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叙情詩の種

シンガーソングライターイシヅヤシンの物語。

羽を無くした鳥の物語

物語
羽を無くした鳥は、もがいている。
 
綺麗に飛ぶ鳥が言う。
「ジタバタしちゃってみっともない。」
 
優雅に飛ぶ鳥も言う。
「お前は羽を無くしたんじゃない。初めから持ってなかったんだ。」
 
大げさに飛ぶ鳥も続く。
「そうそう。以前持ってたのは羽の模造品だよ。君が幼い頃、羽が欲しいと散々ゴネるもんだから、渋々シンタクラースが願いを叶えたんだ。本来は自然の摂理に反する願い事は禁じられているのに…。」
 
飛べない鳥は言葉を失った。
僕の羽は…。 
 
優雅に飛ぶ鳥は言う。
「第一、君みたいな気色悪い模様の鳥が空を飛んでいたら、せっかくの美しい空のキャンバスが、狂った画家が酔っ払って書いた絵画のようになってしまうよ。ははは。」
 
「そうだそうだ!身の程をわきまえるんだな。君はただ人目につかない場所で静かに暮らせばいいんだ。」
綺麗に飛ぶ鳥が吐き捨てるように言った。
 
飛べない鳥は絶望した。
 
飛べない鳥は眠った。ただひたすら眠った。
 
目を閉じる事で、夢を見る事で、生きる場所を求めた。
 
どれくらい眠っていただろう。
ふと声が聞こえた。 
 
「ついに…ついに見つけた。やはり私は間違ってなかった。。これでようやく学会の連中を見返せるぞ!」
 
人間だ。逃げなくては。
しかし、ずっと眠っていたせいで体は動かない。 
 
柵のようなものに入れられて、飛べない鳥は、あっけなく生まれ育った森の中から、排気ガスが蔓延する人間の世界へと連れていかれた。
 
「素晴らしい大発見だ!この鳥はどの図鑑にも載っていない!ついにやったな!私たちが間違っていたよ。おめでとう!」
 
なにやら人間たちが盛り上がって握手やら拍手を繰り返している。 
 
しばらくして、僕を連れてきた男が言った。 
「無理矢理連れてきてすまなかったね。でも、君は僕の希望なんだ。本当に会えてよかった。」
 
…どうして?僕は飛べないんだよ?模様だってこんなに変で気色悪いんだよ?
どうしてそんな事言うの?
どうして微笑みかけるの?
どうして…どうして…。
 
その年、飛べない鳥は知らない世界をたくさん見た。
 
無数のカメラという光る箱、僕をじっと見つめて絵を書く画家、それから、よくわからけれど、グッズ販売ってやつが記録的なヒットになったらしい。フワフワの僕を抱きかかえた子供を何人も見た。
 
 
僕を連れてきた人間は、あっという間に時の人となった。
いつも彼の周りには人が溢れている。 
 
いいな。羨ましいな。 
 
そんな風に思っていると、窓から鳥が入ってきた。見たことない、真っ黒な鳥だ。
 
真っ黒な鳥は僕を見て言った。
「君が噂の飛べない鳥か!会えてよかったぜ。ホントかっこいい模様だなぁ。俺もあんたみたいに生まれたかったぜ。」 
 
 
「…本当に?僕はこんなに醜いのに」
飛べない鳥は震える声で言った。
 
 
「こんな素晴らしい芸術を醜いだって?どうかしてるぜ。俺は好きだぜ!きっと俺の仲間も皆同じ意見だ!」
 
飛べない鳥はとうとう泣き出した。
 
「僕は…僕は…生きててよかったんだね。飛べないし、変な模様だけど、生きててよかったんだね。」
 
真っ黒な鳥は少し驚いたが、すぐに微笑んで「皆色々あるんだな。でも、やっぱり最後は自分を信じてやるしかない。愛してやるしかない。俺だって、真っ黒で暗そうで怖そうって言われてよく嫌な気持ちになるけどよ、でもこれをかっこいい!って言ってくれるやつもいるんだ。俺はそいつらを大切にしたいよ。」
 
飛べない鳥は、ずっと飛びたかった。
体の模様も消してしまいたかった。
 
でももういいんだ。
 
僕は僕を高めればいいんだ。少しでも自分を好きになれるように、強くなっていけばいいんだ。
 
飛べない鳥は笑った。
 
随分久しぶりに笑った。
 
気持ち悪い笑顔で笑った。
 
 
それを見つけた人間は言った。
「なんて気味の悪い顔だ!大発見だ!」 
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fin
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