相手の目を見ないで乾杯はありえない!知っておくべきスロバキア式飲み会マナーとは

世界と日本における飲み文化の違いを、筆者(シマヅ)が探っていく企画、第4弾。
過去のアメリカ編台湾編ベトナム編でも、意外とわたしたちが知らずにいた「飲み文化」を知ることができた。

今回、紹介するのは「スロバキア」。
スロバキアとは、どんな国なのだろう? 
かつて「チェコスロバキア」という国があったこと、それが「スロバキア」と「チェコ」の2つに分かれたことは筆者も(かろうじて)知っている。

とはいっても、今の「スロバキア」という国がどうなのかと聞かれると謎だ。
少し調べてみたところ、スロバキアは「人口約540万人、北海道と同じくらい」「国土の広さは九州と同じくらい」だということはわかった。

あとはせいぜい、海から遠く離れていて、ビールをよく飲むことぐらい。
これはもう、スロバキアを知るためには、スロバキアの人と一緒に飲んでみるしかなさそうだ。

▲スロバキア人美女、バシさん

というわけで、今回取材に協力してくださったのは、グラフィックデザイナーのバシさん。スロバキア東部の街・コシツェの出身で、ロンドンに5年いたあと、日本に来て5 年になる筆者と同い年の女の子である。

▲彼女と友達のクミさんも一緒。クミさんは日本人。語学堪能。助かる

筆者、スロバキア流「乾杯」に、ひるむ

飲み会の舞台は、東京・代々木上原駅からすぐのチェコ料理店「セドミクラースキー」
チェコやスロバキアの料理とお酒がいただける、木の内装がとてもあたたかいお店だ。
東ヨーロッパの田舎のお家はこんな感じなのかな、と思える安らぎの空間。

そんなステキなお店なのに、道に迷った筆者。
「先に飲んでて!」と連絡を入れ、結局10分遅れでお店に入る。


シマヅ:
遅れてごめんなさい!とりあえずハイボールを!

バシさん(以下、バシ):
ないと思う。ここ、チェコ料理のお店だから。

シマヅ:
(メニューを確認。本当にない)じゃあ、とりあえずビールを……。ちなみに、飲み会に遅刻する奴ってどう思いますか?

バシ:
スロバキアに限らず、ヨーロッパの人は日本人ほど時間に厳しくないから10分くらいの遅れはたいしたことないよ。ただ私は、相手が30分遅れて来たら怒って帰りますけど。

シマヅ:
10分でよかった……。
再度お詫びし、気を取り直して、まずは乾杯!

バシ、クミさん(以下、クミ):
ナストラヴィエ(Na zdravie)

シマヅ:
え? ナス……ヴぇ……?

バシ:
日本でいう「乾杯」だよ。英語なら「Bless you(God Bless you.)!」。神の加護がありますように、といった意味。くしゃみをしたときにも言うよ。

シマヅ:
アメリカ映画などで、くしゃみをしたあと「ブレスユー(ゴッドブレスユー)」って言う場面を観たことありますけど、乾杯の意味で使われているのは観たことがありません。なにか理由があるんでしょうか?

バシ:
私はスロバキア人なのでアメリカのことは知りません。

シマヅ:
ですよね。

バシ:
あと、乾杯のときは、必ず相手の目を見てするの。もう一度やってみましょ。

シマヅ:
その「乾杯のときは必ず相手の目を見て」ってやつ、フランス人にも言われたことある! 
かなり恥ずかしいんですよ!やりたくない!!

バシ:
そこ、日本人の変なところのひとつだよ。
日本人は乾杯のときグラスを見ているけど、相手の健康を祝って、という意味で「乾杯」をするんだから、相手の目を見ていなければ意味がないでしょ。


シマヅ:
すみません……。

バシ:
でも、日本に長くいて分かったの。多くの日本人は乾杯のとき以外でも、ジッと目を合わせることがない。シマヅさんがさっき言ったように、恥ずかしがり屋さんが多いんですよね。島国だからですかね?

シマヅ:
分かんないけど、たぶんそうです。ちなみに、ほかにかけ声はないんですか?

バシ:
『チンチン(chin chin)』かな。

シマヅ:
あ、それ日本人からするとビックリするやつだ。

バシ:
イタリア語から来ているけど、スロバキアではちょっと古いかな。あんまり言わない。

似ているようで似ていない? 日本とスロバキアのお酒事情

シマヅ:
スロバキアの人って、普段はどういうところで飲んでいるんですか?

バシ:
女子がみんなで行くのはレストランかな。「飲み会」というより、食べながら飲んでお話する感じ。自分が好きなものを頼んで食べるのが基本で、あんまりシェアはしない。
日本の居酒屋みたいな大皿料理は注文しないし、小皿がない店も多いよ。

▲トングも使わない

シマヅ:
それ、(前回の)ベトナムと同じですね! 
ちなみに、お酒メインのときはどんなところに行くの?

バシ:
バーだよ。でも、スロバキアの伝統的なバーには、ほとんど食べるものがないの。ひたすら飲むだけで、食べ物があるとすれば、ソレトキー(soletky)くらい。塩味のプレッツェルって感じのものだけど、私たちからしたらそれ「昭和くさい」。

シマヅ:
よくそんな単語知ってますね……

▲お店にはなかったのでスマホで見せてもらった「ソレトキー」

バシ:
でも最近は、ある程度フードも置いているロンドン風のパブが増えてきているよ。若者はそっち行く感じ。

シマヅ:
そういえば、お酒といったらビールっていう感じなんですか?

バシ:
ああ、もちろんビールは多いし安いよ。

クミ:
1パイント50円とかで飲めるの。びっくりするぐらい安いです。

シマヅ:
“ぐらい”じゃなくて、マジでビックリです! 
日本には1パイント(500~600ml)のビールを50円で飲める店って多分ないですよ!!

バシ:
もちろんビールは多くて安いんだけど、スロバキアはワインも主流。特に私の出身のスロバキア東部は、ビールよりワインのほうが盛んなんだよ。
あと、女子はどちらかっていうとビールよりワインが好き。

シマヅ:
「女子はビールよりワイン」ってとこ、少し日本に似ていますね。ほかにはどんなお酒があるんですか?

バシ:
「ボロヴィチカ」とか「スリヴォヴィツァ」っていう、外国の人には「名物」って言われるウォッカみたいなスピリッツもあるんだけど、現地人にとってはオッサンのお酒だね。あんまり上品な人が飲むものじゃないかも。

シマヅ:
日本には上品なオッサンもいますよ!

バシ:
そうなの? 
まぁスロバキアにも上品なオッサンはいるけど。

食べ物はスロバキアより日本のほうがイイ!?

シマヅ:
日本の居酒屋ってどう思いました?

バシ:
日本の居酒屋、最高! 
日本でいちばん好きな場所のひとつ。
仕事終わりに行ってのんびりリラックスするのが本当に好き。だってフードがお酒によく合うにできているでしょ。
それ、本当にスゴイと思った。スロバキアはもちろんロンドンでも、そういうフードの作り方ってしないから。スロバキアで「飲むときに出る、ちゃんとした食べ物」は、例えばヘルメリン・スィール(helmerin syr)、チーズのピクルスかな。

▲ヘルメリン・スイール

バシ:
スロバキアでは、酢漬けのものを家でよく作る。キャベツのピクルスとか。ソーセージのピクルスもあるんだけど、名前がちょっと面白いの。ウトペネツ(utopenec)っていうんだけど、意味はsomeone who drowned.

クミ:
溺れた人、つまり水●体だよね(笑)

シマヅ:
食べ物につける名前じゃないですよそれ!

バシ:
まぁ私は普通のソーセージの方が好きだけどね。

▲普通のソーセージ。バシさんモリモリ食べていた

スロバキア流二日酔い退治法

そんなわけで、みんなで赤ワインのボトルを頼むことに。

シマヅ:
スロバキアのワイン!すっごく飲みやすい!

バシ:
これスロバキアでは有名なワインだけど、残念ながら西部のだね。ブラチスラバ(首都)の近く。

シマヅ:
西と東で文化に違いはあるんですか?

クミ:
ブラチスラヴァが東京、コシツェは大阪って感じかも。

バシ:
東京と大阪の違い、私はわかんないけど(笑)。でもスロバキアは東部と西部で、なんとなくライバル意識もあるかな。

シマヅ:
それはそうと、私、ワインは強くなくて。このままだと二日酔いになりそう。

バシ:
じゃあ、これ頼むといいよ! 
スロバキアでは、二日酔いといったらこのスマジェニー・スィール(smazeny syr)!
スィールはチーズのこと、スマジェニーはフライだから、そのまんま「チーズフライ」って料理。

▲スマジェニー・スィール

シマヅ:
二日酔いにチーズフライ!?気持ち悪くなりそう……。

バシ:
あはは。日本人はそうみたいね。だけど、チーズの成分とタンパク質と、油分が二日酔いをふっとばす、って私たちは思っている。

シマヅ:
日本だと「しじみのみそ汁」が二日酔いに効く定番です。「しじみ」というのは貝ですけど。shellfish。

バシ:
ごめん、貝はちょっと無理・・・そんなのが二日酔いに効くの? 
信じられない。

シマヅ:
いや、こっちからしたらチーズフライが二日酔いに効くのも信じられないですよ。

クミ:
スロバキアを含め、東ヨーロッパの海から遠い国は、シーフードがダメって人が多いらしいよ。
ご年配だと海の魚を見たことない人もいるんだって。

日本について残念に思うこと

シマヅ:
あ、サラダも頼みましょう!グリーンサラダがいいな。

▲グリーンサラダ

シマヅ:
あれ?なんかサラミが多い。グリーンサラダなのに……。

バシ:
そうそう、日本のサラダにはお肉が載ってないよね。それ、いつもちょっと残念。料理にお肉かチーズがないって、なんだかさみしい気分になるの。

シマヅ:
いや、だって「グリーンサラダ」ですよ!?そんなに肉&チーズ文化なんですか……。

バシ:
あと、最初来たとき、お店で出てくる料理の量がすごく少ないって思った! 
ひと皿の量、スロバキアの半分ぐらいだからね。今はもう慣れたけど。日本を知らずにスロバキアから来た友達の男性はね、料理の量は少ない、パンは出てこない、本当に辛かったって言っていたよ(笑)

シマヅ:
それはなんだか申し訳ないけど……郷に入ってはなんとやらで……。

バシ:
それから日本の人たちはお酒をものすごい早さで飲んで、すぐに酔っぱらっちゃうよね。日本の人たち、お酒弱すぎ! 
そして酔っぱらって人が変わって、おかしくなったり寝たりするの! 
スロバキアだと許されないよ!法律どうのこうのじゃなく普通に迷惑なので、「帰れ!」って言われてすぐ家に帰らされる。

シマヅ:
ごめんなさい!!!

バシ:
酔っぱらってない日本の人はとても親切だし、丁寧で大好きだけどね。

日本と似ているスロバキア

▲スロバキアに行ったときの思い出を語るクミさん

クミ:
スロバキアに行くと、日本にすごく近いって思うの。道ばたでおばちゃんが「ここは私が払うから」「いえいえ私が」って延々やってたりするの。そこかしこで、「ニエニエニエ(Nie/ Noの意味)」って聞こえてくる(笑)

バシ:
あーそれやってるね確かに。

シマヅ:
日本は、おばちゃんじゃなくてもやりますけどね。

クミ:
スロバキアの人って、一見明るい感じじゃないし、フレンドリーにも見えないけど、仲良くなると食べ物なんかをどんどんくれたりする、ものすごく暖かい人たちだってわかる。

バシ:
そうかな、そうかもね。

クミ:
あと、家の中で靴を脱ぐところも。

バシ:
それは東ヨーロッパ全体がそうじゃないかな。

シマヅ:
でもたしかにバシさん、あまり異文化の人っていう感じがしませんね。


――こうして、ステキな夜は終わった。私にとって未知の世界だった東ヨーロッパだが、バシさんとクミさんのおかげで、少なくともスロバキアは愛すべき国だとわかった。
そして筆者は代々木上原駅で彼女たちと別れ、「揚げ物とかチーズとか油っこいものが多いのに、なんで太ってなかったんだろう……遺伝子の問題か? 
だとしたらズルすぎる」などと考えていたら、乗りかえる駅を間違え始発の時間になるまで知らない駅で一晩を過ごすハメになった。

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著者・SPECIAL THANKS

ライター/シマヅ

ライター/シマヅ

1988年生まれ。フリーライター。武蔵野美術大学造形学 部芸術文化学科を卒業後、2年ほど美術業界を転々としていたが現在は主にWEB上で文章を書き生計を立てている。女性向けコラム、インタ ビュー記事、グルメレポート、体験記事など、幅広い分野で執筆活動を行う。
https://twitter.com/Shimazqe

編集/Concent編集部