんですが、実は本当の企業再生は「意欲」から始まります。ホンハイのもとでシャープの一人一人が「強いシャープを作るんだ」という「意欲」を出して再生していくことを願っています。

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取材を終えて

国が主導して複数のメーカーの事業を統合して“日の丸連合”を作る事例は、これまでも液晶の「ジャパンディスプレイ」のほかに、半導体の「エルピーダメモリ」や「ルネサスエレクトロニクス」などがあります。しかし、相乗効果が出るまでには時間がかかるなど、成功例は決して多くないのが現状です。
一方、日本企業にはない技術や販路で強みを持つ海外企業も多くあります。志賀会長は「海外企業を買収することもあり、完全に日本連合にこだわっている訳ではない」とも言っていました。産業革新機構には、官主導のもとで国内企業を組み合わせることに固執するのではなく、海外企業を取りこむ大胆さも求められていると思います。


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