【トランプ研究・上】スピーチライター不在 「メモには従わない。先導するのは自分だ」 

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 米大統領選の共和党候補指名争いで、「不動産王」のドナルド・トランプ氏の勢いが止まらない。

 2月の序盤4州の予備選・党員集会を3勝1敗で勝ち抜いたばかりか、あらゆる有権者層に支持が広がるという構造的な変化を見せている。米国社会はトランプ氏をめぐる二極化を強めており、さらなる「トランプ研究」を迫られている。(ワシントン 青木伸行)

 トランプ氏は連邦と州の行政、立法府などでの政治経験がない「アウトサイダー」だが、彼のブレーンも同様だ。取り巻きのキーマンは2人。選挙運動の参謀であるコーリー・ルワンダウスキー氏と、政策顧問のサム・クロービス氏である。

 ルワンダウスキー氏は2015年1月にトランプ氏に雇われるまで、保守系財閥の大富豪であるチャールズ・コック氏、デービッド・コック氏の兄弟が支援する財団で、保守系草の根運動「ティー・パーティー」(茶会)の活動を後押しするなどしていた。

 ルワンダウスキー氏を知る関係者は、「彼は爆弾を投げつける。非常に好戦的な人物だ」と評する。いわば「類は友を呼ぶ」といった存在のルワンダウスキー氏は、トランプ氏が保守層に食い込んでいる秘密兵器のようだ。

 一方、クロービス氏は元米空軍の大佐で、安全保障に詳しい。広報担当はニューヨーク人脈で、広報戦略の専門家であるヒックス・ホープ氏が担っている。

 だが、彼ら以上にトランプ氏を支えているのが、「陰の側近」たちだ。例えば、元ニューヨーク市長のルドルフ・ジュリアーニ氏。市の治安を劇的に改善し、01年の米中枢同時テロ当時、市長として復興に辣腕(らつわん)をふるったことで知られる。

 ジュリアーニ氏は「虚心坦懐(たんかい)にアドバイスしている」とし、同氏が“側近”の一人であることをトランプ氏も認めている。

 前国防情報局(DIA)長官のマイケル・フリン氏も事実上のアドバイザーで、「トランプ氏は普通ではない質問をしてくる。恐ろしく理解力が早く、最初に会ったときに強烈な印象を受けた」と語っている。

 トランプ氏が、大統領に就任した暁には財務長官に起用するとした、投資家のカール・アイカーン氏らもいる。だが、政治家につきもののスピーチライターが見当たらない。トランプ氏自身が「広告塔」なのだ。

 こんなエピソードがある。長らくトランプ氏の政治顧問を務め、ニクソン、レーガン両元大統領の選挙運動に従事したロジャー・ストーン氏をクビにしたのだ。

 ストーン氏は13ページのメモを手渡し、「現在の経済システムは、国民を不正に操作している」と訴えるようアドバイスした。トランプ氏はしかし、メモを投げ捨てて言い放った。

 「メモには従わない。投票と世論を先導するのは自分だ」

 つまり、「トランプ氏自身が戦略や有権者へのメッセージなどすべてを管理している」(関係者)のだ。