ローリングストーン日本版 アーカイヴ・インタヴュー
2015年6月号 小特集:表現の自由を規制するのは誰か。音楽編
石坂敬一 元ワーナーミュージック・ジャパン名誉会長
忌野清志郎が反原発を歌った楽曲を収録した『カバーズ』。そしてパンク・ロックにアレンジした「君が代」を収録した『冬の十字架』。この2つのアルバムは、当時所属していた東芝EMI、ポリドールが発売禁止にしたことを知る人は多いだろう。『カバーズ』時に東芝EMIの統括本部長を、そして『冬の十字架』時にポリドールの社長を務めていた石坂敬一。当事者である彼に、発売禁止の真相と、アーティストが自由に表現をするために必要なものを語ってもらった。
─そもそもレコード会社に、歌詞の具体的なNGコードはあるんですか?
ある程度、社内で決めていますが、ソリッドなしっかりしたものではありません。基本的にレコ倫(レコード倫理審査会)の判断に委ねています。
─レコ倫からNGだと言われた場合、法律的に発売できない?
法律的にはできます。ですが、レコ倫の審査で引っかかった場合、アーティスト自体が納得する場合もあるし、だいたいにおいて言うとおりになります。そもそも、レコ倫から『ダメだ』と言われることはめったにないんです。少ないと重みが増すでしょう。
─石坂さんがレコード会社にいたなかで、レコ倫から注意を受けて発売禁止になったものは?
発売禁止ではないけれど、要注意と言われたことはありました。
─具体的にいうと?
それよりも、我々が自主的に判断して発売をやめた大きい出来事があります。まさに表現の問題であったと思うんですが、東芝EMIの時の忌野清志郎の原子力発電の問題。ご存じですか。
─『カバーズ』(※1)ですよね。
あれは私と忌野清志郎が当事者でした。ずいぶん話し合ったのですが、清志郎は『これは必要だから出す』と。けれど、私は『絶対に出せない』と言いました。なぜなら、会社の皆の人生がかかってしまう。親会社の進言でしたから。
─東芝が『これは出せない』と?
言った。でも清志郎は納得しない。東芝EMIからは出せないので、キティ(レコード)に移って発売したんです。その1枚だけ。
─今、振り返って、石坂さんはその判断をどうお考えですか?
判断は合っていたけれど、思うところはある。ただ、ビジネスマン、サラリーマンの世界では、あれしか答えはないんです。その頃、社長は東芝から来ていましたし、個人的な感情でものを言えない。
─あの時、EMIから出していたら、その後の日本の表現の自由は違う状況になったと思います?
それはあるかもしれません。ですが、資本主義社会のルールでは、大株主である東芝の進言を無視するようなことはできない。そういう意味では、私は間違ってないんです。『出す』と言った清志郎も間違ってない。
─株主の意向で発売中止になったのは『カバーズ』だけですか?
そうですね。それ以外はない。
─例えば、思想団体からクレームが来ることはあるんですか?
ある。だけど、私が関わったもので、実際に来たのは皆無でした。
─日本の場合は、思想団体などの影響よりも、株主の意向のほうが強いということなんですか?
影響はありますよ。私が関わったものでも、そうした問題に触れると思われる例はあります。例えば「君が代」(※2)。
─清志郎さんがカヴァーした?
そう。「君が代」をやりたいというアイデアを持ってきた時、『これはマズいな』と。あの時も彼は『出したい』一辺倒で、結局インディーズから出したんです。
─清志郎さんが「君が代」を歌うことは、何がマズいんですか?
何もマズくない。「君が代」自体、歌詞の内容的にはいいんです。なぜいけないかというと、世の中の流れですよ。発売したらどうなるか。親会社にクレームがいくんですね。クレームは、最も大きい有名な会社にいきますから。
─レコード会社は『こういう曲は出せない』という話を、普段からアーティストにするんですか?
基本はないです。ただ、清志郎にはしました。一定のルールに触れるような歌を出すとえらいことになる場合があるから。
─ルールとは、原発以外では皇族、あとは被差別部落なども?
それはそうですよ。
─原発のことは、今も歌えないんですか?
歌えるけれど、難しいですね。
─それはレコード会社として?
いや、書く本人が。例えば原発で海が汚れているとか歌ってもいいと思うけど、いろんなしがらみはありますよね。それに、いくら『反対、反対』と言っても『あなたもエネルギーなくなったら歌っていられないよ』と言われちゃう。
─レコード会社が原発関連のことを歌ってはいけないと言っているわけではないんですね。
それはない。レコード会社は、ほとんど関与しないです。できた歌が原発どうこうという場合、内容によっては関わることはある。
─なるほど。
私は、そうした問題に触れるのなら、アーティストもそれなりに勉強をしたほうがいいと思うんです。レコード会社に全部を任せてしまうのは不利だと思う。ディレクターがどこまでそうした問題に対して敏感か、感受性があるかわからないでしょう。それでも出すなら、自分で弁護士をつけるくらいの覚悟をしたほうがいい。じゃないと、『思いつきでやったんじゃないの?』と言われてしまう。それは残念ですから。
─表現する側もそれなりに覚悟して、戦う姿勢でやらないと。
そう。アーティストがもっと土台をがっちり作って出せばいいんです。とはいえ、レコード会社が発売するのだから、もちろん責任はある。クレームを受けるのもレコード会社です。だから、アーティスト側と周辺も含めた両方が、努力していかなくてはいけない。
─石坂さんは、今後、もっと自由な表現ができるようになるためには、何が必要だと思いますか?
音楽の表現で問題になるのは、ほとんどが歌詞です。私は、歌詞を「詞」じゃなくて、「詩」にもっていかないといけないと思うんです。その努力をもっとした方がいい。例えば、表現者という時、ビートルズにはジョン・レノンという表現者がいる。ほかのバンドにはいない。要は表現者と言えるような人がもっと増えないといけないと私は思いますね。

カバーズ
2015年6月号 小特集:表現の自由を規制するのは誰か。音楽編
石坂敬一 元ワーナーミュージック・ジャパン名誉会長
忌野清志郎が反原発を歌った楽曲を収録した『カバーズ』。そしてパンク・ロックにアレンジした「君が代」を収録した『冬の十字架』。この2つのアルバムは、当時所属していた東芝EMI、ポリドールが発売禁止にしたことを知る人は多いだろう。『カバーズ』時に東芝EMIの統括本部長を、そして『冬の十字架』時にポリドールの社長を務めていた石坂敬一。当事者である彼に、発売禁止の真相と、アーティストが自由に表現をするために必要なものを語ってもらった。
─そもそもレコード会社に、歌詞の具体的なNGコードはあるんですか?
ある程度、社内で決めていますが、ソリッドなしっかりしたものではありません。基本的にレコ倫(レコード倫理審査会)の判断に委ねています。
─レコ倫からNGだと言われた場合、法律的に発売できない?
法律的にはできます。ですが、レコ倫の審査で引っかかった場合、アーティスト自体が納得する場合もあるし、だいたいにおいて言うとおりになります。そもそも、レコ倫から『ダメだ』と言われることはめったにないんです。少ないと重みが増すでしょう。
─石坂さんがレコード会社にいたなかで、レコ倫から注意を受けて発売禁止になったものは?
発売禁止ではないけれど、要注意と言われたことはありました。
─具体的にいうと?
それよりも、我々が自主的に判断して発売をやめた大きい出来事があります。まさに表現の問題であったと思うんですが、東芝EMIの時の忌野清志郎の原子力発電の問題。ご存じですか。
─『カバーズ』(※1)ですよね。
あれは私と忌野清志郎が当事者でした。ずいぶん話し合ったのですが、清志郎は『これは必要だから出す』と。けれど、私は『絶対に出せない』と言いました。なぜなら、会社の皆の人生がかかってしまう。親会社の進言でしたから。
─東芝が『これは出せない』と?
言った。でも清志郎は納得しない。東芝EMIからは出せないので、キティ(レコード)に移って発売したんです。その1枚だけ。
─今、振り返って、石坂さんはその判断をどうお考えですか?
判断は合っていたけれど、思うところはある。ただ、ビジネスマン、サラリーマンの世界では、あれしか答えはないんです。その頃、社長は東芝から来ていましたし、個人的な感情でものを言えない。
─あの時、EMIから出していたら、その後の日本の表現の自由は違う状況になったと思います?
それはあるかもしれません。ですが、資本主義社会のルールでは、大株主である東芝の進言を無視するようなことはできない。そういう意味では、私は間違ってないんです。『出す』と言った清志郎も間違ってない。
─株主の意向で発売中止になったのは『カバーズ』だけですか?
そうですね。それ以外はない。
─例えば、思想団体からクレームが来ることはあるんですか?
ある。だけど、私が関わったもので、実際に来たのは皆無でした。
─日本の場合は、思想団体などの影響よりも、株主の意向のほうが強いということなんですか?
影響はありますよ。私が関わったものでも、そうした問題に触れると思われる例はあります。例えば「君が代」(※2)。
─清志郎さんがカヴァーした?
そう。「君が代」をやりたいというアイデアを持ってきた時、『これはマズいな』と。あの時も彼は『出したい』一辺倒で、結局インディーズから出したんです。
─清志郎さんが「君が代」を歌うことは、何がマズいんですか?
何もマズくない。「君が代」自体、歌詞の内容的にはいいんです。なぜいけないかというと、世の中の流れですよ。発売したらどうなるか。親会社にクレームがいくんですね。クレームは、最も大きい有名な会社にいきますから。
─レコード会社は『こういう曲は出せない』という話を、普段からアーティストにするんですか?
基本はないです。ただ、清志郎にはしました。一定のルールに触れるような歌を出すとえらいことになる場合があるから。
─ルールとは、原発以外では皇族、あとは被差別部落なども?
それはそうですよ。
─原発のことは、今も歌えないんですか?
歌えるけれど、難しいですね。
─それはレコード会社として?
いや、書く本人が。例えば原発で海が汚れているとか歌ってもいいと思うけど、いろんなしがらみはありますよね。それに、いくら『反対、反対』と言っても『あなたもエネルギーなくなったら歌っていられないよ』と言われちゃう。
─レコード会社が原発関連のことを歌ってはいけないと言っているわけではないんですね。
それはない。レコード会社は、ほとんど関与しないです。できた歌が原発どうこうという場合、内容によっては関わることはある。
─なるほど。
私は、そうした問題に触れるのなら、アーティストもそれなりに勉強をしたほうがいいと思うんです。レコード会社に全部を任せてしまうのは不利だと思う。ディレクターがどこまでそうした問題に対して敏感か、感受性があるかわからないでしょう。それでも出すなら、自分で弁護士をつけるくらいの覚悟をしたほうがいい。じゃないと、『思いつきでやったんじゃないの?』と言われてしまう。それは残念ですから。
─表現する側もそれなりに覚悟して、戦う姿勢でやらないと。
そう。アーティストがもっと土台をがっちり作って出せばいいんです。とはいえ、レコード会社が発売するのだから、もちろん責任はある。クレームを受けるのもレコード会社です。だから、アーティスト側と周辺も含めた両方が、努力していかなくてはいけない。
─石坂さんは、今後、もっと自由な表現ができるようになるためには、何が必要だと思いますか?
音楽の表現で問題になるのは、ほとんどが歌詞です。私は、歌詞を「詞」じゃなくて、「詩」にもっていかないといけないと思うんです。その努力をもっとした方がいい。例えば、表現者という時、ビートルズにはジョン・レノンという表現者がいる。ほかのバンドにはいない。要は表現者と言えるような人がもっと増えないといけないと私は思いますね。
カバーズ
RCサクセション
RCサクセションの洋楽カヴァーアルバム。洋楽ヒット曲にオリジナルの日本語詞をつけた楽曲を収録している。原発について歌った「ラヴ・ミー・テンダー」と「サマータイム・ブルース」などが問題になり、当時の所属会社東芝EMIからは発売できなかった。1988年6月22日付けの新聞広告で「素晴らしすぎて発売出来ません」と掲載した。

冬の十字架
冬の十字架
忌野清志郎 Little Screaming Revue
KEIICHI ISHIZAKA
KEIICHI ISHIZAKA
石坂敬一 ○ 1945年、埼玉県生まれ。慶応大学卒業後に入社した東芝音楽工業(後に東芝EMI、EMIミュージック・ジャパンに改称)で、ビートルズ、ピンク・フロイド、邦楽では松任谷由実、長渕剛、矢沢永吉などを担当。その後、ポリグラム(現ユニバーサルミュージック)を経て、2011年、ワーナーミュージック・ジャパン代表取締役会長 兼 CEOに就任。14年に同社の名誉会長に就任し、同年に退任。