日本銀行が当座預金の新規増加分にマイナス金利(-0.1%)を適用することの目的を、「銀行が日銀の当座預金口座に退蔵している資金(超過準備)を市中への貸出に回すように仕向けるため」と解説する“識者”が後を絶たないので、メモとして記事にしておきます。
日銀のシナリオとしては、その余剰資金が企業融資につながり、経済の好循環を生むことが理想だ。ただ、それができなかったので、今のように“ブタ積み”といわれるほど日銀当座預金が積み上がってしまったといえる。
この日銀当座預金に新たに入る分にマイナス金利が付くということは、置いておくだけで損をすることですから、民間金融機関は普通ならできる限り貸し出しや投資に回そうとするでしょう。つまり、これからは市中に出回るお金が毎月6兆~7兆円ずつ増えていく可能性があるということです。
当時の日銀当座預金の管理では、企業などに貸出しをせず、余剰資金を日銀の当座に残せば、金利が0%ですから銀行の収益はゼロ。
いくら「ベースマネー」を増やしたところで「マネーストック」は増えなかった。そこで、マイナス金利を適用して金融機関が積み上げた資金を無理矢理市中に流そうとの発想に至った。
日銀による解説は以下の通りです。当然のことですが、「銀行が超過準備を市中への貸出に回すように仕向ける」とは解説していません。
日銀のwebサイトに掲載されている「日本銀行の金融調節を知るためのQ&A」から、日銀当座預金の総量についてのポイントを引用します。
公開市場操作(オペレーション)とは、中央銀行が金融市場において民間金融機関との間で行う国債等の売買や資金貸付などの取引であり、「オぺ」と略称されます。現在日本銀行には、共通担保資金供給オペ、国債現先オペなどがあります。これらのオペを日本銀行が行うと、金融市場の資金量――具体的には、民間金融機関の日銀当座預金の総量――が増減します。
民間金融機関は、企業や個人の金融、経済取引に伴う資金決済を円滑に行うため、日銀に当座預金口座を開設し、そこに資金を預けています。民間金融機関同士で、日銀当座預金に預け入れた資金のやりとりを行っている限り、金融市場における資金の総量は変わりません。
民間金融機関の日銀当座預金残高の総額を増減させる要因で、日本銀行も金融機関も短期的にはコントロールすることができないのが「銀行券要因」と「財政要因」の2つの要因なのです。
銀行部門全体にとって、日銀当座預金(と超過準備)の総量は「与えられる」ものであり、市中への貸出によって減らせるものではないということです。銀行が貸し出す「預金」は、日銀当座預金を転貸したものではなく、銀行が信用創造したものです。
次の解説も参考に。
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付利廃止ないしはマイナス金利によって準備を「追い出す」、すなわち、準備の絶対額が減少するのはどういうときか、ということですが、その一つは銀行が国債を買い入れる場合であり、このとき、銀行の準備は政府が日本銀行に保有する預金に振り替わります。いま一つは、銀行が準備を外貨に振り替える場合ですが、その相手が準備預金対象以外の金融機関である必要があります。つまり、準備預金の金利を引き下げる、ないしはマイナス金利を付けるということは、国債ないしは外貨に対する需要を増やす、すなわち、長期金利の低下および円安要因になることを意味するのであって、それによって銀行の対顧客信用供与が必ず増えるというわけではありません。
銀行が国債を買い入れても、日銀がそれ以上のペースで銀行等から国債を買い入れているので、銀行の保有する国債は減少し、代わりに日銀当座預金が積み上がっています。そもそも量的緩和とは、日銀当座預金、あるいは超過準備の「量」を増加させることです。
リフレ派は「日銀理論」を批判して自説を「世界標準」と称していたわけですが、その世界標準理論とやらは、「銀行は中央銀行から供給された資金を市中に転貸する」という仕組みに基づいていたということです。
おまけ
マイナス金利導入のアナウンス後、国債のイールドカーブは超過準備への付利の引き下げ(-20bp)とほぼ同じ幅低下しています。
しかし、2012年頃から、国債金利の低下幅≫銀行の貸出金利の低下幅となっているため、マイナス金利導入が、銀行の貸出金利低下→投資のための借入増加→経済活動刺激にどれだけつながるかは未知数です。*2