時代の正体〈264〉辺見庸さんに聞く(上) 一人であらがえるか
- 特報|神奈川新聞|
- 公開:2016/02/26 12:10 更新:2016/02/26 18:40
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「1強状態」の安倍晋三政権が私たちの住む国の根本である憲法を変えようとしている。政治家の言葉がますます荒くなる中、そうした声への批判を自ら規制するような空気が今、醸成されてはいないか。一体何が起きているのだろうか。近著で、大勢に流されやすい日本人の底流にあるものを見つめ、深い問いを発した作家・辺見庸さんに聞いた。
「目を向けるなと強制されているわけじゃない。皆でそうした。それがこの国のすさまじさと思う」
日中戦争に突入し、南京大虐殺の起きた1937年に焦点を合わせ、あの時代を徹底して掘り下げた「1★9★3★7(イクミナ=征くみな)」を昨年書き上げた。
同書で「皇軍」兵士として中国戦線に立った父の記憶をたどった。自分の身体に引きつけ、歴史を考えるべきだと思ったからだ。
だが、父は生前、中国でのことを語らず、自身もたださなかった。「おそらくは同罪なのだ。訊(き)かないこと-かたらないこと。多くのばあい、そこに戦後の精神の怪しげな均衡がたもたれていた」と辺見さんは記す。
中国人の側から南京大虐殺を描いた堀田善衛の「時間」、中国各地を転戦した武田泰淳が戦後に書いた「審判」「汝(なんじ)の母を!」といった小説、兵士らの証言記録をつぶさに読み解いた。皇軍、つまり、父祖たちはおびただしい数の人々をさまざまなやり方で殺し、強姦(ごうかん)し、略奪した。
「気まぐれに非戦闘員を殺したことはあるか」「強姦したことはあるか」「部下の殺人、強姦を知って黙認したことはないか」「中国人に銃剣を突き付けて近親姦を強制し、のちに焼き殺したという犯罪を耳にしたことはあるか」
こうした問いをなぜ父にしなかったのか。辺見さんはそこに自身の「卑劣さ」を見る。多くの日本兵は戦後、日中戦争での虐殺、放火、略奪、強姦を伏せたまま生きた。
語らず、問わず。その「国家的黙契」に自分も加わっていたと語る。
昨年10月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に、中国が申請した「南京大虐殺の記録」が登録された。日本として認めていない「犠牲者30万以上」という中国の主張が既成事実になるとして、政府はこれを非難した。
今、日本は負の歴史の消去、修正主義がはびこる。
自身を含めた戦後の日本人の「黙契」が、それを許す今の状況を生んだといえないか-。辺見さんの重い問い掛けだ。
「目を向けるなと強制されているわけじゃない。皆でそうした。それがこの国のすさまじさと思う」
日中戦争に突入し、南京大虐殺の起きた1937年に焦点を合わせ、あの時代を徹底して掘り下げた「1★9★3★7(イクミナ=征くみな)」を昨年書き上げた。
同書で「皇軍」兵士として中国戦線に立った父の記憶をたどった。自分の身体に引きつけ、歴史を考えるべきだと思ったからだ。
だが、父は生前、中国でのことを語らず、自身もたださなかった。「おそらくは同罪なのだ。訊(き)かないこと-かたらないこと。多くのばあい、そこに戦後の精神の怪しげな均衡がたもたれていた」と辺見さんは記す。
中国人の側から南京大虐殺を描いた堀田善衛の「時間」、中国各地を転戦した武田泰淳が戦後に書いた「審判」「汝(なんじ)の母を!」といった小説、兵士らの証言記録をつぶさに読み解いた。皇軍、つまり、父祖たちはおびただしい数の人々をさまざまなやり方で殺し、強姦(ごうかん)し、略奪した。
「気まぐれに非戦闘員を殺したことはあるか」「強姦したことはあるか」「部下の殺人、強姦を知って黙認したことはないか」「中国人に銃剣を突き付けて近親姦を強制し、のちに焼き殺したという犯罪を耳にしたことはあるか」
こうした問いをなぜ父にしなかったのか。辺見さんはそこに自身の「卑劣さ」を見る。多くの日本兵は戦後、日中戦争での虐殺、放火、略奪、強姦を伏せたまま生きた。
語らず、問わず。その「国家的黙契」に自分も加わっていたと語る。
昨年10月、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界記憶遺産に、中国が申請した「南京大虐殺の記録」が登録された。日本として認めていない「犠牲者30万以上」という中国の主張が既成事実になるとして、政府はこれを非難した。
今、日本は負の歴史の消去、修正主義がはびこる。
自身を含めた戦後の日本人の「黙契」が、それを許す今の状況を生んだといえないか-。辺見さんの重い問い掛けだ。
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