メンタルの疲労回復には睡眠が大事とか、ひと晩寝てじっくり考えることで答えが得られる…など、睡眠をしっかり確保することの重要性は各所で語られています。ライフハック系のサイトなどでも定番な内容かもしれません。
実際、私も時間的に無理してでも睡眠だけは確保するということを頑張ってみると、実に気分が良く、頭脳の回転も早くなっていることを感じます。
でもそれがなぜなのか? 単なる経験則?それともちゃんと実証されたことなの?といった情報は意外に手に入れにくいものです。
本書『眠っているとき、脳では凄いことが起きている – 眠りと夢の記憶の秘密』の著者はマンチェスター大学「睡眠と記憶の研究所」所長のペネロペ・ルイス氏。睡眠や夢について、俗説ではなくきちんとした科学的な知見も交えて説明してくれます。それでは個人的に気になった箇所なども含め、本書についてもう少しお話していきましょう。
目次
睡眠時間の確保に問題意識を持っていたところ、この本を見つけました
本書は、気になること、参考になることがたくさんありました。
昨年前半は「なんだか疲れやすい」、「頭の中が曇っていて晴れない」という悩みを抱えていました。健康に気を使うトライ&エラーを行う中で、睡眠時間を無理にでも確保することが一番良いと実感し、それからは睡眠についてこだわりはじめました。
睡眠確保に関する情報源は主にライフハック系のサイトなどで提供される断片的な情報です。もうちょっとキチンとした情報が欲しいなと思っていたところ、R-Styleさんで【書評】眠っているとき、脳では凄いことが起きている(ペネロペ・ルイス)という記事が掲載されて本書を知りました。
睡眠についてもっと知りたい人はもちろん、ちょっと睡眠時間が足りない人はぜひ読むべきです
Photo: ぱくたそ
ちなみにJawboneの調査によれば、日本人は世界で最も寝ていない人達だそうです。(参照:「世界で最も寝ていないのは日本人」ということが都市別生活パターンを可視化することで判明)もし睡眠不足なライフスタイルだな…と感じるようなら、ぜひ本書を読んでみてください。
身体的な影響力よりはるかに目立つのは睡眠不足による精神的な影響だ
睡眠不足になると、不機嫌、幻覚、妄想、記憶力の低下、集中力の不足、決断力の欠如につながる可能性がある
といったことに始まり、睡眠不足により脳はどんなことになるのか?そしてそれはナゼなのか?について説明されていきます。睡眠不足によるデメリットについて私が気になった点を以下に箇条書きにしてみます。
- 睡眠不足な状態は酔っ払っている状態と変わらない。
- クリエイティブでなくなる 〜創造力、水平思考、新機軸、柔軟性が低下する
- 変則的な決断をする 〜自分の道徳的態度をはずれた選択をする確率が高くなる
- 簡単に苛立ち、我慢ができず、人に厳しくなり、思いやりが消え、自己中心に陥りがち。
…と言うように、睡眠が足りていない状態というのは酷いものです。印象的だったのは一方で「批判的思考のような論理的推論」や「否定的な情報の記憶」は睡眠不足で低下しにくいというものです。これは人が野生動物だったときからの進化の過程で、ネガティブな情報が生存に関わる重要な情報であり、脳内で補強がされているという仮説が挙げられています。
睡眠不足の人は総合すれば自己中心的でイライラして、道徳的ではなく、悪いことばかり覚えていて、批判能力だけはある…という、なんか「ネット上によくいる嫌な人」の典型のような印象も持ってしまいます。
睡眠不足の方、そういう人になりたいですか? 答えがNOならもっと睡眠時間を確保すべくライフスタイルを見直す必要があるかもしれません。
面白いがまだまだ未知な部分も多い睡眠中の記憶処理、そして夢について
Photo: ぱくたそ
ひと晩寝てから結論を出すと、なぜ良いのか?
本書の中で一番印象的だったのは睡眠時間中の記憶情報の整理についてでした。
散らかった場所を掃除し、シナプスを休め、たまってきた不要な情報を捨てるために、何かをしなくてはいけない。その何かが睡眠ということになる。
なぜ睡眠が必要なのか?そして睡眠時間中に脳は何をしているのか?ということについて、科学的な調査結果をもとにキチンと説明されています。
- 睡眠は出来事全体を説明する全般的な原則や規則性を要約して、私たちが情報に基づいて未来を予測できるよう助けてもくれるのだ。
- ゆるやかに関連している概念の間につながりを成立させるうえで睡眠がなんらかの役に立っているのではないかと思われる。
- 複数の情報源から情報を結びつけるためには睡眠が重要であることを示している。
睡眠時間は単なる休息ではない。脳内整理のために重要な役割を果たしている…ということなんですね。またその処理方法について詳しい仮説が掲載されているところが、単なる豆知識に終わらないステキなところです。この部分をR-Styleさんが重点的に解説されているので、興味のある方はそちらのブログ記事もどうぞ。
ひと晩で記憶の魔法が起きる詳しいメカニズムは、まだ解明されていない
ということで、“こういうことが起きている”という傍証はあるものの、どのシナプスがどうやって…というような詳細なことはまだ未解明なんだそうです。まだまだ睡眠には謎があるんですね。
なぜ人は(そして多分動物も)夢をみるのか?
うちで飼っている猫4頭のうち、一番年上のお母さん猫はときどき寝言を言います。人だけでなく動物も夢を見るようですね…。「眠りに関する謎」として、一番興味深いのは『夢』に関してではないでしょうか。
夢は記憶のランダムな再生内容ではなく、ある程度ストーリーがあることは多くの人の経験から明らかですよね。(途中で破綻したりもしますが) つまり夢が組織化された方法で生まれることを暗示している
そうなんです。
いまだに多くの謎がある夢なんですが、以下のような効果があることが調査からわかっているようです。
- 夢は一種の仮想現実シミュレーション
- 夢は長期にわたって気分の調整に役立つ
- 夢は記憶の断片を再生するだけでなく、創造性に富んだまったく新しい記憶と知識の混合を作り出す
そしてこうして促進される水平思考そのものが夢の本当の目的かもしれない。
と、夢と水平思考はかなり強い結びつきがあるという仮説も披露されていました。前述のように睡眠不足の人は創造性が下がるということを考え合わせると、ちゃんと寝て夢を見ないと、実生活も「夢」の無い、乾いたものになってしまうのかもしれません。
別にクリエイター的な仕事でなくても、多くの仕事で「創造力」や「イノベーション」が求められています。さらに、きちんと眠ること、そして眠って夢を見ることの重要性は増していくのではないでしょうか?
最後に
私は今年は「質の高い睡眠をとること」を1つの大きな課題にしています。ところが睡眠に関してネットで調べると、玉石混交でいろんな話が飛び込んできます。例えば睡眠時間を効率的に短くするための方法など、眉唾なことまで含めて。
睡眠についてもっと知る、もっと睡眠を確保するモチベーションを高めるためには、本書のようにしっかりとした研究者による、知見に裏付けられた内容の書籍から情報を得るのが良さそうです。
今回紹介した内容以外にも本書は睡眠に関しての様々な情報を提供してくれます。例えば最終章では「快適睡眠を実現するガイド」として、良質な睡眠のための情報が掲載されています。睡眠により「記憶力を高め、学習を促進する方法」もちょっと面白い研究内容でした。
ぜひ睡眠に興味がある方に読んでいただきたい、そして良ければ一緒にちゃんと睡眠を確保するよう、がんばりましょう! それでは。
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