ここから本文です

井端弘和「いぶし銀」の決断~もう少しで名球会、でも未練はなかった 二宮清純レポート

現代ビジネス 2月27日(土)18時1分配信

 際どいボールをカットしつづける粘りのバッティングに、ゴールデングラブ賞7回の華麗なグラブ捌き。いぶし銀の技術でチームを支え続けた名手は、今度は参謀として、盟友を支える道を選んだ。

高橋由伸からの電話

 内野にゴロが転がると同時に本塁目がけて三塁ランナーがスタートを切る。タッチよりもスライディングの方が一瞬、早い。昨季までならアウトと思われるケースのほとんどがセーフとなった。

 宮崎での巨人キャンプ第2クール。ノックバットを持つ井端弘和はひとつのプレーが終わるたびに守備位置を確認し、選手たちに指示を出した。それが内野守備走塁コーチとしての事実上の初仕事だった。

 プロ野球は今季から本塁付近でのクロスプレーに関するルールが変更された。キャッチャーはブロックが禁止され、ボールを持たずに走路を塞ぐと走塁妨害をとられることが確認された。

 一方でランナーも、走路からはずれた位置にいるキャッチャーへの体当たりは危険なプレーと見なされ、悪質な場合は守備妨害をとられることになった。

 新ルールにどう対応するか。それがキャンプ前半のプロ野球の最大のテーマだった。

 「ブロックが許されないキャッチャーは、手だけで(ランナーに)タッチにいくしかない。特にファーストとセカンドからの送球を受ける際は、昨季までよりも素早く処理しなければ(ランナーに)回り込まれてしまう。この2つのポジションは昨季より前に守らせる必要がありそうです」

 練習後、腕組みをしながら井端は答えた。

 開幕までには、まだ時間がある。審判の判定に対する傾向を探りながら、どんな対策を練るのか。新コーチの腕の見せ所である。

 40歳を過ぎたとはいえ、2000本安打まであと88本と迫った井端が、昨季限りで現役を引退し、コーチに就任するとは意外だった。

 井端に引退を決意させたのは昨年10月、同級生でもある高橋由伸からかかってきた一本の電話だった。

 「オレ、来年から監督をやることになったんだ」

 「それで、オレはどうすればいいの?」

 「いや、それはオレの口からは言えない」

 井端はピンときた。

 〈オレにコーチをやって欲しいんだろうな……〉

 一呼吸置いて井端は答えた。

 「じゃあ、オレも一緒に辞めるわ」

 2000本安打への未練はなかったのか? 
 「1500本を過ぎた頃から漠然と"2000本まで行けたらいいな"とは思っていました。しかし、正直言って、それにしがみつく気持ちは全くなかった。

 こう言うと失礼かもしれないけど、2000本安打を記録すれば皆、名選手なのか。僕は、そうは思っていない。2000本に届かなくても、素晴らしい選手はたくさんいる。監督(高橋)も、そのひとりだと思います」

 そして、こう続けた。

 「もし僕が(コーチを)引き受けなければ、(一軍首脳陣の中では)監督が一番年下になってしまう。それを避けられたのはよかったのかなと……」

 気配りのにじむ言い回しに"友への思い"が見てとれた。井端弘和とは、そういう男である。

1/4ページ

最終更新:2月27日(土)21時31分

現代ビジネス

記事提供社からのご案内(外部サイト)

「現代ビジネスプレミアム倶楽部」

講談社『現代ビジネス』

月額1000円(税抜)

現代ビジネスの有料会員サービスです。ビジネスパーソンが求める記事に加え、会員限定のイベントや会員同士の交流会などの体験型コンテンツも網羅して提供しています。

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

海中に広がる美しい世界と、その世界に起きている惨劇
写真家のブライアン・スケリーは海上、そして海中から海の恐怖と魅力にレンズを向けてきました。海洋生物達の驚きに満ちた写真を共有することで、目に映るイメージがどれほど人を動かす力を持っているかを示します。

本文はここまでです このページの先頭へ

お得情報

その他のキャンペーン