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help RSS Journal Watch: SRSを後悔した10例

<<   作成日時 : 2010/01/16 15:52   >>

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Kuiper A.J., Cohen-Kettenis P. T.: Gender role reversal among postoperative transsexuals. IJT 2(3), 1998.

ガイドラインに則したオランダでのSRS医療を受けたことに後悔を示した極めて稀な10例(MtF9例、FtM1例)について半構造化インタヴュー結果が報告されている。概してSRSの満足度は非常に高く、MtFは87%、FtMは97%の満足、一方SRS後に後悔する症例は極めて僅かで1−2%程度とされている(1)。KuiperとHohen-Kettenisらは半構造化インタヴューを通して、SRSを受けたことに後悔を示した症例では性に対して違和感を持ち始めた年齢が遅い傾向があるとして「遅発発症」を危険因子(SRSリスクファクター)であるとして注意を喚起している。10例のヒストリーの拙訳を以下に示す。
cross gender behavior:反性行動(反対の性で振る舞う事)、cross gender feeling:性違和感、real life experiment:実生活体験(希望する性で社会的生活を送ること)

(1) Green, R. & Fleming, D.: Transsexual surgery follow-up: status in the 1990s. Annual Review of Sex Research, 7, 351-369, 1990



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1. MtF. 37歳


SRS後も男性として前妻とその息子と一緒に暮らしている。無職。母親は精神的問題を抱えており、家族は何度も転居するなど不安定な家庭環境に育った。
22歳で初めての反性行動、25歳で強い性違和感を自覚。自分の性に対して嫌悪感を持っている。18歳頃から性の違和感に対して精神的に繕うことも困難となるが治療は受けず。16歳の時に自殺企図。仕事上の問題で1年間カウンセリングを受ける。現在も性に対する嫌悪感がある。

18ヶ月でSRSの為の診断を得た。内分泌治療開始後に実生活体験を1年。内分泌治療による身体的効果は期待出来ず強度の鬱状態に陥るなど診断に疑いを持っていた。しかし診断を疑っていることや鬱状態であることも精神科主治医には報告せず。SRS後の社会生活は非常にストレスであったが、性的役割を男性に戻してからは気分が楽になった。SRSを後悔している。現在は、男でも女でもトランスセクシュアルでもなく中性と感じている。


2. MtF. 41歳


現在も女性として女性パートナーと暮らしている。パートタイム。父親の虐待からある時期施設で育てられた。14歳で二度自殺企図。不安、攻撃、二極障害、精神症などから精神科と留置所で度々過ごす。

男の同僚との付合いが困難であった。ペニス嫌悪感は無かった。14歳で初めて女装。16歳でSRS希望。バイセクシュアルである。

SRS診断過程は2ヶ月要した。一般臨床医によって診断された。8ヶ月の実生活体験。SRS5−6年後に診断に対して疑心を感じ始めた。外科手術合併症あり。現在、男でも女でもトランスセクシュアルなど何れとも感じておらず、SRS過程に起因するトラブルは全て諦めている。


3. MtF. 43歳


暫くして男の役割に戻っていたが、現在は再び女性として生きている。無職。身体障害者。家庭で肉体的、性的虐待を受けている。母も身体障害者。経済的問題有り。初めての性違和感は8歳。女の子の遊びや女の子との遊びを好んだ。二次性徴による身体変化に基づく異常なし。男性に対する性的な空想を持つが、ある時は男として、ある時は女として振る舞う。23歳で自殺企図。SRS後も鬱治療を度々受ける。これはパートナーによる身体的虐待とも関係。

SRS診断過程は1年。実生活体験は2年。外科治療による合併症を来たし治療中に診断を疑うようになる。しかしパートナーが治療を継続するよう強く望むため診断への疑いを訴えることなく治療を継続。


4. MtF. 66歳


再び男として生きている。一人暮らし。前妻と子供との交流は途絶えている。退職。経済的問題以外には、家庭とは大きな問題はない。

12歳で性違和感。男の服装や男の身体に対して嫌悪感はなかった。女装歴はなく、49歳で初めて女装、その年にSRS希望。性対象は女性。膣閉塞のため初めての男性との性交渉は失敗。

診断過程は6ヶ月。実生活体験は1年。SRS診断に疑問を持ったきっかけは内分泌治療と外科治療合併症による。その後社会的孤立と家族を失ったことがきっかけでSRSへの後悔が始まったが、家族と再び交流することで改善。男に戻ることで生活の質は更に改善した。SRSの後悔は家族を無くしたことが原因。


5. MtF. 68歳


家族の希望で社会的には男性として、家では女性として生活。妻と年長の子供のみがSRSを知っている。家庭には大きな問題はない。性違和感は漠然と4歳頃であったと。8歳の時に初めて女装。男としての嫌悪感は12歳までに始まり、二次性徴発現後は悪化。23歳でSRS希望。性的対象は女性であるが、女性として子供を持ちたいとは望まない。性生活には常に不満を覚えている。

二十歳を過ぎてから女性になりたいとの思いから心理療法や精神科治療を何度か受けている。自殺念虜はあったが企図には至らず。

診断過程に8年。 内分泌治療開始後5年でSRS。SRS後の社会的成り行きが巧くないことから治療について多くを疑い始める。性違和感に対する疑いはない。


6. MtF. 35歳


女性として自立している。無職。幼少時から里親に育てられるも、父が亡くなり母の健康が優れないことから13歳より施設で生活。13歳までは性違和感、反性行動、身体嫌悪は無かった。13歳で性違和感を感じ始め女装を始める。女装は性的興奮を伴っていた。15歳でSRS希望。バイセクシュアルだが性交対象は男性。SRS後は性的パートナーを見つけるのが困難となる。

診断過程1年。実生活体験4年。外科治療の合併症を来たし不満足な結果に、社会的にも孤立するようになりSRSを後悔。その後3年間は男性として生きるも男性として生活を続けることが困難なため再び女性に。


7. MtF. 51歳


男性として生きている、週末は子供と一緒に、それ以外のウイークデーは単身で男性として生活。有職者。

母権家庭に育ち、母親は男を見下していた。最初の性違和感はおぼろげに7歳頃、しかし反性行動は無かった。青年期に初めて女装。30歳ころ鬱的気分に悩まされ治療を受ける。38歳でSRS希望。中性と自覚するもどちらかと言えば女性に惹かれる。

診断過程18ヶ月。内分泌治療の前に精神科療法を受ける。実生活体験18ヶ月。内分泌治療により種々の副作用。除睾術を受ける。去勢後はSRSを望むことは無く膣形成術を受けることもなかった。男として生きる方が社会的に容易なため男性に戻る。本人は真のトランスセクシュアルだとは思っていない。


8. MtF. 45歳


再び男性として生きている。前妻との交流はないが、二人息子の一人とは交流している。無職。SRS前はトラック運転手として働いていた。安定な家庭に育つ。子供の頃は女の子としての自覚はなく、反性行動も無かった。16歳から女装始め、常に性的興奮を伴っていた。17歳で初めて性違和感を自覚。30歳で初めてSRS希望。32歳で一度だけペニス切断を試みた。離婚や父親の死など精神的負担が大きい最中に入院、SRSを受ける。診断過程に3ヶ月、実生活体験は成功裏に1年半。しかしSRS6ヶ月後女性として生きたいという衝動が突然消失。男としての生活に戻り精神的に癒される。再び男として自覚するようになる。

SRS診断治療の過程中は診断に対して疑うことは微塵も無かった。ペニスを失ったこと自体がSRSを後悔した理由ではない。SRS治療の前はアルコール中毒の治療経験がある。


9. MtF. 46歳


男性として女性パートナーと生活している。前妻と子供との交流は途絶えている。

形成した乳房を最近切除した。母の愛情は希薄で父の援助も無く孤独な子供時代であった。遂には危機的精神状態に陥る。6-8歳の間に母親の洋服で密かに女装した程度でそれ以後は無かった。11歳で初めての性違和感を持った。42歳でSRSを熱望するようになる。SRSは彼の人生の問題を解決してくれると思っていた。診断過程3ヶ月、実生活体験約2年。社会的に性を転換することは当初より困難で受け入れられることはなかった。家族との接触が断たれたことが辛かった。SRS1年半後に男に戻る。この時男の体には依然嫌悪感はあるもののペニス形成を望む。治療中SRSに対する明確な躊躇は無かったが現在はSRSを後悔している。実在する問題に対していつも鬱的状態を感じており、たえず医学的、心理学的治療を受けている。


10. FtM. 32歳


女性として男性パートナーと永らく落ち着いた暮らしをしている。シリコン睾丸を除去し豊胸した。戸籍の性別を元に戻した。仲違いした二人の子供との関係も再構築できた。無職。

やんちゃな子供時代。両親に分け隔てなく育てられる。4歳の時に初めて性違和感を自覚。ペニスを持つ空想にふける。二次性徴により女性の体を受け入れることが困難となり、バイセクシュアル感覚に悩まされ、特に女性に対して恋愛感情を持つようになった。18歳と21歳の時に出産。21歳で初めてSRSを望むようになり22歳で男装する。23歳でSRSを受ける。診断過程に数ヶ月、実生活体験を約1年。乳房切除後何度かSRS診断に重大な疑いが生じ始めた。男性としてのジェンダー役割に内心反抗を感じていた。男になったにもかかわらず、彼女はついに女性としての自己を受容することが出来た。長い思案の末、彼女はジェンダー役割を再び女性に戻した。彼女はSRSによる身体の変化に後悔した。しかし彼女は自分自身をより見つめ直す道を歩んだことに後悔しているわけではない。




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