茂木克信、東野真和、黒田壮吉
2016年2月28日20時55分
東日本大震災の震災遺構をめぐる議論が、被災地で続いている。後世に教訓を伝えるために保存するのか、惨事を想起させるので解体するのか。保存が決まるまでに20年余りかかった広島の原爆ドームにならい、結論を次の世代に託した例もある。
宮城県石巻市の大川小学校旧校舎では津波で児童ら84人が犠牲になった。保存するか解体するか。今月13日、住民の意見を聴く市の公聴会で当時5年生だった只野哲也さん(16)がビデオメッセージで訴えた。
「大川小が残ることで、記憶を風化させずにずっと語り継いでいく。これからの防災に校舎は絶対に必要になってくる」
津波に遭いながらも助かったが、多くの同級生が犠牲になった。家も流され、母や妹ら家族3人も失った。「ほかの人にもうこんなつらい思いをしてほしくない」。そんな思いで保存を訴え続けてきた。
市が昨秋に行った地区住民へのアンケートでは、「解体」を求める人が54%で「保存」を若干上回った。意見も割れる中、市は3月下旬に結論を出す方針だ。だが、只野さんは議論が尽くされていないと感じている。「みなが納得できるようにもっと話し合いを続けた方がいい」という。
「解体」を望む意見も出た。当時6年生だった長女を失った中学教諭平塚真一郎さん(49)もその一人。今も校舎には大型バスで多くの人が見学に訪れ、記念写真を撮る。自分はただ静かに手を合わせたいだけなのに。悲しみを生じさせ、遺族に苦しみを与える校舎は必要ないと思う。
校舎近くで津波にのまれた長女は5カ月後、大川小から数キロ離れた海で見つかった。「想像して下さい。せめて骨1本でもわが子の手がかりが見つかればと、大川の地を来る日も来る日も掘る姿を」と訴えた。
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