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企業4分の1超が辞退 人手不足で 岩手・宮城

宮城・仙台では、災害公営住宅(中央奥)の周辺に商業施設や新築マンションの集積が進む=2016年2月21日、川口裕之撮影

 東日本大震災の被災地に工場などを新増設する動きを促進する国の補助金制度を巡り、岩手、宮城両県で事業が採択された198事業者のうち、少なくとも4分の1以上が辞退していたことが毎日新聞の調べで分かった。両県によると、交付の要件となる地元住民の雇用数が人手不足で確保できなくなったケースが多いという。復興需要の高まりなどで特定の業種や地域に労働力が集中し、被災地の産業再生の妨げとなっている実態が浮かんだ。

沿岸産業の再興妨げ

 津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金は、被災地に新たな雇用を生む国の主要な産業復興施策の一つ。応募企業は事業内容の審査を受け、採択されると経済産業省に補助金交付を申請し、交付決定後に事業に着手する。これまで1〜5次公募(2013年5月〜15年9月)で対象となる青森、岩手、宮城、福島、茨城5県の水産加工や電子部品製造、物流など512事業者(補助金総額1998億円)が採択された。

 だが、毎日新聞が各県に聞いたところ、回答した岩手、宮城両県で採択された198事業者中50事業者以上が申請前に辞退していた。また経産省によると、5県の512事業者のうち今年1月末時点で交付決定したのは169事業者にとどまり、残りは辞退のほか申請を悩むところが相当数あるとみられる。1〜5次分の申請締め切りは3月末に迫っており、辞退はさらに増える可能性がある。

 交付の要件はそれぞれの県内に住所がある住民を一定数雇うことで、岩手、宮城両県によると、辞退の理由ではこの要件の達成が困難になったケースが多い。そのほか、資材・労務単価の高騰など経済状況の変化▽会社の経営状況の変化▽予定した用地の未取得−−などもあったという。2次公募で採択されたものの、昨年辞退した宮城県気仙沼市の水産加工会社は取材に「人が集まる見込みがなく最終的に無理だと判断した。外国人研修生を雇うことはできても、なかなか規定の人数の社員を正規に雇うのは難しい」と話した。

 同県産業立地推進課によると、14年度以降は復興事業で建設業などに人材が集中するピークを過ぎて元の業種に戻るとみられていたのに、状況が変わっていないという。担当者は「公共工事が延び延びになっているのが原因。辞退者はまだ増えるだろう」と話す。

 また同県のハローワーク別に、求職者1人当たりの求人数を示す有効求人倍率をみると、都市部の仙台、沿岸部の気仙沼は震災前(10年12月)にそれぞれ0・53倍、0・47倍でほぼ並んでいたが、現在(15年12月)は1・34倍、2・15倍と大きく開き、沿岸部の人手不足が顕著となっている。

 経産省は当初、同制度を今年度で終了する予定だったが、残額の発生が見込まれ、来年度以降も継続する。同制度で6000人の正規雇用創出を目指すとしているが、現時点の交付決定額や雇用数については「ある程度の期間をかけて達成しようと考えている」として明らかにしていない。【震災5年取材班】

背景に給与水準の差も

 東北大大学院教授の増田聡・震災復興研究センター長(地域計画)の話 三陸沿岸の水産加工業などは給与水準の低いところが元々多く、給与水準が高い復興事業に人を取られている。復興事業を被災地全体で一気に進めたことがこの動きを強めた原因で、大きな問題だ。生活を早期に立て直すため仙台市に移った人も少なくなく、被災地の産業は急激な人口減少という根本的な問題を突きつけられている。

 【ことば】津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金

 東日本大震災の津波被災地域や福島第1原発事故による避難指示の解除地域などの産業復興のために設けられた。予算枠は約2000億円で、基金から交付する。工場などの新増設への投資額に応じて決められた人数の地元雇用者を新規に雇うことが交付の要件で、例えば1億円以上〜10億円未満の投資額なら5人以上の地元雇用者を新規に雇わなければならない。補助率は、対象地域の被災の状況で異なり、大企業で5分の1以内〜3分の2以内、中小企業で4分の1以内〜4分の3以内。

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