2011年04月26日
永久保有ポートフォリオ(2) あまりに退屈で耐えられない
理解してしまえばバフェット流の投資は簡単です。
そして一度買ってしまえば、日々の動きを気にすることもありません。
あまりにも簡単で、あまりにも強力です。
しかし同時に、あまりにも退屈なので普通の人は長期間耐えられないのです。
下のチャートは、バフェットのバークシャーハザウェイ(BRK/A)と米国SP500株価指数(SPX) 、ナスダック総合指数(CCMP)、モルガンスタンレー新興国指数(MXEF)を比較した20年のチャートです。
下段はその相対株価。たとえばバークシャーの株価をSP500で割って(BRK/SPX)、バークシャーがそれらの株価指数をどれぐらい上回ったかを示しています。
本来は配当を出さずに再投資を続けるバークシャーと、配当を加えない株価インデックスを比較するのは不公平です。株価インデックスの成績はもっと良いはずなのですが、長期のトータルリターン指数が取れなかったのでご容赦ください。ここでは数字もさることながら、株価や相対株価の方向性に注目していただきたいと思います。
上段を見るとこの期間のバークシャーのパフォーマンスは15倍!
ITバブル崩壊とサブプライム危機を乗り越えての数字ですからやはり凄いです。
一方でSP500は3.6倍、ナスダック総合は5.8倍、MSCI新興国指数は5倍とそれぞれ素晴らしいですが、たとえ配当を加えたとしてもバークシャーにはかなわないと思います。
下段はそれらパフォーマンスの比率です。100を基準としていますのでバークシャーはSP500の4.3倍、ナスダック総合の2.6倍、MSCI新興国指数の3倍になっています(前述のように指数に配当を入れたらこれほどの差にはならないと思ってください)。
やはりバフェット流の投資は長期では強いのですが、ここで注目してもらいたいのは相対株価が右肩下がりの時期、つまりインデックスに負けている時間が結構長いということです。
たとえばITバブル真っ盛りだった98年半ばから2000年初頭まで、下段の相対株価はどれも右肩下がりを続けています。つまり1年半以上も大負けしています。
その後2002年の後半まで3年弱の間バフェットの投資が上回って、その負けを取り戻します。しかしまたそこから2007年後半まで実に5年間も新興国に対して負け続けます。SP500やナスダック総合に対してはそれほどでもないですが、やはり右肩下がりが続きます。
そして2007年後半から2008年のリーマンショックまでドカンと勝ち、その後はまた2年以上じりじりと下がっています。
バフェット流はこのように、他のインデックスに負けている時間がけっこう長いのです。特にITバブルや新興国バブルなど他にブチ上がっている資産があるときは、バフェットが好むような銘柄は上昇から取り残されることになります。
そこであなたは、こう考えるでしょう。
「じゃあ、他に好調な国やセクターがあるときはそっちに投資しておいて、バブルが崩壊したときにバフェット銘柄にシフトすればいいよな。俺って頭イイ!」
しかし上のチャートの上段と下段をよく見てください。下段にあるバークシャーの相対株価が右肩上がりのときは、基本的に上段の株価インデックスは下がっています。バフェット銘柄は基本的にディフェンシブなので当然です。
つまり相対的にはインデックスに勝っている期間でも、絶対的には下がっていたりするのです。特に金融収縮のときはディフェンシブもかなり売り込まれます。2008年秋のリーマンショックが良い例で、下段の相対株価は急上昇していますが、上段の絶対株価は急落しています。
ディフェンシブ株まで下がってしまうような局面で、いくら強い企業でもわざわざ株を買う人はいません。そんなときは長期債にシフトしたり、景気敏感株やバブル株のショートポジションを取ったほうが儲かるからです。
つまりこの20年でバフェット銘柄が相対的にも絶対的にも儲かったのは、景気敏感株からディフェンシブ株にシフトする相場下落の初期段階で、信用収縮にいたる前のわずかな期間だけだったということです。
バークシャーの 絶対株価 相対株価
景気拡大 じりじり上昇 じりじり下落 ←長期の負けに普通は耐えられない
景気後退初期 上昇 急上昇 ←ウハウハな期間はごく短い
金融収縮 下落 上昇 ←傷が浅くて済むが一緒に下がる
「じゃあ、景気が良いときは景気敏感株やバブル銘柄に投資しておいて、景気に陰りが出てディフェンシブに資金が流れる瞬間にバフェット銘柄にスイッチ。さらに本格的な信用収縮になる直前に株を全部売ってドテンショートしつつ長期債を買えばいいよな。俺って頭イイ!」
確かにバフェットを上回る投資戦略のひとつの可能性は、そういった機動的な資産配分にあると思います。しかしバフェット投資の最もおいしいところだけを抜き取るのはかなり難しいと言えるでしょう。
過去20年に限ればバフェット流の投資は「相対的にドカンと勝ち、じりじり負けて吐き出す」ことを繰り返しながら長期的にはインデックスを上回ってきました。このパターンはCTAなどにも見られ、長期的に勝ちを収める投資戦略のひとつの形です。
しかし多くの人は、この「じりじりとした相対的な負け」の期間に耐えられません。
たとえばITバブルのとき3ヶ月で2倍になる銘柄を見てしまったら、普通の人は心穏やかでいられません。新興国指数がバークシャーの株を5年連続で上回ったら、誰だってバフェットが好む退屈な銘柄を持ちたいと思わないでしょう。
また、この戦略は銘柄をほとんど動かす必要はないですし、下手に動かすと逆に危険です。しかし傍目にはサボッているようにしか見えません。そして誰でも知っている銘柄ばかりなので、素人っぽくてカッコ良く見えなかったりします。
仮にあなたがある投信を買って、そのファンドマネージャーが売買もせずインデックスに5年間負け続けたとしたら頭に来て解約するに違いありません。
「こいつは目新しくもないありふれた銘柄ばかり買って、成績が上がらないのにサボりやがって」
それが普通の感覚です。オーナー社長として他人の評価や短期の収益を気にすることなくこの戦略を実行できるバフェットのほうが特殊なのです。
これはまるで稼ぎは良いが退屈な男と結婚するようなものです。あまりにも平和すぎる日常を受け入れ、長期的な視野でそれを喜び感謝できる人は少ないのかもしれません。
- こんなに変わり映えのしない銘柄はつまらない。そんなのばかりに集中投資するなんて素人かよ。
- ほとんど銘柄を動かさないのは退屈だ。傍目からはまるでサボってるように見える。
- 自分ならもっと良い銘柄を探し出し、タイミングをとらえてうまくやれるんじゃないか
このように考えるのは人情ですし、それが人間を成長させ人生をより豊かにします。
しかしこの手法に限って言えば、そのような当たり前の感情が作戦の継続を邪魔してしまうのです。
理解するのは難しくない。
始めるのも難しくない。
しかし続けるには信念と根気が必要な戦略と言えるでしょう。
そして日本人が投資をする場合、さらにちょっとしたハードルが加わります。
(続く)