シャープ技術で有機EL アップル向け
経営再建中のシャープに買収を提案している台湾の電子機器受託製造大手、鴻海(ホンハイ)精密工業の買収後の世界戦略の概要が12日分かった。2018年に米アップルのスマートフォン(多機能携帯電話)、アイフォーン向けに次世代の有機ELパネルの納入を目指すほか、中国の電子商取引最大手、アリババグループを介してシャープ製品の新たな販路を開拓し、事業を一挙に拡大する。シャープのブランドや最先端の液晶製造技術を活用し、スマホなどの受託製造専門の黒衣役からの脱却を図る。
関係者によると、鴻海は2018年から有機ELパネルを量産し、米アップルに納入する方向で水面下で調整を進めてきた。当初は鴻海グループだけで巨額投資を行う計画だったが、資金をシャープの買収と成長投資に振り向ける。パネルのノウハウが乏しい鴻海は自社単独より、技術で先行するシャープを活用した方が実現性が高いと判断した。まずは500億円規模を投じて試作ラインを整備し、将来は数千億円を投資する方向。シャープは有機ELパネルの基礎技術の開発を進めてきたが、財務状況の悪化で量産への大型投資は困難だったため、両者の利害が一致する形だ。
鴻海は米アップル向けの高級液晶パネルは品質面での課題のため納入できておらず、シャープの技術を吸収した上で納入を目指す。アイフォーンの組み立てを受託する鴻海は、スマホの顔とも言える基幹部品のパネルも押さえることで、組み立てコストが低減し、利益増加が期待できる。
また、鴻海は、電子商取引のサービス拠点設置などをめぐり協力関係にあるアリババグループと提携し、シャープの液晶テレビや白物家電などをインターネット販売する計画を立てている。シャープは液晶テレビや白物家電の中国での販売を重視してきたため、ブランドイメージは高い。鴻海はシャープ買収後、ネット販売の鍵を握るブランド力を最大限生かし、販売量を急伸させたい考えだ。
鴻海はこうした戦略で事業や利益の拡大が見込めるとして、当初約2000億円と考えていた買収などの費用を7000億円規模まで拡大して提案。一方で、シャープは12年に鴻海から約670億円の出資を受ける契約を結びながら破棄された経緯があり、不信感も根強い。鴻海による支援が確実に実施される保証が不十分と判断した場合、官民ファンドの産業革新機構による支援案が再浮上する可能性もある。【宇都宮裕一】