モルドバのキシナウから列車で、今回のヨーロッパの旅では最後の国、ウクライナに入りました。「ウクライナ」と聞くと、「えっ、戦争? 危ないのでは?」と思うかもしれませんね。しかし、戦争状態の東部ウクライナの一部とロシアが占領しているクリミア半島以外は、安心して観光が楽しめます。
今回は、ウクライナに来たら絶対に行くべき都市「オデッサ」を紹介したいと思います。
映画ファンなら必ず行くべき「オデッサ」
映画ファンに「オデッサ」と言うと「オデッサの階段!」と即答するでしょう。名作『戦艦ポチョムキン』に出てくる「オデッサの階段」は、今でもオデッサに存在しています。
時はロシア革命前の1905年、戦艦ポチョムキン号で「食事で出されたボルシチの肉が腐っている」という理由から、水兵による反乱が起こりました。やがて、この肉の不満から国の体制に対する批判へまで発展したのです。最終的に鎮圧されましたが、ロシア史では重要な意味を持つ事件になりました。
この実話をもとにしたのが、セルゲイ・エイゼンシュテイン監督の『戦艦ポチョムキン』なのです。オデッサの階段で撮られた6分間のシーンでは、次々と人が殺され、赤ん坊が乗った乳母車が階段から転がるシーンは特に有名です(実際は、このような虐殺はなかったのですが…)。
映画を見たことがあった私がオデッサに着いて、真っ先に目指したのは、もちろん「オデッサの階段」です。
実際に上から階段を覗くと、それほど高くないように感じます。階段は横に広く、真正面には活気あふれる港の姿。階段をゆっくり降りてみると、何だか大きなステージの階段を降りているような錯覚に。そして階段を降りきって上を見上げてみると、さっきとは打って変わってものすごく高く感じるのです。「あれ、おかしいな? どうなってるんだ?」と首をひねりながら、また階段を上がってみました。
実はこの階段、人間の錯覚を利用した精密な設計がなされているのです。本当にエキセントリックなこの階段に感動すると同時に、世界でも有名な「階段」にしたエイゼンシュテイン監督の技に脱帽しました。
開放的な雰囲気の街「オデッサ」
「ウクライナの街はロシアと似ているのかな?」
そのようなイメージを持って、私はウクライナに来ました。まず、ホステルのオーナーをしているバーブシカ(おばあさん)に聞くと「オデッサはロシアとヨーロッパが混ざった街よ」と教えてくれました。しかしイマイチピンとこなかったので、とにかく街に出てみることに。
確かにロシアのような横長の威圧的な建物はありません。かといって、ヨーロッパのような洗練された街並みでもありません。食べ物で表現すると、おでんのように何でも入っているような感じです。
ウクライナ料理店は少なく、様々な料理が楽しめ、港街らしい開放的な雰囲気。港町の神戸に居住している私にとっては、とても馴染みやすい街並みでした。
Photo Credit: Максим Дорохович「Journey through the buildings」
人生初のバレエに酔いしれる
オデッサの街で一番目立つ建物がウクライナ国立オデッサ歌劇場。さっそく劇場に足を運んでみると、その日の演目はバレエ『ドン・キホーテ』でした。私は人生初のバレエを楽しもうと、一番前の座席を150グリブナ(750円)で購入。そして夕食を済ませ、19時に劇場に入りました。
劇場内はとてもゴージャスな雰囲気。天井の赤色の装飾がとても目立っています。楽団によるクラシック演奏が始まり、ステージには数多くのバレリーナが登場。まず、驚いたのは踊っている女性の足。「ものすごい筋肉だなぁ」と思わずつぶやしてしまいました。
音色と踊りが絶妙にマッチしている様子に圧倒されましたが、何よりも印象に残ったのはバレリーナ全員が楽しんで踊っていること。なんだか少し羨ましく思ってしまったほどです。ストーリーも楽しく、バレエとクラシックの絶妙なコラボレーションに酔いしれた夜となりました。
私はここへ来る前、「オデッサの観光名所は階段だけだよ」という声を聞いていましたが、そんなことはありませんでした。丁寧に街を観察すると、開放的でスラブ的、そして独特な雰囲気を持つオデッサの魅力に気付くはずです。
首都キエフ、西部の街リヴィウ、モルドバのキシナウから鉄道で1本で行けますので、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
ライター:新田浩之
Photo by:Максим Дорохович「Journey through the buildings」
ウクライナの旅行記はこちら
*Shoei Watanabe「ウクライナ オレンジ革命直後 ユーシェンコ政権下のキエフ」
*Shoei Watanabe「2007年 ウクライナ チェルノブイリ」