借りてみたらこうだった!

最安の8TB HDD「ST8000AS0002」をテスト、SMR技術を再確認

ピーク性能は優秀、特性を理解した使い方がポイント text by 坂本はじめ

SMR技術採用の大容量プラッタを搭載する「ST8000AS0002」

 今回は、SMR技術を採用したSeagate Archive HDDシリーズの8TBモデル「ST8000AS0002」をお借りした。

 新技術「SMR」により、大容量を低価格で実現するSeagate Archive HDD。その実力と特性についてチェックしてみた。

安価な大容量HDDを実現するSMR技術とはなにか、構造を再確認

 SeagateのArchive HDDシリーズは、SMR技術と呼ばれる大容量化技術を採用したHDD。採用モデルが登場してから1年以上たっているが、特徴を再確認してみよう。

 Shingled Magnetic Recordingの略称であるSMR技術とは、データをプラッタに記録する際にトラックを重ねる形で書き込むことで、記録密度を高め、HDDの大容量化を図る技術だ。

 書込みヘッド微細化による記録密度向上の限界を、重ね書きという手法と、読出しヘッド側の余裕でカバーするSMR技術は、より安価に大容量のHDDを製造できる。

SMRと従来の記録方法の比較イメージ。

 一方で、トラックを重ねて書き込むSMR技術では、データの書き換えが発生した際に一部だけ書き換えることが出来ず、重ね書きした部分をすべて書き直す必要がある。この書き換え作業には時間を要するため、書き換え時にパフォーマンスが大きく低下するという特性がある。

データ書き換えのイメージ。

 Seagate Archive HDDでは、この従来型HDDと異なるSMRの特性をカバーする緩衝材として、メディアキャッシュと呼ばれる領域を確保している。Archive HDDに書き込まれるデータは、従来型HDD並みの書込み性能を確保したメディアキャッシュに一旦保存され、その後SMR技術で書き込まれる領域へ保存される。イメージとしては、近年発売されたTLC NAND搭載SSDが備えるSLCキャッシュ技術に近いものと考えてよいだろう。

データ書き込み時に利用されるメディアキャッシュのイメージ図。

 SMR技術に関しては、以前にSeagateへインタビューを行っているので、詳しく知りたい読者はそちらの記事も合わせて確認してもらいたい。

・“10TB時代”に向けた最新HDD技術「SMR」のポイントをSeagateに聞いてみた(2014/12/20)
http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/docs/sp/20141220_680650.html

独特な形状のArchive HDDの8TBモデルマウンタやリムーバブルケースでの利用には注意

SMR技術採用のSeagate ST8000AS0002、インターフェースはSATA 6Gbps。

 今回チェックするSeagate Archive HDDは、容量8TBのST8000AS0002。インターフェースはSATA 6Gbps。128MBのキャッシュを備えている。

 一見すると一般的なHDDと同じように見えるが、ネジ位置などが異なるため、搭載可能な環境が限られる。トレイタイプのリムーバブルケースなどでの使用を考えている場合は、搭載可能か確認してからのほうが良いだろう。PCケースなどでもシャドウベイの構造によっては搭載できない場合もある。

Archive HDD「ST8000AS0002」の外観。底面のねじ穴は位置が変更され、側面のねじ穴は中央部の1点が省略されている。
一般的なHDDとのネジ穴位置の比較
一般的なHDDとの違い。一枚目は左がArchive HDD、二枚目は上がArchive HDD。ネジ穴の位置と数が変更されいることがわかる。

Archive HDDのパフォーマンスをチェック、ベンチマーク結果はかなり優秀大容量データの書き込みにはかなり時間がかかる?

比較用のSeagate ST2000DM001。Desktop HDDシリーズの2.0TBモデルで、回転数7,200rpm、インターフェースはSATA 6Gbps。

 エンタープライズ向けの高い信頼性とSMR技術による大容量を低価格で実現するArchive HDDだが、Seagateによれば、推奨する用途はデータの保管庫やバックアップ用ストレージであり、OSをインストールするシステムストレージのように、頻繁に書き換えを行う用途には適さないと言う。

 このあたりの事情も含め、Archive HDDがどのようなパフォーマンスを発揮するのか、ベンチマークテストCrystalDiskMark 5でチェックしてみた。なお、比較用のHDDとして、Seagateのデスクトップ向けHDD「ST2000DM001」を用意した。

SMR技術採用HDDと通常のHDDの速度比較(CrystalDiskMark 5/データサイズ1GiB)
Archive HDD ST8000AS0002のベンチマーク結果
Desktop HDD ST2000DM001のベンチマーク結果
SMR技術採用HDDと通常のHDDの速度比較(CrystalDiskMark 5/データサイズ32GiB)
Archive HDD ST8000AS0002のベンチマーク結果
Desktop HDD ST2000DM001のベンチマーク結果

 Archive HDDとDesktop HDDでは、Desktop HDDのパフォーマンスが明確に有利かと思いきや、CrystalDiskMarkではArchive HDDがDesktop HDDと遜色ないパフォーマンスを発揮した。データサイズを最大の32GiBに設定した場合でも結果はほぼ同様であり、Archive HDDのベンチマークスコアはかなり優秀だ。

 ベンチマークテストからは優れたパフォーマンスが期待できるArchive HDDだが、より実際の使い方に近い条件でのパフォーマンスを確認すべく、大容量データをコピーする作業を行った。結果、ベンチマークでは見えてこない特性が確認できた。

 テストは、1ファイル4GB前後の動画が約2.7TB収められているHDDを用意し、Archive HDDへ全データをコピー。1ファイルあたりの容量が大きいため、ほぼシーケンシャルアクセスとなるデータコピーだが、Archive HDDへのデータコピー完了までには14時間7分を要した。これは、平均すると約56MB/secという転送速度だ。

 おそらくだが、大容量のファイルを転送する際は、メディアキャッシュからSMR領域へデータを書き出す構造が要因となり、ベンチマーク結果のような速度が発揮できないのかもしれない。

 なお、100GB程度のデータであれば極端な速度低下は発生しないので、小容量のデータ書き込みであれば一般的なHDDとの差異を感じることは少ないだろう。

データの「最終保管庫」として活用したいArchive HDD

 Archive HDDは、その名のとおりデータの保管庫に適した特性を持つHDDだ。税込約2万7千円という価格で8TBもの容量を実現する圧倒的な容量単価は、大容量ファイルの保管場所を求めるユーザーにとって魅力的であることは間違いない。

 Archive HDDに圧倒的な容量単価をもたらしたSMR技術には、書込み時のパフォーマンスに従来型HDDとは異なる癖があるが、それを理解したうえで適した用途で使用するなら、価格と容量の両面で、大きな恩恵を得られるだろう。

 このような特性から、SMRを採用するArchive HDDは、小容量のデータを定期的に書き込み保管するといった用途に向いていると言えるだろう。例えば、数十GBのバックアップを定期的に取るような用途であったり、毎週趣味で撮影した写真を数GB分ずつ書き込んでいくといったような使い方であれば、コストパフォーマンスの良さと高いピーク性能の両方のメリットが享受できるはずだ。

[制作協力:Seagate]

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(坂本はじめ)