両党候補、「反TPP」競い合う
【ワシントン清水憲司】米大統領選は、民主、共和両党の候補者指名争いの山場となる「スーパーチューズデー」を3月1日に控え、日米など12カ国の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)への反対論一色の様相になってきた。自由貿易は「製造業を衰退させ、国内の雇用を失わせた」として、両党とも候補者がTPP反対を競い合う展開だ。
「TPPは最悪だ。米国を打ちのめす第一の方法は(貿易相手国の)通貨安だ。(米建機大手)キャタピラーは日本のコマツとの競争に苦しんでいる」。不動産王ドナルド・トランプ氏は今月中旬の演説で、TPPが参加国の通貨安への対応策を示せていないとして反対論をまくし立てた。序盤4州で3勝し、共和党の指名争いで先頭走者の地位を確立した。
共和党は自由貿易の支持者が多いが、大統領選では「TPP支持」は、候補者にとってマイナス材料だ。自由化による国際競争の激化で国内企業の経営体力が弱まれば、雇用に悪影響が及ぶとの連想を生みやすいからだ。
主流派に近く、2位につけるマルコ・ルビオ上院議員は比較的TPPに前向きとみられるが、3位の保守強硬派でTPP反対のテッド・クルーズ上院議員の陣営はインターネット上に「(TPPは)ルビオ氏とオバマ大統領の貿易協定だ」とするページを開設、ルビオ氏を攻撃する。TPP支持のジェブ・ブッシュ氏の撤退も論戦を反対論へと偏らせる。
大統領選を覆う「反TPP」の波を受け、共和党では米通商代表部(USTR)元代表のポートマン上院議員が今月、「より良い合意が必要」と表明。ただでさえ小差が予想される議会承認は賛成票が減るばかりで、「(TPP承認に必要な)過半数の支持を得られるか分からない」(ライアン下院議長)状況だ。
一方、民主党は国務長官時代に交渉の一翼を担ったヒラリー・クリントン前国務長官が候補者指名争いをリードする。「反TPP」を旗印に、将来の雇用に不安を感じる若者の支持を集めるバーニー・サンダース上院議員に「嫌々TPPに反対している」と挑発されると、クリントン氏は23日の米紙への寄稿で、中国や日本を名指しして「為替操作に断固たる措置を取る」と対抗措置の導入を表明し、TPP反対の姿勢を強めた。
TPP承認をめぐる議会審議は11月の大統領選後に持ち越される可能性が高い。推進派は「クリントン氏は、大統領選に勝てば、賛成に転じる」(全米商工会議所のドナヒュー会頭)と、選挙後の情勢変化を見込むが、予断を許さない情勢が続きそうだ。
【キーワード】TPPの発効手続き
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の合意内容が実際に効力を発揮する「発効」の要件は、協定で定められている。2月4日の署名から2年以内に全12カ国が国内手続きを終えればその60日後に発効。それまでに手続きが終わらない国があっても、6カ国以上が手続きを終え、手続きを終えた国の国内総生産の合計が全体の85%を超えれば発効となる。このため経済規模の大きい日本と米国の国内手続き完了が不可欠となっている。日本政府は今国会で手続きを終えたい考えで、3月に特別委員会を設置、4月から審議を始める見通し。TPPに対する反対論が依然として根強い米国での承認が発効のカギと言われており、日本など各国が注視している。