難病指定を受けた「脂肪萎縮症」とは、どんな病気?1/1

昨年7月に厚生労働省の指定難病となった「脂肪萎縮症(fat atrophy/lipodystrophy)」は100万人に1人の発現率という非常に稀な病気です。痩せが特徴なのに、肥満の人に多い糖尿病などを合併症として発症してしまうという難病。どんな病気でしょう。

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− 脂肪萎縮症(fat atrophy/lipodystrophy)
昨年7月に厚生労働省の指定難病となった病で、100万人に1人の発現率という非常に稀な病気。全身・あるいは部分的に脂肪組織が消失したり、減少したりする症状が現れる。


脂肪萎縮症の症状を見ると痩せてガリガリになる病気だろうか」と思われる方が多いのでは?確かにそれは間違いではありません。しかしこの病は、同時に糖尿病や高血圧症にも罹りやすくなるという特性があります。

一体、どういうことなのでしょう。

理由は、脂肪組織が分泌する身体の働きを調整するホルモン群アディポカインが、脂肪組織の消失や減少とともに分泌されなくなり、いろいろな病気への脆弱性が露呈されることになるからです。

特にインスリン抵抗性糖尿病などに脆弱になります。

インスリン抵抗性糖尿病は、肝臓のβ細胞から分泌される「インスリン(insulin)」と呼ばれるホルモンが、肝臓や筋肉、脂肪細胞などで正常に働かなくなる状態です。

インスリンは、体内の血糖値の状態を一定に保つために重要なホルモンです。抵抗性があると、食事などで高まった血糖値を感知するようになります。
これにより、すい臓からインスリンが分泌されても、筋肉や肝臓が血液中のブドウ糖を取り込まなくなるため、血糖値が下がらず、糖尿病の発病につながるのです。

”食欲抑制ホルモン”「レプチン」が、働かなくなる

「脂肪萎縮症」においては、脂肪細胞から産生・分泌されるさまざまな生理活性物質の中でも、レプチン(leptin)」というホルモンが欠乏状態にあります。それが、病態に大きな関連があることが明らかになってきました。

レプチンは、”肥満ホルモン”などと言われることもありますが、同時に”食欲抑制ホルモン”とも言われています。
1994年に発見されるやいなや、ダイエットにすごい効果があるのではないかと大きな注目を集めましたし、今でも痩せ効果を狙ったレプチンサプリが、大量に市場に出回っています。

レプチンは、肥満ホルモンではありません。脂肪細胞で作られるタンパク質で、血流に乗って脳に届きます。
レプチンは、脂肪細胞から脳に、エネルギー調節をする準備ができたことを伝えるホルモンなのです。「自分の脂肪細胞は普通にエネルギー貯蓄ができているよ」と。

ですから、レプチン値が高いと、脳はエネルギー代謝を促進して、通常値まで値を下げなければならないと判断して、運動を即したり、エネルギー摂取を抑制したりしますし、その逆もまた然りです。

このようにして、人は「成長期」や「妊娠」などに対処していくわけです。

レプチンの通常量は人によって異なりますが、ダイエットなどで脂肪細胞が減るとレプチンも減ります。
なので、脳が「飢餓状態である」と判断し、脳から腹部まで走っている迷走神経への刺激などをおこなうようになります。

これにより、レプチン値は正常に戻っていきますが、レプチンが正常に働かないと、上記のようにインスリンが分泌されても効かない抵抗性が生まれるわけです。

日本には135人。タイプは3つ

現在、世界でも300人前後、日本には135人前後の患者がいらっしゃると推定されますが、後述する「レプチン補充療法」以外の、決定的な治療法は見つかっていません。
これは、京大病院の小児科で診断された、唯一の脂肪萎縮症患者の男性の例です。

  • 出生時から低体重児だった
  • 8歳で糖尿病を発症
  • 12歳で高インスリン血症を発症

この方は30歳になった現在も、全身に脂肪組織がありません。脂肪萎縮症には、以下の3つのタイプがあるのですが、この方の場合は3.の状態となります。

  1. 全身性脂肪萎縮症全身の脂肪組織が少なくなったり、ほとんどない
  2. 部分性脂肪萎縮症両脚など部分的に脂肪組織が少なくなったり、ほとんどない
  3. 極限性脂肪萎縮症狭い範囲に限って脂肪組織が少なくなったり、ほとんどない

遺伝子疾患の場合も

上記の男性患者は、遺伝子疾患でなく後天性のものだと確認されています。

しかし、「遺伝性」とされる先天性のものもあります。
遺伝性で、腕と脚など部分的な脂肪細胞だけが消失したケースや、発症して1年で全身の脂肪細胞が消失したケースも散見されているようです。

レプチン補充療法とは?

昨年、米国食品医薬品局(FDA)は、レプチンによる治療法MYALEPT®(metreleptin)を許可しました。

いったんは抗肥満療法として製造中止されていたものですが、脂肪萎縮症の一般的治療法としてレプチンの適用効果が認められてきています。

重度の糖尿病、高血圧などに苦しんでいたダナ・スワン博士は、ユタ州サウスウエスタン医療センターにてレプチン補充療法を受けたことで、心臓発作や脳卒中などの危険性を回避することができ、この治療法に救われたと言います。
博士は、脂肪萎縮症の初の臨床試験の一環として、もう14年間補充療法を受け続けています。

サウスウエスタン医療センターの代謝性疾患部門長で、脂肪萎縮症の世界的権威、ガーグ医師(Dr. Abhimanyu Garg)は言います。

レプチン補充療法は確立された治療法ではないにせよ、糖尿病、高血中脂質、肝臓への脂肪蓄積などのコントロールに役立ち、合併症の発症を抑えられます。

13 Year old girl with Lipodystrophy, a disease that makes her look 40 years old(3:44)

脂肪萎縮症を抱える13歳の少女。かなり歳をとって見えてしまうようです。


【参照】

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