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病める無限の芸術の世界

芸術に言い訳する方法ばかり考えています

フリースタイルダンジョンについて思うこと

その他

今フリースタイルダンジョンが流行ってますね。
テレ朝火曜深夜のフリースタイル番組です。

はじめは番組の存在を知らなかったけど、一週目があったときに大学のヒップホップ聴かない友人が山下ことACEのキャプチャをツイッターにあげてて、それで「なんでACEがキャプられてんだ?」ってなって、その人に聞いて調べてみて番組知った。

普通にアツいし普通にヤバイし、毎週見てた。

ここ2, 3週間くらいで、かなりTLで見かけるようになった。
アルファのツイッタラーもばんばん言及してるし、流行ってると間違いなく言える(ちなみに、ネットでヒップホップが言及されるときは大体「ラッパーは感謝ばかりしてるな」と2ちゃんねらーが言うくらいか、ジブさんの「東京生まれ、ヒップホップ育ち、悪そうな奴は大体友達」が揶揄されるかが基本だったと思います*1)。

実は、ヒップホップブームってのは、かつてもあった。
ジブさんとかライムスターがシーンを作ったとこで一般の人にも人気でたKREVAとかが出てたときとか。
けど、これまでの言及は馬鹿にされるときばっかりと言ったように、ヒップホップが日本の音楽シーンに定着してるかと言われると、微妙に定着してない。
たぶん、Hilcrhymeとかファンモンとかで、微妙に存在はしてるけど、定着してるよねとは言いがたいのがヒップホップファンの実情だと思う。

そこには、ヒップホップという文化(大事)の本質が強く関わってる。

そんで、それが理解されてないから、流行ってても今後はしぼんでくだろうなという感じがする。

今の受容を見てから説明を試みる。
ヴァイヴスだけで書いてるから荒いし適当なのでそこはごめんなさい。

少なくとも、ヒップホップにおけるフリースタイルダンジョンは、かなり特殊な受容をされてる。

まず、基本ネットで広まってる。
Youtubeにアーカイブで上がってるってのがでかいと思うんだけど、ネットの言及や小さい記事から広まっていった印象がある。
まぁこれは今はほとんどのものがネットから流行ってくって現状があるから仕方ないのかもしれない。
けどこれは結構特殊な感じがする。
なぜかというと、ネットラップがそこそこ流行った頃*2くらいから、ネットとストリートみたいな構造が地味に存在してるから。
高校生ラップ選手権みたいな、ネット世代の人たちの大会でも、ネットラッパーは馬鹿にされがち(僕はANATOMIAくんもILL-Cくんも嫌いでないです)。
それこそ高校生ラップ選手権はティーンの人しかでないので、高校生ラッパーのファン(自身もティーン)とかは高校生ラッパーのアカウントとかフォローしたり、追っかけみたいなのをするのも普通になってる。

それはあくまで、ネットを使ってるだけでネット的な受容ではない。
まぁ音源買ってLIVEに行ってっていうのが基本的な手段なのは変わりなし。

けど、フリースタイルダンジョンは、ネット的な受容にもばっちり成功してるのがさらに特殊。
それまでもネット使った宣伝は普通にあった。けど、フリースタイルダンジョン見るまでヒップホップ知らなかった人が存在してる時点で成功してなかったのもわかる。Libraの(大事)UMB youtubeとか。
ネット的とざくっと言っちゃいましたが、簡単にいうと、「色んな人に色んなことを適当に言いながら受容されていく」のが凄く達成されてる。
例えば(僕はドン引きしましたが)、いまやネットの世界の一角を色んな意味で大きく陣取っている腐女子層にも受けてる。
モンスターのカップリングをしたり、キャラ付けしたりしてる(おそ松さんがキャラ立ってんのと一緒で、キャラ立ってるからカップリングしやすいよね)。
他には、小さな批評みたいに構造をマンガと対比させて若き天才T-Pablow、二枚目サイプレス上野、抜群の実力を持ったR - 指定、ボスキャラ漢、ラスボス般若みたいなのも見ました。
あとは物語一般の構造、「こんなもんか〜」「実力発揮してく」「大物登場」「ラスボス登場」「若手の正当」みたいなのにかこつけて説明してるのも結構みた。
僕はそういうのを好んでみようとするタイプではないのですが、30分ツイッター検索しただけであれよあれよと出てきた。

すごい。
流行ってるなと思いました。

一方で、こりゃまたヒップホップは日本に根付かずに少ししたらしぼんでくだろうなと思いました。

なんでかというと、ここにヒップホップというものそのもののあり方が関わっています。

ヒップホップというのは、まず「ラップ」ではありません。

ラップというのは、「押韻」をしながら言葉を音楽にのせる歌唱方法全般のことを言います。
だから吉幾三から水曜日のカンパネラからR - 指定から電波少女まで、全部ラップ。

それに対してヒップホップというのは、文化です。
今はまだ、MCバトルのラップの部分(それと見る人だけが見て取ることのできるカップリングとか漫画的構造とか)が流行ってるだけで、こっちがはやってないんだろうなと思います。
文化というのは定義が難しいしできるもんでもないので、僕も箇条書きみたいに条件を書いてくだけになりますが、ここらへんを外しているのはヒップホップとみなされないでしょう(芸術の定義のクラスタ説みたいな感じ、というか複数条件の選言的定義一般みたいな)。
フリースタイルダンジョンとからめて説明します。
あとUSラップの話じゃないので、ブラック性とかそういうの抜きにしていきます。基本の基本みたいな。

  1. ラップがある。
    これはまぁ基本です。ラップがないやつをヒップホップと呼んでいる事例はさすがに見たことないです。結果として韻踏めてないMCバトルとかはあるけど、さすがに楽曲単位では知らない。
    さすがにフリースタイルダンジョンに呼ばれるような人でラップができない人はいないので、ここは問題なし。
  2. 文脈をすごく重んじる。
    ここがかなり今のフリースタイルダンジョン受容に欠けてるとこ。
    一言で言って、ヒップホップは引用と奪用の織物です*3
    ぶっちゃけ!
    この点を抑えずにヒップホップについて行われる語りは全部ダサいっすよ。少なくともヒップホップ的なヒップホップの語りではない。
    どういうことか。
    rec1からフリースタイルダンジョンを見てきた人は、最初こんなもんかーって感じだと思う。おもろいけどね。
    熱くなってくるのは、CHICO CARLITOとか焚巻が出てきたあたりから。
    たしかにチコカリはアツいっすね、Libraの(大事)UMBもとったし、ラップうまいし。
    そんでそれまでの挑戦者と比べて圧倒的にうまいチコカリが、バンバン駆け上がって、rec1で出てくることのなかったR - 指定(実力は聖徳太子ラップで証明済み*4)と当たる。
    アツいっすよね。
    1verse目、チコカリもアツいしRもアツい。
    2verse目、チコカリがちょっと外したところをRが実力で叩きのめす。Rカッケー。
    いいっすね。
    じゃないんですね。
    違うんですよ。
    チコカリはあからさまラップもうまいけど、ヒップホップ度もダンチなんですよ。
    チコカリは、サ上戦の1verse目の入りから、がっつりサンプリングなんですよ。
    サンプリングっていうのは、DJが作るビートについても、ライミングについても言われるもので、要は先人のいいところをパクるというやつです。
    パクるんだけど、騙して自分のものとして出すんじゃなくて、自分のものと混ぜ込んで、新しいものとして出すことね。
    『24bars to kill』という漢さんも出てる曲の、まるっきり入りのANARCHYのところをサンプリングしてます。ちなみに般若さんも入ったremixもあるよ。
    しかも、サ上はしっかりラストで「24barsでkillするだけさ」と返してる(負けるけど)。
    そういうのも含めて、勝敗がついてる。
    それがわかんないとヒップホップのよさは全然分かんないっすよ。
    いとうせいこう*5も言ってたけど、ヒップホップのクレバーなところはここにある。し、そのクレバーなところがわかんないで楽しんでるのは、楽しいけどヒップホップじゃないし、クレバーじゃない。

  3. ファッション、生き様的なものと関わっている。
    これも大事。
    特に見返してみるとrec5とかこれめっちゃ大事。
    ヒップホップは、楽曲だけのものではなくて、文化とさっき言いました。
    うまくいえないし、ギャングスタとかオールドスクールとかでヒップホップにも色々あるんだけど、生き様で証明してなんぼみたいなとこがあります。
    僕は漢さんよりヒップホップな人間を知らないんだけど、その漢さんが9sariから出した(大事)『my money long』(入場曲ね)のサビ(ヒップホップではhookと言うよ)では、
    「これはただの音楽 だが実は音楽ではない なぜなら
    スキルを身につけるだけじゃ駄目
    生き様で証明するまでは
    目的はただ一つ 札束をたらふく頂く
    氷山の一角から始まる計画で叩く電卓」
    というのがあります。
    後半には、
    「俺なら正真正銘"ラッパー" 種仕掛けもある言葉のマジシャン
    生き方こだわるこの音楽 さらさらまともにやるつもりもない」
    とあります。
    そこら辺も、ヒップホップの評価には含まれます。
    例えばですが、殺人者に殺人するなと言われても説得力ないじゃないですか、俺はA社の人間やないよ〜とか言いながらA社の人間っていうやつとかダサいじゃないですか、そういうことです。
    実例に即します。
    rec5、gadoroと漢さんのバトル。
    gadoroいきなり「サラサラまともにやるつもりもねぇ、命さながらで掴む夢」と固い韻で入ります。
    そりゃ固いですよ、サンプリングですもん。
    けど、これは漢さんが所属するMSCの楽曲「音信不通」のサンプリングだから、いきなり漢さんへのアッツイリスペクトから入ってる。
    続けて、「新宿のアウトロー」これも漢さん。
    続けて「拡声器集団に投げ込んでやるぜライムの手榴弾」拡声器集団とはMSCのこと、「集団」と「手榴弾」は『24bars to kill』のサンプリング。
    しかも最後は「破り捨ててやるぜお前の『ヒップホップドリーム(漢さんの本)』」。
    リスペクトがめっちゃ篭ったアッツイdis。
    漢さんの返し、これが重いの重いのなんの。
    言×the answerに「言葉が軽い」とか言ってたときの重さってのはこれですよ。服がどうこう言ったとかではなくて、こういう重みなんですよ。
    要約すると「まだドリームはかなってないから破くこともできねぇ」というものです。
    これ、実はめっちゃアツいんですよ。
    『my money long』のとこでも、「札束をたらふくいただく」とか言ってるじゃないですか。
    漢さんのドリームは全然かなってないんですよ実際。
    2/24日にも会見してたけど、漢さんはMSCとしてCD出してたかつての所属レコードLibra Recordと訴訟してます。
    何されてたかというと、売上未払い。
    詳しくは『ヒップホップドリーム』かyoutubeにあがってる会見を見よう。
    で、全然お金もらってないと。だから訴訟に勝ってこれまでの「札束をたらふくいただく」必要があって、9sariという自分のレーベルをのし上げてかなきゃいけないんですよ。
    全然ドリームかなってない。
    だからあの返しは結構重い返し。
    けど漢さんクリティカルで負けちゃう。
    だけど、gadoro、終わった後に漢さんに一礼(gadoroはLibra嫌いでLibraのUMBにも出てない)。
    漢さんもgadoroには全然怒ってない。
    アツいし重いし、けどすっきりした試合。
    けど、晋平太には怒ってんだよね。
    gadoroと漢さんの試合の前にジブさんが言った「漢、いつもと違うね、余計なこと聞かない方がよさそうですね」に対して、漢さんは「聞いてもいいですよ、テレビに出られるならば」と言います。
    テレビに出られるならばっていうのは、Libraとの訴訟のこともあって、Libra側の人間である晋平太とのいざこざや、UMBという商標をどうするかという問題がある*6から言った言葉。
    実際そのあと見てみてください。晋平太だけ笑ってないので。
    だから、そのあとでの「ドリームかなってないから破けない」は本当に重い。
    漢さんは、Libraでの扱いにすごい怒ってるから、『my money long』でも
    「やっぱり法律犯したり 人騙したりはせずに金儲け
    アホくさいけど 満更バカには出来ない」
    と言ってます。そう考えると、晋平太のやってることは全然ヒップホップじゃないし、そこに怒ってるあの漢さんのバースは重い。
    そこら辺わかるかわかんないかで、「えー漢さん負けたのなんで〜」的な反応じゃなくて、あれがどんだけアツかった重い試合かってのが初めてわかるようになる。

ここまで言えばなんとなく(僕の熱量のうざさも含めて)わかったと思います。
ラップだけじゃないんですよヒップホップは。

というのが言いたかったことです。
けど、R - 指定が新譜の中の一極『みんなちがって、みんないい』で言っていたように、色んなものがあっていいと思います*7
そして今のフリースタイルダンジョン人気は、一ファンとしてすごく嬉しい。
まわりで普通にヒップホップの話ができるってだけで嬉しいですよ。
好きな音楽は?ヒップホップです。あ、感謝とか重んじるタイプ?リスペクト?プチョヘンザ?的な扱いはもう嫌なんですよ。

だから、フリースタイルダンジョン受容は、どんな形であれ嬉しい。
けど、仮にこんなに流行っててもヒップホップが根付かないとしたら、それは寂しい。
たしかにこんなに重たい文脈押さえるのは大変だと思うけど、いずれフリースタイルダンジョンから入った人向けの鉄板アルバムまとめみたいな記事書くんで、ちょっとでも興味あったら勉強してくれ〜。輪入道が漢さんとやってるときに言った「無言の蓄積」もサンプリングなんだ〜。わかってくれ〜。

というヴァイヴスです。

*1:こういうのもあるくらい。
ヒップホップに親に感謝する曲は殆どありません - Togetterまとめ

「ラッパーは感謝ばかりしてるな」にも元ネタあるからdigってね。

*2:性格にはネットラップ全盛期とニコラップ全盛期は全然食い違うので、ニコラップ流行った頃の方が正しいです。

*3:バルトとかクリステヴァを想像した方はそれでヒップホップを勝手に論じてください

*4:聖徳太子ラップわかんないひともdigって

*5:この人めっちゃ偉大だかんね

*6:Rが三連覇したUMBは漢さんが作った大会。だけど、権利はLibraにとられちゃってる。ホント残念。晋平太は、そこら辺はっきりさせるからテレビに出るってなってたのに、実はLibraのアーティストだって分かって、漢さんはすごく怒ってる。まぁ漢さんがテレビに出てるって自体やばいんだが。

*7:けどこれ、色んなスタイルのラッパー(ヒップホッパーではない)をどんどん呈示していく曲で、最後「みんなちがって、みんないい」でまとめるんですけど、その皮肉的性格は誰を揶揄ってるかわかんないとわからないという、すごいヒップホップ色の強い楽曲。すごい。
ちなみに、僕の感じだと
言×the answer
CIMA
HIDADDY
チプルソ(saluかと一瞬思った)
わかんない(抹かな?と思ったけどラップのタイプは違う、jinmenusagiかとも思ったけど歌詞のタイプが違う)
Charles
コムアイ(daoko感もある。コムアイは顔可愛いし)
ファンモン
呂布カルマ
MC松島(saluかと一瞬思ったけど)
KOHH
っぽいタイプのやつらがそれぞれ揶揄されてるんで、これらそれぞれを知らないとよくわかんない。