中国・上海で開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を受け、金融市場はいったん落ち着きを取り戻すとの見方が多い。年初以降の市場動揺に対し、共同声明で政策手段の総動員を表明したことに期待が高まっている。ただ原油安や中国経済減速といった根本的な問題の解決に直接つながらないとして先行きを楽観視する声は広がっていない。
G20財務相会議の共同声明では市場動揺が「世界経済のファンダメンタルズを反映したものではない」と指摘。そのうえで市場安定のために金融政策、財政政策、構造改革の「すべての政策手段を用いる」との文言が盛り込まれた。
外国為替市場では政策の総動員について「ほぼ期待された内容」(あおぞら銀行の諸我晃氏)と歓迎する声が出ている。円相場は前週末に約1週間ぶりに1ドル=114円前後まで下落したが、もう一段の円安・ドル高が進む可能性がある。
株式市場でも「機動的な財政出動をやりやすくなり、市場も好反応を示すだろう」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘氏)という受け止め方が多い。金融政策だけでバランスの取れた成長は難しいとの認識が共有され、ドイツや中国で「緊縮財政からの転換が起きれば、世界経済にプラスに働く」(JPモルガン・アセット・マネジメントの重見吉徳氏)との声もある。
ただ「具体的に何をするかということに触れなかった」(SMBC日興証券の丸山義正氏)ことへの不透明感も残る。先行きの政策判断は各国に委ねられ、中長期的な動きが見通しづらい。
さらに市場参加者を悩ませたのが、為替相場に関する不明瞭な表現だ。約2年半ぶりに「過度の変動や無秩序な動きは経済や金融に悪影響を与える」との文言を盛り込む一方で、「通貨の競争的な切り下げの回避や(輸出)競争力のために為替レートを目標としない」と明記。急激な円高を止められても、年初の円安水準に戻す政策が容認されるかは不透明だ。
実際、日銀の黒田東彦総裁は27日の記者会見で「(マイナス金利政策に対し)異論や意見は全くなかった」と述べたが、ユーロ圏財務相会合のデイセルブルム議長は同日に「競争的な(通貨の)切り下げにつながるのではないかと多少懸念があった」と発言した。
シティグループ証券の高島修氏は「金融緩和で円安に動かすことを通じて景気の浮揚を目指してきた日本の政策はあまり歓迎されない」とみる。共同声明が日銀の追加緩和の妨げになるとの見方が広がれば、いったん落ち着きつつある市場が再び動揺し、円高・株安の連鎖がぶりかえすことになりかねない。
そもそも年初以降の市場動揺を招いた材料にはG20が目指す世界経済の下支えだけで解決できない問題も多い。例えば原油安ではサウジアラビアやロシアなど産油国の増産凍結の実効性がカギだが「生産調整の機運は高まらず、ニューヨーク原油先物相場は1バレル30ドル台での値動きが続く」(三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至氏)との声がある。
週明け以降には市場を揺さぶる材料が多い。29日には財務省が2月の為替介入実績を発表。円急騰時に政府・日銀が円売り介入に動いたのかが明らかになる。3月4日には米利上げの先行きを占う2月の米雇用統計も発表される。市場参加者が警戒を解けない局面が当分続きそうだ。