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前夜
序文
無数の蝋燭の炎が一斉に大きく揺れ、テーブルを囲む五人を薄暗く照らす。
五人は全員左手にワインの入ったグラスを持っている。
「ついに明日、長く続いた平穏が終わりを告げる・・・」
五人の内の一人の男がどこか儚げに言う。
「そうだな、こうして杯を交わすのも今日が最後だろうな・・・」
男の隣に座る男が寂しそう、それでいてどこか嬉しそうな声で言う。
五人は乾杯すると、グラスに入ったワインを一気に飲み干した。
そして、一人目の男はグラスをテーブルの上に静かに置いて、
「今回の神樹戦争、一体誰が『神樹の種子』を手にするのか・・・」
そう呟き、席を外した。
序章 『前夜』
―桜峰市
その日、何気ない下校中に起こった。
小学生だった俺は友達に手を振り今日の別れを告げ、家路を急いだ。
その途中、何気なく空を見上げると、
巨大な魔法陣のようなものが桜峰の空を覆っていた。
周囲を歩く人たちは驚き、あるものは誰かに電話を、あるものは写真を撮っていた。
すると、巨大な魔法陣からアニメや漫画でよく見るような炎の巨人。
いや、炎神がゆっくりと姿を現した。
そして、桜峰市が地獄と化すのに時間はかからなかった。
俺が気づいたとき、そこにあったのは焦げた死体と崩壊した家屋、そして炎だった―。
「おーい、壮太くん。起きろー、遅刻しちゃうぞー。」
目を覚ますとそこには16歳の俺、折原壮太と、俺の頬を突いている近所に住む古典教師、米塚玲央がいた。
「ああ、悪い。いつの間にか寝ちゃってたみたいだな。」
「ううん、子供はそれぐらいの方がいいよ。」
「レオ姐、俺はもう子供じゃない!」
このおば・・・いや、お姉さんは、親父、折原康治の知り合いである女性の娘で、親父の死後、独り身となった俺を世話してくれている。
「朝ご飯作ったから食べよ、まだ全然時間に余裕あるけどね。」
さっき「遅刻しちゃうぞ」て言ってたじゃん。と突っ込みたくなったがあえてスルー。
俺は自室で制服に着替え、レオ姐と世間話をしながら食事をすると、鞄を持って家を出た。
―あれから10年が経った。
復興が進み、桜峰市は今では高層ビルが立ち並ぶ都市になった。
あの時の生存者は俺だけだったらしい。
あとは友人も家族もみんな死んだ。
そんな居場所のなくなった俺を親父は養子として迎え入れた。
その5年後、親父は32歳という若さで亡くなった。
身内のいなかった親父のこの広い屋敷を含むすべての遺産は俺が受け取ることになった。
交差点で信号待ちしているとパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「何があったんだろ。」
パトカーは俺のいる交差点からほど近い怪しげな雑貨屋の前で止まったのが見えた。
朝のHRの時間までまだ余裕があるので、見に行ってみることにした。
店の前にはすでに大勢の人が集まっており、俺は後ろの方から背伸びをして中を覗いた。
そこには死体があった。
血も流していない、外見は傷一つない男の死体だった。
ここのところ、この街で殺人事件が急に増えだした。
そのため、放課後は18時までしか残れず、俺は剣道の県大会に向けての練習がほとんどできない。
「早く犯人捕まれよな・・・」
愚痴を吐き、俺はその場を後にした。
授業中、俺は何も考えずただ窓の外を眺めていると、あっという間に一日の授業が終わった。
朝の事もあり、今日の部活は休みになった。
何もすることがなくなった俺は、帰りにコンビニに寄ることにした。
その道中だった。
俺は学校からコンビニへの近道である商店街を通っている時。
突然、目の前に白いドレスに身を包んだ若い女の人が現れた。
その女性は俺の顔を見て微笑み、俺の方に歩いてきた。
「そろそろ呼ばないと死んじゃうよ。」
女性は俺にそう言って去っていった。
まるで意味が分からなかったが、その日俺はコンビニに行くのをやめて、直接家に帰った。
呼び出す?
何を?
自室に引きこもり、女性の言葉の意味をひたすら考えた。
しかし、考えているうちに睡魔に襲われ、そのまま眠り込んでしまった・・・。
きっと気のせいだろう。あの女性も、あの女性が言ったことも全部。
夜中の12時を少し回ったころ。
鍵をかけたはずの自室の窓が開いた。
序章 『前夜』 完
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
この作品は、高校の現代文の授業で書いた「理想郷の聖騎士」の評判が思ったより良かったので、
こうして物語にすることにしました。
↓ネタバレ警告↓
それでこの話ですが、舞台は2004年の日本、とある県の桜峰市が舞台です。
主人公の折原壮太君が突然「神樹戦争」に巻き込まれるという話です。
(神樹戦争の説明については次回以降物語中にてします。)
先ほど主人公の折原壮太君と言いましたが、
主人公はあと2人います。
次回以降出てきます。
折原君サイドのテーマは、「平和」です。
なぜ「神樹戦争」は起きるのか?なぜ「神樹の種子」を求めて人は殺し合うのか?
そして、本当の意味での「平和な世界」とは何なのか?
というテーマです。
あ、ちなみにですがキャプションで話した「使い魔」ですが、次回もまだ出てきません。
できるだけ早く出したいのですがそれも次回次第ですね。
というわけで最後の挨拶を、
今回は「理想郷の聖騎士-Sword or die-」を読んでいただき、
ありがとうございます。そして、これからよろしくお願いします。
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