中国の戦闘機用エンジン開発インフラについて

以前のエントリで、日本には戦闘機エンジン開発のインフラが整っていないことを示した。
具体的には推力15トン級の高空試験設備(ATF)がないということだ。
では、諸外国はどうなのか。
防衛省・自衛隊の平成14年度政策評価書「エンジン高空性能試験装置」の参考資料に、下表が示されている。
table
表中「空力推進研究施設」となっているのが東千歳に整備されたATFだが、空気流量70kg/secで、上限が5トン級に留まることは明らかだ。
他方、欧米のATFはケタ違いの能力を持っており、アメリカの施設などはF-35に搭載されるような推力20トン級エンジンにも対応可能だ。さすがである。

では、航空先進国と呼ばれる欧米各国ではなく、近隣諸国ではどうなのか。
特に中国では、既に推力13トン級のWS-10を実用化しており、更に推力15トンを超えるWS-15の開発も進んでいるとされている。
中国には戦闘機用エンジンを開発できるATFはあるのだろうか。

答えを言うと、少なくとも中国は推力13トン級に相当するATFを保有しており、WS-10はこの施設を使って開発されたと思われる。
先の資料には示されていないが、米国空軍が開示した資料に、その存在が示されている。
タイトルは「CHINA’S HIGH ALTITUDE SIMULATION TEST STAND FOR AIRCRAFT ENGINE UNDER CONSTRUCTION =中国が建設中の航空機エンジン用高々度試験装置」とあり、米国の防衛技術情報センター(DTIC)のサイトでPDFを閲覧できる

report
1988年に作成されたこの資料は、その前年に出された中国の刊行物を翻訳したものだ。
これによると、中国南西部に第101高々度設備(No.101 High Altitude Stand)と呼ばれるATFが建設されており、空気流量は120kg/sec、最大速度2.5マッハ、高度は25,000m(82kft)まで試験可能だという。
前掲の表にこの施設を書き足すと、下のようになる。
table2
この施設、建設着手はなんと1970年とされ、文化大革命で工事進捗は滞ったが、1980年には初期段階の試験が行われたと書かれている。
やっと最近になって5トン級ATFを整備した日本と比べれば、中国が非常に早くから航空機エンジンの自国開発を念頭に置いて、努力してきたことがわかる。
現在中国が開発中のWS-15を想定すると、このATFでもやや力不足の感があるが、おそらく既にこれよりも大規模なATFが建設されているのだろう。

巷間、中国の航空機は皆ロシア機や米国機のコピーだとか、中国には独自開発能力がないなどという戯れ言も耳にするが、こうした現実を知っていれば、彼らの技術力を見下すようなことはできないはずだ。
既に、中国の航空機開発能力は、その環境と経験において、日本を凌いでいることは明らかなのである。

関連してるかもしれない記事:


2 thoughts on “中国の戦闘機用エンジン開発インフラについて

  1. どうもお久しぶりです

    中国に関しては驚きもあまりないですね。あの時期ならソ連に見捨てられてますし、独自開発しか生きる道がなかった状態ですからね。中国をバカにするのはダメだと思います.
    ただ遅れてる日本も、開発ストップと米国機という太いラインがあるため作る必要がなかったわけですし遅れはどうしようもないでしょう。我々はこれからですからね。航空業界には頑張ってもらいたいです。日中両国ともやったからこそ今があって、やらなければ無ですからね。

    • 的確なコメント、ありがとうございます。
      おっしゃるとおり、中国が自助努力の道を開いた背景には、ソ連との関係悪化もあるでしょうね。
      日本では、どこまで米国に依存するのか、自国開発をどこまでやるのか、戦略が今ひとつ確立されてこなかったことで、基礎インフラの整備が後手に回ってしまった感が否めません。
      いずれにせよ、これからの技術開発について、戦略的な見通しの上で着実に進めていくことが必要ですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です