クリーニングの受付は大変な仕事!?
こちらに関して、はてなブックマークで軽く言及しましたが、お伝えしきれなかった部分があったので、クリーニングこぼれ話として記事にさせていただきます。
delivery-laundry クリーニング業界はクレーム業界と言われるくらいクレームの多い業界ですよー。店舗と工場が離れていて、店舗受付は工場の工程など知らない(そんなすぐに教育しきれない)のは結構大きなクレームの原因です。2016/02/28
クリーニングの受付アルバイトの時給が高いのは、単純に離職率が高いからです。業務の難易度も実は高いのですが、それ以上にクレームが多いので、需給バランスが崩れているわけですね。
- クリーニングに依頼したシャツのシミが落ちていない。
- クリーニングに出したら変な臭いがするようになった。
- 帰ってきたら生地が変になってしまって着られなくなった。
などなど。クレームの原因は様々ですけれど、大きくわけて以下の三者それぞれの問題があります。
- クリーニング店・工場の問題
- ユーザの問題
- アパレルメーカーの問題
クリーニング店・工場の問題
クリーニング店って駅前にけっこうありますよね。そういうお店はたいていチェーン店で、実際にクリーニングをする工場とは離れています。
で、クリーニング店の受付さんが大変なのは、後工程のクリーニング工場でどういう作業をするかがわからないことです。ちょっと裏の工場に回って、職人さんに聞くなんてことができないわけです。(受付さんの知識不足もありますし、最終的な意思決定者ではないという、役割上の問題もあります)
例えば、染み抜きを店頭で依頼されたとしましょう。しかし、同じように見える染みでも、別の溶剤を使わないといけないなんてことは普通にあります。汚れの数だけ溶剤の種類がある、とまでは言いませんが、家庭用洗剤みたいにアタックであろうが何であろうが、効果は同じというわけじゃないんです。
それを入ったばかりの新人アルバイトが判断するのは至難の技です。で、「この前はこういう染みは落とせるって先輩が言ってたなぁ」というざっくりの判断で受け付けざるをえないわけです。
もちろん、結果として汚れを落とせたら良いですが、落とせなかった場合は「落とせるって言ったじゃないですか!?」とクレームになります。
また工場からも受付は怒られます。「この汚れは普通では落ちないよ、追加で倍以上はお金をもらわないと割にあわないし、仮に受けたとしても衣類がどうなるかわからない。いい加減な判断で受けないようにしてよ」と。
こうした経験をして、受付アルバイトは同じような汚れでも、例えばコーヒー、醤油、墨汁などなど、どれによる汚れなのか、その原因をしっかり聞き取らなければいけないということを体で覚えていくわけです。
さらに都合が悪いことに、クリーニング店にはお客さんが来店しやすい時間帯があります。検品を待つお客さんの行列を見ても動じないだけの肝っ玉を持ちつつ、そういった手のかかる聞き取りを行わないといけないのが受付なんです。
まあ、そんなこんなで大半の新人受付アルバイトは、両側からの理不尽なクレーム、プレッシャーに耐えかねて辞めてしまうわけです。
クリーニングは魔法ではありません。むしろ化学です。クリーニング工場は化学工場だと思ってください。どんな汚れでも魔法のように落とせるというわけではないのです。
ユーザの問題
いま述べましたが、ユーザ側からすると、クリーニングに出せばどんな汚れでも落としてくれると思っている人が多いんですね。
でも、実際には大半の汚れは落ちません。普通のクリーニング(ドライクリーニング)は油汚れ(脂溶性汚れ)を落とすものです。水溶性の「汗」「たんぱく質汚れ」は落とせません。
油汚れ(脂溶性汚れ)の例
- チョコレート:ケーキ屋さんの制服
- マヨネーズ:飲食店の制服
- 自動車のオイル:自動車整備士の制服 などなど
しかし、普通のサラリーマンが日常生活を送っているときにつける汚れの大半は「汗」でしょう。これを落としてもらうためには、別メニューの「水洗いメニュー」を申し込む必要があります。
実は、水は浸透力が強いので、大半の汚れを落とすことができます。ドライクリーニングで落ちなかった汚れが家庭用洗濯機で洗ったら落ちたというのは、水のほうが洗浄力が強いからです。
しかし、水も万能ではありません。浸透力が強い代わりに、衣類に与えるダメージも大きいのです。水による洗濯、ドライクリーニングともに生地にダメージを与えますが、水のほうが気を配らないといけないわけです。
一方で、工場ではひたすら数をこなさなければいけないという現実もあります。クリーニング作業で、ひとつひとつの衣類に目配せをする、個別対応をするというのは、普通の安い価格で請け負っている以上、現実的に不可能なのです。1)もちろん、レジュイールのようにひとつひとつの衣類に向き合ってくれる高級店もありますが、その服を買うのと同じくらい、もしくはそれ以上の値段になることもしばしばです。
正直、そういった油汚れに縁がない人にとってのクリーニング屋は、きれいにアイロンがけをしてくれるプレス屋くらいに思っておいた方が、工場の実態により則した認識になると思います。
アパレルメーカーの問題
お気に入りの服によくありがちですが、クリーニングに出したら、色落ちしてしまったとか、生地が変になってしまったというクレームもよくあります。
このようなことが起きてしまう原因として、工場のミスももちろんあるのですが、それと同じくらい、もしくはそれ以上に素材の良し悪しも原因として大きいのです。
具体的には、日本国内の基準を満たしていない染色堅牢度や品質の衣類がたくさん出回っているということです。
染色堅牢度というと難しい言葉のように感じるかもしれませんが、ジーンズなどを想像するとわかりやすいと思います。ジーンズって、わざと色落ちするような仕様にしていますよね。あれは染色堅牢度が低いというわけです。
堅牢度の低い衣類を洗ったら、色落ちなどが起きる可能性は高いです。しかし、そのような素材段階でのステータスは衣類にタグ表示されていないので、クリーニングを行う工場のベテラン担当者といえども、やってみないとわからないということになるわけです。
ファッション性の高い衣類ほど一品モノで品質確保まで手が回っていないこともあり、洗濯に耐えられないことも多々あります。このあたりが所有者にとって、どうメンテナンスするか大変悩ましいところですね。(それと同じ悩みを工場の担当者も少なからず考えていると思ってもらえたらいいかなと思います)
まとめ
このようにクリーニングでのクレームは、「クリーニング店・工場の問題」「ユーザの問題」「アパレルメーカーの問題」それぞれが絡んで発生しています。
そのしわ寄せを一番受けやすいクリーニング店の受付の離職率が高いのは、現状の仕組みではどうしようもないところなのですね。(この仕組みが良いという意味じゃないですよ)
References
1. | ↑ | もちろん、レジュイールのようにひとつひとつの衣類に向き合ってくれる高級店もありますが、その服を買うのと同じくらい、もしくはそれ以上の値段になることもしばしばです。 |